第4話 必死に働きますわ

 屋敷での日々は、わたくしにとって連続する試練のようなものでした。アレクサンドル様からの命令は次々とわたくしに降りかかり、そのたびにわたくしは自分の中の力を見いだし、それに立ち向かわねばなりませんでしたわ。


 かつてのわたくしは、伯爵家の娘としての生活の中でさえ、地道な作業を行うことに喜びを感じていました。刺繍にしても園芸にしても、わたくしはいつも黙々と取り組むことを好んでおりました。そのため、アレクサンドル様の過酷な要求にも、わたくしは文句一つ言わずに対処することができたのです。


「エリアンナ、屋敷の図書室の本を全て整理し、目録を作成しろ」


 アレクサンドル様のそんな要求に対しても、わたくしはただ頷くだけでした。


「はい、アレクサンドル様! 貴殿のご意向に沿うよう精一杯努めますわ」


 図書室の本は何千冊もあり、その全てをわずか一週間で整理するというのは、普通ならば不可能に近い作業です。しかし、わたくしは夜遅くまで灯りの下で働き、一冊一冊手をかけていきました。埃にまみれ、指先が痛むこともありましたが、その痛みさえもわたくしは喜びとともに受け入れたのですわ。


 同じメイドのナナリーが心配そうに声をかけてくれましたが、わたくしは微笑を返しました。


「大丈夫ですわ、ナナリー! この作業はわたくしにとって、過去を思い出すようなもの。それに、何事もきちんと成し遂げることに大きな満足を感じますの」


 一週間後、アレクサンドル様は図書室に足を運び、整然と並べられた本と完璧な目録を前にして、わずかながらも満足げな様子を見せられました。


「なるほどな、お前のこの緻密な仕事ぶりは認める。わたくしの屋敷には、お前のような者が必要だったのだ」


 わたくしは心の中で深く安堵しました。自分の力が認められたという事実が、わたくしに新たな自信を与えてくれましたわ。そして、どんなに難しい仕事も、地道な努力と持ち前の粘り強さで乗り越えることができるという信念を、わたくしはますます強く持つようになったのです。


 その後も屋敷での日々は変わりませんでしたわ。アレクサンドル様からの雑用は終わることなく、わたくしは毎日新たな命令を受けては、それに応えるために励んでおりました。


「エリアンナ、今日は屋敷の全ての窓を磨いてくれ! そして夕食には十二人分の完璧なコース料理を用意するのだ」


 わたくしは心の中でため息をつきつつも、アレクサンドル様には恩を感じておりましたので、文句も言わず、頷くだけでした。


「はい、アレクサンドル様! お任せくださいませ」


 ナナリーはいつもわたくしを手伝ってくれましたが、わたくしは彼女に過度な負担をかけたくはありませんでしたの。彼女はわたくしに優しく助けを提供してくれたものの、わたくしはなるべく自分で仕事をこなすように心がけておりました。


「エリアンナ、こんなに一生懸命なのはわかるけれど、時には助けを求めることも大切よ」


「いえ、ナナリー! わたくしはここで働かせていただいておりますから、自分の力で出来ることはわたくしがしなければなりませんわ」


 そして、わたくしは窓磨きから料理の準備まで、どんな仕事も丁寧に、そして迅速に行うことで、アレクサンドル様の信頼を少しずつ勝ち取っていったのです。夜遅くまで続く作業に疲れは見えましたが、それでもわたくしは決して嘆きませんでした。わたくしはこの屋敷での立場を確立し、失われた尊厳を取り戻すために、どんな困難も乗り越える決意をしておりましたわ。

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