第127話 撮影準備

「そういえば今日の朝忙しそうにしていたけど、あたし達がライブの撮影をしている時斗真君は何をするの?」


「僕は姉さんや監督達と一緒に収録の準備をするんだよ」


「それじゃああたし達のライブは見れないんだね」


「そんなことはないよ。僕が手伝うのはライブ前だから、本番中はななちゃん達の撮影を側で見てるよ」


「それならよかった」


「どうしたの、ななちゃん? 今一瞬顔がこわばったけど? もしかして緊張してる?」


「緊張はしてないよ。斗真君があたしのライブを見てくれてよかったと思っただけ」


「どういうこと?」



 僕がななちゃんのライブを見れて安心するならわかるけど、演者側のななちゃんが安心する理由はなんだろう。

 別に僕がいなくても変わらないのに。ななちゃんはほっとした表情をしていた。



「今日はライブをする前に斗真君に言っておきたいことがあるの」


「僕に言いたいこと? それって何?」


「今日のライブなんだけど、あたしはあたしの事を見てくれる人の為に頑張るの」


「うん」


「だから斗真君、あたしの事を応援してね」


「もちろん応援させてもらうよ。今日のライブ頑張ってね」



 なるほどな。たぶんななちゃんは今日のライブの意気込みを僕に伝えてくれたんだ。

 今日のライブはこれからこの映像を見てくれるリスナーの為に頑張る。きっとそう決意したのだろう。



「(このライブを見てくれるリスナーの為に頑張るなんて、ななちゃんはプロ意識が高いな)」



 ななちゃんの言動はまさにエンターテイナーの鏡といっていいだろう。

 この意気込みで今日のライブに挑むなら、僕が心配する必要はない。

 今日のライブは絶対に成功すると思う。

 


「むぅ」


「どうしたの? 急に不貞腐れた顔をして?」


「斗真君は何もわかってないんだね」


「わかってないって、何が?」


「何でもないよ、それよりも早く行こう」



 さっきよりも機嫌が悪うくなった気がしたけど、僕の勘違いかな?

 彼女は僕の手を握ると一緒にスタジオへと入る。更衣室の前に着くまで、その手が離れることはなかった。



「そしたら一旦ここでお別れだね」


「うん。また後で会おう。スタジオで待ってるよ」



 ななちゃんはトラッキングスーツに着替えないといけない為、ここで別れないといけない。

 彼女と別れるのは名残惜しいが、更衣室に入るわけにはいかないので僕は1人でスタジオへと向かった。



「おはようございます! 今日はよろしくお願いします!」



 出来るだけ元気な声を出して僕はスタジオに入る。

 こういうのは最初の挨拶が大事なので、スタジオにいるスタッフ全員に聞こえるように声を出す。

 スタジオ内では既に姉さんや監督達が今日行われる彩音さんの3Dライブの収録準備をしていた。



「おはよう、斗真君」


「おはようございます、監督」


「おはよう斗真、ちゃんと菜々香ちゃんをスタジオに連れてきた?」


「うん。ななちゃんは今更衣室でトラッキングスーツに着替えてるよ」


「そういえばあの子、1人でトラッキングスーツを着れるかしら?」


「それは大丈夫だと思うよ。万が一1人でトラッキングスーツが着れなくても、この時間ならサラさん達も来てるから、きっとフォローしてくれるよ」



 この時間なら彩音さんやサラさんが来ているはずだし、僕達が心配しなくても大丈夫だろう。

 それにこの前もちゃんとトラッキングスーツを着ていたので、心配するだけ損な気がする。



「そういえば斗真君はトラッキングスーツに着替えないのかい?」


「着替えませんよ。僕は3Dキャラクターを持ってないので、トラッキングスーツを着ても意味がないです」


「それは残念だ。琴音ちゃん、弟君の3Dキャラクターを作る気はないのかい?」


「今のところはありません。斗真は顔を出して活動してますので、これからもその路線で売っていくつもりです」


「それは残念だ。俺は斗真君のトラッキングスーツ姿も見たかったな」


「えっ!? 監督、本気ですか!?」


「あぁ。本気も本気だよ」



 僕のトラッキングスーツ姿を見たいなんて、もしかして監督は男性のそういうのが好きなのか!?

 この人の発言を聞いて一瞬背中がゾワッとした。



「監督、冗談も程々にしてください。斗真が引いてますよ」


「ごめんごめん。ちょっとからかっただけだよ」


「大丈夫ですよ。監督が何を言いたいのかわかっていますから、気にしないでください」



 今僕がガチで引いてたことはここで言わない方がいいだろう。

 監督さんの為にもそれがいいと思う。もしこの事がバレたら、監督が本気でへこんでしまい撮影にならなくなるかもしれない。



「さてと冗談はこの辺にして、そろそろ仕事をしようか」


「はい!」


「斗真君がやることは俺が指示するから、君は指示通り動いてくれ」


「わかりました」


「琴音ちゃんも斗真君の事をフォローしてあげてほしい。斗真君も何かわからないことがあれば、俺か琴音ちゃんに聞いてね」


「はい!」



 それから僕は監督の指示に従い、大勢の映像スタッフ達と一緒に3Dライブの準備を始めた。


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