　日がな一日、アレクサンドル様の屋敷での仕事は、まるで終わりを知らない川のように続きました。

　ある日の朝、アレクサンドル様はさらに厳しい仕事をわたくしに命じました。

「エリアンナ、屋敷の裏庭にある古井戸の修理をしてくれ。そして、夜までには庭の噴水も直しておいてほしい」

　わたくしは、そのような重労働は男性の仕事であり、女性にはなかなか荷が重いものですが、わたくしは恩あるアレクサンドル様の命令には逆らえず、ただひたすらに頷きました。

「はい、アレクサンドル様。わたくしにお任せくださいませ」

　日が暮れると、わたくしは井戸の縁を固め、噴水の詰まりを取り除く作業に精を出しました。ナナリーが手を差し伸べようとしましたが、わたくしは彼女に安心して自分の仕事に専念するように言いました。

　わたくしは汚れても、傷ついても、一つのことを成し遂げる喜びを知っているのですから。

　ある晩、アレクサンドル様はわたくしを呼び止め、不意に問いかけられました。

「エリアンナ、お前はこれほど辛い仕事をしているのに、なぜ何も言わないんだ？」

　わたくしは一瞬、驚きましたが、すぐに持ち前の明るい笑顔を浮かべて答えました。

「アレクサンドル様、わたくしは容姿も平凡で、何も特別な力を持っておりません。ですから、このような名家でお仕えできるだけで、とても幸せですの」

　アレクサンドル様は、わたくしの返答に少し目を見開いた後、意外なことを言いました。

「そんなことはない。お前は十分に可愛い。」

　アレクサンドル様の意外な言葉に、わたくしの心臓は激しく鼓動しました。その場で何と言っていいのか、さっぱり思い浮かばず、頬は熱を帯びてしまいました。わたくしは、屋敷の厳しい仕事に耐えてきたとはいえ、心の準備ができていない事態に直面し、少々おろおろとしてしまいましたわ。

「そ、そんなにお褒めいただいて、恐縮ですわ……アレクサンドル様」

　声は震えておりましたし、まるで蝶がお腹の中で舞っているかのような不思議な感覚に襲われていました。

　わたくしは急いで視線を逸らし、何か作業をしてごまかさなければと、手近にあったテーブルクロスの折り目を整えるふりをしました。しかし、手は震えていて、クロスの端を上手く折ることができませんでした。

「本当に、あなた様のおっしゃる通り、わたくし、まだまだ修行が足りませんわ……」

　わたくしは慌てた様子で答えながらも、心のどこかでアレクサンドル様の言葉が嬉しく、その優しさに少し胸がときめいていました。

　アレクサンドル様はわたくしのそんな様子を見て、一瞬口元に笑みを浮かべましたが、それをすぐに抑えて、深い眼差しでわたくしを見つめていました。そして、何も言わずに静かに部屋を去っていかれましたわ。

　わたくしはその言葉に顔を真っ赤にしてしまいました。アレクサンドル様からそんなふうに言われるとは思ってもみなかったのです。しかし、わたくしは淑女としての品を保ちつつ、ほんの少し照れた声で答えました。

「アレクサンドル様……どうもありがとうございます……でも、わたくしは自分の仕事に誇りを持っておりますので、どんなことでも一生懸命に取り組むつもりです」

　その言葉がどういう意味だったのか、わたくしにはちょっぴり不思議でしたが、彼の温かさが心に響き、これまで以上に屋敷での仕事に励む力を与えてくれたのでした。

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