第6話 偶然の再会ですわ

 久しぶりに屋敷の外に出ることが許された日、わたくしは心を弾ませておりました。ナナリーさんと共に市場へと足を運び、必要な物資の買い出しに精を出していました。新鮮な野菜や果物、そして屋敷で不足していた日用品を手際良く揃えることができて、わたくしは小さな達成感に満ち溢れていましたわ。


 買い物を終えたところで、ナナリーさんがわたくしに提案してきました。


「エリちゃん、ちょっとだけ街を楽しんでいきましょうよ! あなたもずっと頑張ってるんだから、たまには息抜きも必要ですわ」


 わたくしはためらいながらも、「でも、アレクサンドル様に……」と小さく呟きましたが、ナナリーさんは穏やかに微笑んで、わたくしの心配を払拭してくれました。


「大丈夫よ! エリちゃん……時間までに戻れば問題ないわ、それに、アレクサンドル様もあなたがたまには外出することを望んでいるのよ」


 ナナリーさんの言葉に背中を押され、わたくしは彼女と共に近くの布地屋へと足を運びました。店内は色とりどりの服や布地で溢れており、わたくしはしばしの間、仕事を忘れて夢中で美しいドレスを眺めることができました。ナナリーさんはわたくしの隣で様々な生地に手を触れ、時折わたくしに似合いそうな色や柄を勧めてくれました。


「この青はエリちゃんの瞳を引き立てるわね!」


 市場の賑わいの中、ナナリーさんと共に屋敷のための物資を調達していたわたくしは、ふと彼女の美しさに思いを馳せました。彼女は高貴な家から奉公の修行に来ているという話で、屋敷ではその美貌と優雅な振る舞いで知られていました。わたくしと比べると、まさに月とスッポン、天と地ほどの差があると自覚していました。


 布地屋で、ナナリーさんはわたくしに似合うという青いドレスの布地を手に取りましたが、わたくしは心の中でため息をつきました。その布地はわたくしよりもナナリーさんにふさわしい美しいものでした。


「このドレスは私なんかには似合いませんわ……」

「エリちゃん、そんなに自分を低く見る必要はないわ! あなたはとても可愛いのよ。もっと自信を持ちなさい」


 ナナリーさんの言葉にはいつも励まされましたが、わたくしにはその自信が持てませんでした。


 しかし、ナナリーさんの温かい励ましに少し背中を押され、気分が晴れやかになって店を出ました。すると、そこでわたくしの目に飛び込んできたのは、かつての婚約者エドモンド様とアメリア嬢が仲良く歩いている姿でした。


 わたくしの胸は痛みで締め付けられましたが、エドモンド様とアメリア嬢には見つからないように、わたくしとナナリーさんはすぐに人混みに紛れました。わたくしの心は再び曇り、傷ついた気持ちを抑えるのが精一杯でした。

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