第80話 新人お披露目撮影会 前編
「アーススタジオ、新人お披露目企画~~~!!」
「いぇ~~~~い!! って、秋乃ものってきてよ!? 僕1人が盛り上がっているようで馬鹿みたいじゃん!?」
「実際盛り上がっているのは彩音1人。だから問題ない」
「そりゃないよ!?」
台本通りサラさんが進行役となり、新人お披露目企画の撮影が始まった。
今カメラに映っているのは彩音さんとサラさんと秋乃さんの3人だけだ。
予定では3人でフリートークをした後、ななちゃんを呼び込む段取りとなっている。
「それじゃあ雑談もこの辺にして、早速新しく入った新人を呼びしましょう!」
「一体新しく入ってくる人はどんな人なんだろう。考えただけでもワクワクするよ!」
「彩音、さっき撮影が始まる前に私達新人の子に挨拶されたよね?」
「そういうメタい事は言わない約束でしょ!? 何でリスナーにそんなことをぶっちゃけるの!? 場がしらけちゃうよ!?」
「もっと言うと彩音は私達より先にあの子と会ってる。ずるい」
「秋乃はそういう余計な事は言わない!! サラも僕達のことを傍観してないで、早く話を進行させてよ!?」
「すいません。こんなに焦っている彩音を見るのは久しぶりなので、もう少し放置しときましょうか」
「ちょっとサラ!? 僕に意地悪をしないでよ!?」
「もう、冗談ですわ。尺の都合もあるので、早速お呼びしましょう。それでは新人さん、入ってきてください!」
「はい!」
サラさんが呼びこんだタイミングでななちゃんが3人の輪の中に入る。
ここまでは表面上何の問題もない。ただななちゃんの表情はガチガチに固まっており、ものすごく緊張しているように見えた。
「サラ、私この子のこと知ってる」
「えぇ、彼女は今話題の‥‥‥」
「いつもお世話になってます!!」
「ちょっと彩音、お世話になってるとはどういう事ですの?」
「だって僕、夜な夜な彼女のASMRを聞いて気持ちよくなってるから、まずはそのお礼を‥‥‥‥‥」
「新たに私達の仲間になってくれるのは、個人勢ながらチャンネル登録者数が50万人を超えるVTuberの神倉ナナさんです!! みんな、拍手拍手!!」
サラさんは今彩音さんの話をさえぎって強引に会話に割り込んだな。
普通なら人が話をしている時に被せてはいけないが、こうでもしなければ彩音さんの暴走は止まらなかったと思うのでいい判断だと思う。
「みんなこんなな~~~。初めまして。本日からアーススタジオに所属させてもらうことになりました、神倉ナナです。よろしくお願いします!」
「なんとなんとなんと! 今巷で話題になってる神倉ナナさんが、私達アーススタジオのメンバーになってくれました!」
「はい! これから宜しくお願いします!」
ななちゃんはサラさん達に軽く会釈をしている。
ここまでの流れは台本に書いてある通りだ。何も問題はない。
「それではナナさん、改めて簡単な自己紹介をお願いします」
「はい、わかりました。個人勢からこの箱に入りました、神倉ナナです。特技はASMRとFPS。趣味はカードゲームです」
「そしてつい最近大炎上した、ネットを騒がす炎上クイーン」
「秋乃、あまりその事を蒸し返してはいけませんわ」
「すいません。その事について、あたしの方からことの経緯を簡単に説明させてもらってもいいですか?」
「いいですわ。それではその件について、説明をお願いします」
この撮影で僕が1番懸念している催しが始まった。
昨日の夜あの盗撮事件について姉さんと色々な議論を交わした結果、ななちゃんの口からこの件について説明することになった。
本音を言うと僕はこの説明をすることには反対だった。
その理由はせっかく今回の件が僕の方に話題がいったおかげで有耶無耶になったのに、この動画のせいでその話をまた蒸し返すことになる。それが嫌だった。
そんな僕の思いとは裏腹に姉さんがななちゃんからの説明が必要だと強硬に主張され、僕も渋々その提案を飲まざる得なかった。
幸いななちゃんもこの案に賛成してくれたので、今回のお披露目撮影でこの件を説明する運びとなった。
「まずこの前の盗撮事件について、あたしもネットニュースを見てびっくりしています」
「ナナさんはあの事件のことを知らなかったんですか?」
「はい。しかも以前あたしとコラボをしたToma君がその事件に絡んでた事を後から知って、もの凄く驚きました」
あの盗撮映像に映っていたななちゃんの正体について、前もって僕と姉さんとななちゃんの3人で話し合った結果、視聴者のみんなには肯定も否定もすることなく有耶無耶にすることにした。
顔出し配信をする僕とは違って、ななちゃんはVTuberなので顔出しをしない。
柊菜々香と神倉ナナは別人である。そう結論付けたので、こういう対応をすることにした。
「Toma君から謝罪はあったんですか?」
「はい。自分の売名行為にあたしを使って申し訳ないという謝罪を受けました。その後この事件の後処理をどうしようか頭を悩ませていた時に、たまたまToma君がこの事務所の社長と知り合いだということで紹介されました」
「Toma君経由でうちの社長と出会ったわけですわね」
「はい、そうです。その時社長はあたしの悩みを色々と聞いてくれました。その中で今後のあたしの活動について色々と相談していた際に『ウチの事務所に入らないか?』と誘われて、この事務所に入ろうと思いました」
「なるほど。そういう事情でナナさんこの事務所に入ったのですね」
「はい。なのでみなさんもあの盗撮動画をむやみに拡散することはやめて下さい」
これでななちゃんに対する風向きが強くなることはないだろう。
代わりに僕に対する風向きは強くなりそうだけど、全て丸く収まるならそれでいい。この時の僕はそう思っていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
話が長くなりましたので、2話に分割しました
続きは明日の7時に投稿しますので、楽しみにしていてください。
最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。
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