第75話 菜々香の挑戦
「それにしても驚きましたわ。まさかナナさんが、私よりも年下だったなんて」
「私もサラと同じ気持ち。自分よりも一回り上の人が入ってくると思ってたから、共通の話題があるか不安だった」
「へへへっ♡ そういうことはネット上でよく言われてます」
「僕は初めから知ってたけどね。神倉さんがアラサーの独身女性じゃなくて、うら若きピチピチの現役高校生だって」
「彩音さんは歓迎会の前にななちゃんと会ってたから知ってただけでしょう。何しれっと知ったかぶりをしてるんですか」
さっきまで部屋の隅でシュンとしていたと思ったら、もう立ち直ったのか。
彩音さんは気持ちの切り替えが早いな。
「(彩音さんがななちゃんを見て驚いた時のリアクションをサラさん達にも見せてあげたいよ)」
あのリアクションを見た後だと、サラさんと秋乃さんのリアクションでは物足りなくなる。そのぐらいの驚きようだった。
「えっ!? 彩音は1度ナナさんと会っているんですか?」
「そうですよ。さっき僕がななちゃんと2人で昼食を取っていた時、ベランダから僕の部屋に侵入しました」
「侵入したなんて人聞きの悪い事を言わないでくれよ。僕はただベランダの窓から、2人の事を覗いていただけだ」
「それはもっと悪質な行為ですわね」
「彩音、女の敵」
「僕と同じ感想の人がいてよかったです」
どうやら僕の価値観は間違っていなかったようだ。
この事務所にいる人達は良くも悪くも個性的な人達が多いので、僕の味方になってくれる人なんていないと思っていただけにこの援護は嬉しい。
「彩音、これに懲りたらあんなことをするのは金輪際やめなさい」
「はい」
姉さんにこれだけ注意されれば、さすがの彩音さんも懲りるだろう。
念のため僕も今日から部屋のカーテンを常に閉めて、家の中を外からみえないようにすることにした。
「そうだ、彩音。貴方の周年ライブの事なんだけど、準備は進んでる?」
「うん。もうセトリも組んだし振り付けも一通り決まって、今はサラ達と一緒に振りの練習をしてるよ」
「そう。突然で申し訳ないんだけど、その周年ライブに菜々香ちゃんを入れることは出来ない?」
「急な相談だな‥‥‥でも、今ならまだ間に合うよ」
「よかった。そしたら申し訳ないけど、コラボ楽曲をもう1曲追加してくれない?」
「いいよ。選曲や振り付けも僕が担当していいんだね?」
「もちろんよ。その辺りのことは貴方に一任するわ」
「わかった。神倉さんはライブでダンスをしながら歌った事はある?」
「1度だけ。今年の春、周年ライブをした時に初めてやりました」
「なるほどなるほど。その配信アーカイブってまだ残ってる?」
「はい。今見ますか?」
「大丈夫。あとで僕が自分の部屋で確認するよ」
「ありがとうございます」
「それよりも今は仕事の話なんてやめて、歓迎会を楽しもう。せっかくの機会なんだから、僕は神倉さんの事をもっとよく知りたいな」
でたよ、彩音さんの悪い癖だ。本人にその気はないのだろうが、早速ななちゃんを落としにかかっている。
姉さん曰くそうやってサラさんも口説き落としたらしい。ほら、サラさんが彩音さんを見る目が焼きもちを焼く女の顔になってる。
この後どうなっても僕は知らないぞ。無自覚というのは本当に怖い。
「(そういえばななちゃんはあっさり承諾してたけど、いきなり彩音さんのライブに出て大丈夫かな?)」
このライブに向けてサラさん達が何ヶ月も前からダンスレッスンをしていた所を見ていただけにちょっと不安になる。
2人から彩音さんのライブは覚えることが多くて大変だということを聞いていたので、この短期間でななちゃんがそれを覚えられるか心配だ。
「また仕事の話になるようで悪いけど、菜々香ちゃんが私達の事務所に所属した記念のお披露目動画を取るから、それに貴方達も参加してもらうわ。だから今度の撮影はそのつもりでいてね」
「わかりましたわ。ただ動画を撮影するのはいいですが、台本は誰か考えるのですか?」
「それは斗真に頼もうと思ってる」
「ぼっ、僕がやるの!?」
「そうよ。この中で貴方が菜々香ちゃんの事を1番知ってるんだから適任でしょ」
「それはそうだけど‥‥‥」
「もしかして斗真は自信がないの?」
「そんなことないよ!? やるからにはみんなが納得する台本を作って見せるから、期待してて」
「さすが斗真ね。そうこなくっちゃ」
勢いで姉さんに宣言してしまったけど、本当にこれでよかったのだろうか。
姉さんの笑顔を見ていると僕は悪魔と契約してしまったような気がしてならない。
この嫌な予感が僕の勘違いだといいけど、そうはならない気がする。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の8時に投稿します。
最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます