第128話 大切な人の為に(柊菜々香視点)
《柊菜々香視点》
更衣室でトラッキングスーツに着替えたあたしは真っすぐ控室へと行く。
本当は3Dスタジオに行って斗真君と会いたかったが、撮影準備の邪魔にならないように控室で大人しく自分の出番を待つことにした。
「この時間ならまだ誰もいないよね」
集合時間の1時間前に到着したので、まだ誰も控室にいないはずだ。
時間に厳しいサラさんですら常に30分前行動を心がけているらしいので、こんなに早い時間から着替えを済ませて控室にいる人なんていないだろう。
そう思い控室の中へと入った。
「おはよう、神倉さん」
「彩音先輩!? おはようございます! 今日はずいぶんと早いんですね」
「あぁ。いつもは時間ギリギリに入るんだけど、ライブの日は集中したいからいつもより早い時間に入るんだ」
椅子に座った彩音先輩はいつものおちゃらけた雰囲気とは違い集中している。
こんなに真剣な表情をする彩音先輩をあたしは今まで見たことがない。
「そういえば控室にサラはいた?」
「いなかったですよ。あたしが更衣室に入った時は誰も居ませんでした」
「なるほど。まだ収録まで30分以上あるのか。ありがとう。教えてくれて」
斗真君と一緒にスタジオに来たので、あたしが更衣室に入ったのは集合予定時間よりも早い。
なのでまだみんなが集まるのには時間が掛かるはずだ。その間あたしと彩音さん、2人で更衣室にいることになる。
「時に神倉さん、君に聞きたいことがあるんだけど?」
「何ですか?」
「今日行われる僕の周年ライブだけど、神倉さんは斗真君の為に歌うんだよね?」
「えっ!? いきなり何を言い出すんですか!?」
「違うの? 僕はてっきり斗真君の為にこの曲を歌うのかと思ったけど。勘違いだった?」
彩音さんの言う通り今日のライブは夏休み中あたしの側にいてくれた斗真君の為に歌おうと思っていた。
それは以前彩音先輩にライブの時は届けたい人に届くように歌った方がいいとアドバイスをもらったからだ。
「はっ、は~~~ん。その顔はどうやら図星のようだね」
「知ってるなら聞かないでください!?」
「ごめんごめん。斗真君と神倉さんは反応が面白いから、ついからかいたくなるんだよ」
「どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。今の神倉さん、顔が真っ赤だよ」
「嘘!? あたしの顔ってそんなに赤いですか!?」
「いや、赤くないよ。今言ったのは僕が言った冗談だから、気にしないでください」
「冗談でもそういうことは言わないでください!!」
「ごめんごめん。でも両手で顔を隠すなんて、よっぽど恥ずかしいんだね」
本当に彩音先輩は意地悪だ。私の事をからかって楽しんでいる。
サラさんが怒る気持ちも今ならよくわかる。先輩という立場でなければ、もっと怒っていたかもしれない。
「でも、僕は羨ましいよ。神倉さんの事が」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって今の神倉さん、恋する乙女のような表情をしてるよ」
「あたしってそんな表情をしてましたか?」
「うん! 僕も好きな人のことを思い浮かべた時、そんな表情が出来るぐらい人を好きになれるといいな」
「‥‥‥‥‥あたしが斗真君に片思いをしていることってやっぱりわかりますか?」
「うん、わかるよ。そんなの神倉さんの態度を見れば一目瞭然でしょ」
「やっぱりそう思います?」
「うん。気のない人に対して、あんなにボディタッチをしたり部屋に泊ることなんてないだろう。わかってないのは当の本人だけだ」
やっぱり彩音先輩達はわかってたんだ。あたしが斗真君に好意をもっていることを。
そう考えれば斗真君に対する彩音先輩の行動もよくわかる。
この人は斗真君の事はからかいはするけど、体を近づけたり密接に絡んだりしない。
そういうことをしないのは彩音さんがあたしに気を使っていたからに違いない。
「斗真君って何でもできる優しい人だよね」
「はい。それにあたしの趣味にも文句も言わずに付き合ってくれて、何かあればあたしの事を助けてくれます」
数ヶ月前の事件なんて斗真君には得なことなんて1つもないのに、あたしの事を助ける為に
あの後すぐにツイッタラーを見ていたけど、斗真君は私の代わりにたくさんの誹謗中傷を浴びていた。
「(そうなることはわかっていたのにも関わらず、あのタイミングでデビューしたのはあたしの為だよね)」
斗真君とはコラボをした時から気になっていたけど、あの事件があってからますます斗真君の事が好きになってしまった。
なのであたしは斗真君に積極的にアプローチしている。夏休み前に斗真君に趣味であるコスプレを見せたのもこのためだ。
「今日は斗真君もライブをみているはずだから、彼が神倉さんに見惚れるような歌を一緒に届けよう」
「はい!」
元々今日はその意気込みで来た。今までのお返しとまではいかないが、ずっと練習に付き合ってくれた斗真君が満足するような歌を歌いたい。
「おはようございますわ」
「おはよう、サラ」
「おはようございます」
「おはようですわ。2人で楽しそうに話していましたけど、何の話をしていたのですか?」
「実は今神倉さんの好きな人について話をしていたんだよ」
「彩音先輩!?」
「恋バナなんていいじゃないですか。ぜひ私も混ぜて下さい」
それからサラさんを交えて3人で楽しくおしゃべりをする。
そして集合時間ギリギリの眠そうな表情で控室に入ってきた秋乃さんを加えて、4人でスタジオ入りした。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます。
この作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます