第81話 新人お披露目撮影会 後編

「サラ、私も質問していい?」


「いいですわよ」


「ナナはFPSが好きって言ってたけど、何のゲームをするの?」


「あたしがやるのは主にエベックスですね」


「クラスは?」


「本アカウントはダイヤ帯です」


「それならランク帯は私の1つ下だから、2人でゲームが出来るね」


「それってもしかしてコラボのお誘いですか?」


「うん! 一緒に遊ぼう!」


「ありがとうございます。あたしもぜひ秋乃先輩と一緒に遊びたいです!」


「早速コラボが実現しそうですね。今後配信されるナナさんと秋乃のゲームコラボ、楽しみにしててください」



 この企画書を作った時はどんな展開になるのか不安だったが、どうやらこのまま和やかに終わりそうだ。

 ななちゃんは秋乃さんとのコラボも取り付けたし、この様子なら事務所のみんなとすぐ馴染めそうな気がした。



「ちょっと秋乃!! こんな所で神倉さんとコラボの約束を取り付けるなんてずるいよ!!」


「こういうのは言ったもの勝ち。彩音が黙ってるのが悪い」


「ぐぬぬ‥‥‥」


「彩音が率先してコラボをしたいなんて言うのは珍しいですね。一体ナナさんとどんなコラボ配信をするつもりなんですか?」


「それはもちろんASMRだよ。僕は神倉さんとASMRコラボがしたい!」


「ASMR?」


「ASMRですか。いいですよ。そしたら彩音さんはいつあたしとコラボしますか?」


「そうだな‥‥‥‥‥出来れば今月中には‥‥‥」


「ちょっと待ちなさい、彩音!!」


「何だよ、今いい所だったのに」


「今の話に水を差すようで悪いですが、貴方今まで配信でASMRなんてしたことがないんじゃないですか!?」


「うん、ないよ」


「それなのになんでいきなりASMRをやろうなんて言うんですか!? 自分が出来ないことをやっても、リスナーが困惑するだけですよ!?」


「ふっふっふ。サラは考えが甘いね」


「考えが甘いとはどういうことですか? もっと具体的に理由を説明してくれなくてはわかりません」


「そこまで言うなら説明しよう。確かにサラの言う通り、僕は今まで1度もASMRをしたことはない」


「えっ!? それならASMRコラボなんて出来ないじゃないですか!?」


「大丈夫だよ、神倉さん。今回君と僕がコラボをする時、僕は君がASMRをしてるのを隣で楽しむだけだから、僕自身がASMRをするわけじゃないんだ」


「えっ!? 彩音先輩はあたしの隣にいるだけですか!?」


「そうだよ! もちろん時々話しかけたりはするけど、基本的に僕は君のASMRを隣で聞いて楽しむだけさ」


「でも、それだと彩音先輩が退屈しませんか?」


「退屈なんてしないよ! それよりも僕は君のASMRを聞いて、体全体が火照ってくるような気持ちよさを生で体感したい!!」


「それはただの職権乱用ですわ!! 神倉さんには悪いですが、そのコラボは却下です」


「そっ、そんなぁ!? せっかく神倉さんのASMRを生で聞けるチャンスなのに!?」


「そういうのは配信で聞きなさい。そんな邪な理由でコラボをするなんて、ナナさんのリスナーさんに悪いです」



 昨日僕が彩音さんに言った事と同じことをサラさんにも言われている。

 あれだけしつこくASMRの事について話すという事は、彩音さんは本当にななちゃんのファンなのだろう。



「サラさん、あたしは別にかまわな‥‥‥」


「駄目ですわ!! そんな職権乱用なんかしたら、リスナーの皆さんに失礼です!!」


「サラ‥‥‥ちょっとだけ、ほんのちょっと。先っちょだけでいいから許してくれないかな?」


「絶対ダメですわ!! そのコラボ、私がどんなことがあっても阻止します!!」



 サラさんがそのような決意表明をしたところで、スタジオにいるスタッフさん達にも笑顔がこぼれている。

 きっとみんなこのやり取りが面白くて笑っているのだろう。こういう光景は僕も時折見かける。



「(こうして傍から撮影見ていると、なんだか不思議な気分になる)」



 4人でただわちゃわちゃと喋っているだけなのだが、4人のことを俯瞰して見ると1人1人の個性が溢れた撮影になっている。

 彩音さんは普段通り自分の欲望に忠実で、サラさんはその話に対してツッコミをしつつ話を進行させている。

 その中でも僕が特に凄いと思うのはななちゃんがカオスな現場にすんなりと馴染んでいることだ。

 欲望丸出しの彩音さん達に対して全く物おじしない。むしろこの場を楽しんでいるように見えた。



「そしたらナナは私といつコラボしたい?」


「そうですね。復帰直後は色々と忙しいので、出来れば7月の後半頃‥‥‥」


「ナナさんも秋乃もここでコラボする日を決めないでください!!」


「ずるいぞ秋乃!! そっちがそういう手を使うなら、僕はここで神倉さんのASMRをお願いする!!」


「こんな所でおねだりなんてしないの!! ASMRを聞きたいなら、彩音はナナさんの配信で聞きなさい!!」



 このようなハイテンションを維持しながら撮影は続いていく。

 結局この日行われたななちゃんの事務所所属を記念したお披露目撮影会は無事に終わり、姉さんと僕で編集したこの動画は後日公開されることになった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。

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