リスラム

 それまで植物人間同然だったフロースに異変が起きたのは、ダフニーが来てからすぐのことだった。

 彼が来てからすぐに、フロースは声を手に入れた。

 アイリスが訪れるころには体の自由も手に入れ、真っ白な容姿と、老いないからだと、花が咲くこと以外は年相応の少女となった。

 しかしオクナは、フロースが人間になるにつれて焦るようになった。フロースと違って自分は年老いる。フロースが自由に動けるころにはもう、四十を過ぎていた。

 そんなある年、フロースの足の甲に、禊萩の芽が出た。

 この禊萩はどうやらフロースのために芽吹いたらしい。

「オクナ、私おかあさんのお墓参りに行きたい」

 九月六日。足の甲から延びる葉腋ようえきに紅紫の小さな花を多数につける禊萩は、フロースの母の命日に花を咲かせた。

 フロースは、墓の前にしゃがみ込み、パキと甲の禊萩を手折る。それを墓にそっと乗せ両手を合わせるフロースの姿は、もう口もきけぬ人形ではない。

「ごめんなさい、そして、ありがとう」


禊萩の花言葉

――純愛、愛の悲しみ

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