リベス
フロースは迷っていた。
願いを叶えることが自分の存在意義だと信じて疑ったことはない。それが自身の役目であり、生を受けた理由だと思うことが、フロースにとっては自然だった。
でも、この花は必ずしも幸せを運ぶとは限らないというのも分かってきた。
願いを吐露するものは皆、とても苦しそうだった。
人一人が抱えるには大きすぎる願いを持っている者だけがフロースの目の前に現れるのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが、フロースはそこまでは理解できていない。
もしかしたら、この花は要らないものなのかもしれない。
今咲いている
夜、月を眺めながらそんなことを考えていたフロースの部屋の扉が開いた。
「リベス?」
部屋に踏み入ったのは一人の研究員で、花求者だった。
フロースが体を起こし暗い部屋を見渡すと、リベスはすぐそこまで来ていた。
「ああ、なんと美しい」
様子のおかしいリベスに、フロースはベッドの端まで後ずさる。月明かりに反射したリベスの目は虚ろで、本当にフロースを映しているのかさえ怪しかった。
「あ、あなたの願いは何?」
そんなリベスにもフロースは問いかける。問いかけてしまう。それが自分の性とでもいうように。
「間近で見るとより美しい。ああ、ずっと見ていたい。私だけのものにしたい」
フロースはこの時初めて身の危険による恐怖を感じた。この男に花を与えたくないと、強くそう思った。
近くにあった花瓶でリベスを殴る。
一瞬ひるんだ隙に逃げ出そうとしたフロースだったが、床に散らばる瓶の破片が足に突き刺さりたまらず転んでしまう。
近ずくリベスから少しでも距離をとろうとのけ反るフロースを救ったのは、異変を素早く察知した他の研究員だった。
「あいつを捉えろ!」
声と同時に部屋の明かりがつき、リベスは何名かによって取り押さえられた。
それを眺めながら、フロースは肩で息をする。
「大丈夫だったか♪」
「オクナ」
久々のオクナの声に立ち上がろうとしたフロースは、右足の激痛に顔をしかめる。見れば赤い血が細々と流れていた。
「血が出てるじゃないか♪ 救護班はやくこっちに♪」
杖をつくオクナは、おぼつかない足取りでフロースに近づく。オクナの年齢は三桁目前に迫っていた。
「オクナ、私の血って赤いのね」
先ほどまでの恐怖はどこに行ったのか、フロースはいたって穏やかに言った。指で自身の血を掬い、その赤さを噛みしめる。
そんなフロースを、オクナはぎゅっと抱きしめた。
「ごめんな♪ フロース♪」
酸塊の花言葉
――私はあなたを喜ばせる
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