第76話 撮影予定

「琴音さん、その3Dの撮影はいつやるんですか?」


「明日よ」


「明日って、そんなに急に予定を入れて大丈夫なんですか?」


「大丈夫よ。さっきの撮影の後監督達に話は通したから問題はないわ」



 さすが姉さんだ。撮影をする為の根回しをするスピードが早い。



「(撮影スタッフ達に話を通しているなら、急な撮影をしても問題ないだろう)」



 ただその人達に話を通していたとしても他に問題が出てくる。

 それを姉さんが理解しているのかわからない。一応聞くだけ聞いてみるか。

 


「姉さん」


「何?」


「明日ななちゃんのお披露目撮影をするのはいいんだけど、それだと台本を作る時間がないと思わない?」


「大丈夫よ。撮影の段取りを企画書にするだけだから。そんなに時間はかからないわ」


「でも、僕は台本を書くのが初めてなんだけど‥‥‥」


「問題ないわ。その台本作りは私がつきっきりで手伝ってあげる」


「姉さんが手伝うの? というかつきっきりってどういうこと!? それじゃあ僕、今日の夜寝れないじゃん!?」


「大丈夫よ。人は2時間寝れば、十分活動できるわ」


「それは姉さんがショートスリーパーなだけで、僕は8時間寝ないと寝た気がしないんだけど‥‥‥」


「それは良かったわね。貴方もショートスリーパーに覚醒するチャンスじゃない」


「ショートスリーパーって遺伝するものなの?」


「通説だとショートスリーパーは遺伝する言われてるわ。だから斗真も覚醒するチャンスがめぐってきてよかったわね」



 ダメだ、この調子じゃ姉さんの事を到底論破出来そうにない。

 残念ながら今日は徹夜で明日の台本を作るようだ。作業の途中で寝ないように、今のうちにさっき買ってきた栄養ドリンクとエナジードリンクを補給しておこう。



「ごめん、斗真君。あたしのせいで‥‥‥こんなことになって」


「ななちゃんのせいじゃないよ。全部思い付きで行動する姉さんのせいだから気にしないで」



 そう。全ての元凶はこの状況を招いた姉さんなんだ。

 だからななちゃんは悪くない。いつも行き当たりばったりの行動をする全て姉さんが悪い。



「琴音さん、その撮影は何時からやるの?」


「午後の予定よ。だから午前中の収録に変更はないわ」


「ってことは明日のショート動画の撮影時間に、神倉さんのお披露目動画の撮影をするんだね?」


「そうよ。だから明日の午後に予定していたショート動画の撮影を延期して、その時間に菜々香ちゃんがウチ事務所に所属した報告動画を取る予定よ」


「延期するのはいいけど、来週投稿する分のショート動画のストックはあるんですか?」


「ショートのストックだけなら1ヶ月先のものまであるから大丈夫よ。公式の動画も2週間分ぐらいは溜め撮りしてあるから問題ないわ」


「そんなにたくさんのストックがあるんだ」


「何か起こった時の為に普段から多めに撮影してるのよ。お蔵入りにしたものを含めれば、もっとあるわ」



 どうやら動画のストックは大量にあるらしい。

 毎週土日はみんなスタジオに詰めて撮影をしているので、動画のストックが大量にあっても特段驚きはない。



「でもそんなにたくさん動画を撮影してるなら編集が大変そうだけど、それは大丈夫なの?」


「大丈夫よ。ショート動画の編集は外注に頼んであるから」


「あの動画って外注を使ってるの?」


「外注というか業務提携をしている会社に作業を依頼してるわ。いつもスタジオで撮影の手伝いをしてくれてるスタッフさんが編集もしてくれてるのよ」


「あの人達は編集も出来たんだ」


「そうよ。あの会社は大勢の技術者を抱えているから、動画関係の事は頼めば一通りやってくれるわ」


「なるほど。だからうちの事務所には技術者がいないんだね」


「確かに技術者はいないけど、どうしても自分で編集したい動画は私がやってるわよ」


「動画の編集なんて姉さんに出来るの?」


「もちろん出来るわよ。こう見えても彩音達の3Dライブは、全部あたしが編集してのよ」


「あの編集って全部姉さんがしたの!?」


「そうよ。それってそんなに驚くこと?」


「驚くよ。あれを編集するのって、ものすごい手間と労力がかからない?」


「掛かるわよ。でもそれで彩音達のライブが映えるなら、私は自分の時間をいくらでも使うわ」



 さすが姉さんだ。社長をやってるだけはある。こんなセリフ今の僕にはとても言えない。

 みんなも姉さんのこういう所を知ってるからこそついてきてくれるのだろう。

 彩音さん達がこの事務所に住み着く理由もなんとなくわかる。



「そうと決まればあんたもご飯を食べなさい。今日は徹夜なんだから」


「うん」


「斗真君、あとで僕がウナギとスッポンの血を差し入れてあげるからぜひ食べて」


「それは遠慮しておきます。一体彩音さんは僕に何をさせる気ですか?」


「何をさせるって? ‥‥‥もう! 斗真君の頭はピンク色なんだね♡」


「もういいです。彩音さんは大人しく寿司でも食べて下さい」



 こうなった以上しょうがない。これも全部ななちゃんの為なんだ。そのために僕も頑張ろう。

 流れを書くだけならそんなに労力はかからないはずだ。日付が変わらないうちに作業が終わるだろう。

 この時の僕はそう楽観視していた。



「それじゃあ改めて乾杯しよう。神倉さんの事務所所属を祝して、乾杯!!」


「「「「「「乾杯」」」」」」



 それからしばらくななちゃんの歓迎会は続く。

 この歓迎会は21時にお開きになり、僕はななちゃんと秋乃さんを駅に送り届けた後、姉さんと一緒に部屋へと戻り明日の撮影に使う台本を書いた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


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