第13話
自室に入った椿は、既に敷かれている布団目掛けて倒れ込む。
椿の真似をするように黄金もぽふりと布団に寝転がる。
「思わずはしゃいじゃったなぁ」
先程の事を思いだし、赤面する。子どものように遊んだのが随分と久しぶりだった。だが、恥ずかしいのはそのせいではない。
「裸だってこと、忘れてた……」
「きゅっ、きゅ」
「絶対玲さんに見られたよね……あぁ、どうしよう。玲さんは何も思ってないかもしれないけど」
椿は布団に顔をうずめる。
「きゅっ! きゅい、きゅい」
黄金は布団を噛んでめくる。椿に入れと言っているようだった。
「もう寝ろって事ね? 気にしてても仕方ないか」
そう言って布団に入り込む。黄金はいつものように椿の首もとで丸くなった。目を閉じるとあっという間に意識を手放していた。
*
また、夢を見ていた。何もない場所、真っ白な空間に金の髪をした青年が立っている。彼は椿を見つけると、酷く悲しげな顔を向けた。
「貴方は……」
青年は椿の言葉には反応せず言葉を放つ。
「玲を助けてやってくれ」
「前も言っていましたけど、玲さんを助けるってどういう事なんですか?」
どうせ返答は無いだろう。そう思って投げ掛けてみたが、意外な事に青年は反応した。
「鳳仙の封印が解かれた。このままでは玲の身が危ない」
「封印って?」
「貴女には玲を支えて欲しい」
待って、と椿の呼び止める声は虚空に消えていった。
あの夢だ。目が覚めた椿はふうっとため息をつく。あれは、本当に夢なのだろうか。
不思議に感じながらも体を起こした。目は完全に冴えている。再び眠ろうと思っても無理だろう。
黄金も起きていたので、頭を撫でてやる。
すると、黄金は急に立ち上がりきゅいと鳴いて部屋の扉に向かう。椿を振り返ってまた鳴く。どうやらついてきて欲しいようだ。
椿が扉を開けると黄金は廊下を歩き始めた。道を全て覚えているかのように、歩みを進める足には迷いがない。
「黄金、どこに行くの?」
返事をするように尻尾を揺らす。
黄金についていき廊下を何度か曲がると、大きな扉がある部屋にたどり着いた。
「きゅい、きゅい」
黄金は扉を前肢で叩く。爪がかりかりと乾いた音をたてた。
「開けて欲しいの? でも、勝手に開けちゃまずいんじゃ……」
「きゅぷ、きゅぷぷ!」
黄金はぶわりと尻尾を膨らます。どうしても開けて欲しいのだと意思表示しているらしい。
椿はそっと両扉を開ける。
「何だろう、この部屋」
そこには巨大な鏡が置かれていた。鏡は曇っていて何も映さない。黄金はここに連れて来たかったのだと言いたげに椿を見上げた。
「何だか分からないけど、勝手に入るのはやっぱり良くないよ。黄金、戻ろう」
黄金を抱き上げようとする。いつもは大人しく腕に抱かれている黄金だが、今日は違った。椿の手をことごとく避ける。
「ここに居ちゃ駄目だってば」
黄金を窘めるが、言うことを聞かない。本当にどうしたのだろうかと首を捻っていると、扉の方から声がした。
「その鏡は千里鏡という」
「玲さん……。勝手に入ってごめんなさい」
椿は謝るが玲は気にしてないという風に首を振る。風呂場の事を思い出してしまって、椿の頬は赤く熟れていく。
「いや良い。そう言えばお前、前に自分を食べないのか聞いたことがあったな」
玲は黄金を抱き上げると椿に渡す。黄金は大人しくされるがままだった。
「私の生まれた所では、花嫁送りは生贄の儀式だったんです。だから私は玲さんへの供物だと思っていました」
後になって文福に生贄を要求する儀式ではないと教えてもらった。そこで感じたのは、泡沫市と風龍国の間で花嫁送りに対する認識の違いがある事だった。
「お前に本来の花嫁送りを教えてやるよ」
そう言って玲は千里鏡へと手をかざす。呪をとなえると、曇っていた鏡面に景色が映った。
「これは……」
「千里鏡は見たいものを見せる神器だ。お前に教えてやる。昔の花嫁送りを」
椿は鏡面へ目を凝らす。そこに映っていたのは、夢の中に出てくるあの金の髪をした青年だった。
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