第56話 重要な契約(神宮司琴音視点)
《神宮寺琴音視点》
斗真達と会食をした日から数日後、私は菜々香ちゃんの家の最寄り駅にいた。
このあと菜々香ちゃんの両親と会って、彼女の今後の活動について話し合う予定となっている。
「約束の時間まで少し早いけど、菜々香ちゃんはまだ来ていないようね」
今日は菜々香ちゃんの両親にあの盗撮動画について、これからどういった対応を私が取るのか説明するつもりでいる。
その他にも彼女がうちの事務所に入る許可も同時にもらうつもりでいた。
「おはようございます、琴音さん」
「おはよう菜々香ちゃん。今日はずいぶんと可愛い格好をしているのね」
「ありがとうございます! 外に出る時にはいつもこういう格好をしているんです」
この前の会食の時から思っていたことだけど、相変わらずこの子は可愛いわね。
笑顔も可愛いくて素敵だし、着ている洋服もものすごくおしゃれだ。
「(普段はズボラな斗真がおしゃれに気を使い始めた理由がよくわかるわ)」
こんな可愛い子が自分の隣に立っていたら、自然とおしゃれに気を使うようになるだろう。
その点は菜々香ちゃんに感謝をしないといけない。
「それじゃあ家に案内しますので、あたしに着いてきてください」
それから私は菜々香ちゃんと一緒に自宅へと向かう。
その道中話は自然と斗真の話題になった。
「菜々香ちゃん、いつも斗真と仲良くしてくれてありがとう」
「こちらこそ! 斗真君と出会えたおかげで、毎日が楽しいです!」
「(楽しいか)」
いつも家に引きこもってゲームばかりしている斗真にもついに仲のいい友達が出来たみたいだ。
正直こんな可愛い子が斗真の友達になってくれる機会なんて、早々ないだろう。
ぜひ斗真にはこれからも菜々香ちゃんのことを大切にしてもらいたいと思っている。それが私の願いでもあった。
「(そういえば斗真に友達が出来たのっていつ以来だろう?)」
確か小学校の時は公園で友達と遊んでいた事は覚えている。
中学の時はずっと1人だったので、彼女はそれ以来の友達ということになる。
「実は私、菜々香ちゃんに感謝してるのよ」
「感謝‥‥‥ですか?」
「うん。貴方のおかげで斗真は変わったわ。その事に凄く感謝をしている」
最近の斗真はおしゃれにも気を使うようになり、学校に行く時以外は髪も整えている。
これも全部菜々香ちゃんのおかげだ。
この子が側にいるから、斗真も色々なことを頑張るようになった。
「そんな‥‥‥あたしの方こそ、斗真君には感謝しかありません」
「斗真に感謝することなんてあるの?」
「あります! あたしが学校で盗撮されていてみんなが傍観する中、彼があたしの前に立って真っ先に助けてくれました。それに放課後は毎日のようにあたしと遊んでくれます」
「その話は私も知ってるわ。ただ2人で遊ぶのはいいけど、あまり夜更かしはしないようにね」
「すいません」
菜々香ちゃんがここまで入れ込むなんて、よっぽど斗真と相性がいいんだ。
前々から斗真と菜々香ちゃんの相性はいいとは思っていたけど、こんなに仲良くなるとは私も思わなかった。
「着きました。ここが私の家です」
「ここが菜々香ちゃんの住んでいる所か」
彼女の住んでいる場所はオートロック式のマンションみたいだ。
彼女の案内でその建物のエレベーターに乗って、彼女の両親がいる部屋に入った。
「ただいま! お父さん、お母さん、琴音さんを連れてきたよ!」
「(いよいよ私の戦いが始まるのか)」
ここで菜々香ちゃんのスカウトに成功できるか、その成否は彼女の両親を説得出来るかにかかっている。
もしこの交渉が失敗したら、彼女はしばらくVTuberとして活動が出来なくなる。
そう思ったら自然と私のたたずまいも変わった。
「初めまして! 菜々香の母の柚葉と申します。先日は菜々香の事を助けていただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、いつも弟の斗真がお世話になっています。お土産を持ってきたので、よろしければこちらをお受け取り下さい」
「ありがとうございます。そしたらこれからお茶の準備をしますね!」
よし! とりあえず掴みは上々だ。
人間第一印象が大事だと言われてるけど、菜々香ちゃんのお母さんにいい印象は与えられたと思う。
「それではリビングへ案内しますね。菜々香、琴音さんをリビングに案内して」
「わかった」
それから私は菜々香ちゃんの案内でリビング連れて行かれる。
リビングに着くと40代中盤の威厳のある男性が座っていた。
「おはようございます! 菜々香さんのお父様でよろしいですか?」
「はい、そうです。僕は菜々香の父親の柊修也と申します」
そう名乗った男性が立ち上がり、私に頭を下げてくれた。
それを見て、私もポケットに入れていた名刺入れを出す。
「私はアーススタジオという事務所の代表をしている神宮司琴音と申します。よろしければ、こちらをどうぞ」
「頂戴いたします。よろしければそちらの席にお座り下さい」
「ありがとうございます。それではお言葉に甘えて、失礼します」
菜々香ちゃんの父親に促され、私は近くの椅子に座る。
私の隣には菜々香ちゃんが座り、その前に彼女のお父さんとお茶菓子を持ってきたお母さんが座った。
「お茶を用意しましたので、よかったら飲んで下さい」
「ありがとうございます。それではいただきます」
菜々香ちゃんのお父さんが紅茶を飲んだタイミングで、出されたお茶を一口飲んだ。
「琴音さんはお若いのにしっかりとした人なんですね」
「ありがとうございます。そのように褒めていただけると嬉しいです」
「貴方の話は菜々香から聞いています。確か菜々香のクラスメイトのお姉さんなんですよね?」
「はい、そうです。今は大学に通いながら、ネットで活動する人達のサポートをする会社を経営しています」
「お若いのに立派ですね」
「それほどでもありません」
実際うちの事務所には破天荒な人達がたくさんいる。
事務所の代表といえば聞こえはいいものの、時折動物園の園長になった気分になる。
「それで本題なんですが、今SNSに溢れている菜々香の盗撮動画について貴方が何とかしてくれると本人から聞いています」
「菜々香ちゃんから大体の話は聞いているんですね」
「はい。ただこれは素人意見で申し訳ないんですが、本当にそんなことが出来るんですか?」
「もちろん出来ます。その件につきましてはこれからご説明させていただきますので、まずはこちらの資料をご覧ください」
そう言って私は盗撮動画をアップロードした個人アカウントをまとめた資料とこの前顧問弁護士と打ち合わせた時のやり取りの内容をまとめた紙を全員に渡す。
私がその紙を渡すと菜々香ちゃんの両親はその紙を食い入るように見ていた。
「今ご覧いただいている物が、現在も菜々香ちゃんの盗撮動画を上げているSNSのアカウント一覧になります」
「こいつらがあの動画を上げているのか」
「はい。その人達についての対応をこれから説明しますので、もう1枚お渡しした資料をご覧ください」
それから私はしばらく菜々香ちゃんの両親にこれから私がやろうとしている対応を伝える。
30分ぐらいかけて、私は菜々香ちゃんの両親にその説明を行った。
「以上が私がこれからやろうとしている対応になります」
「なるほど、わかりました。我々もそうしてくれるとありがたいです」
「もし私達に何か協力できることがあれば、何なりとお申し付けください」
「ありがとうございます。そうしましたら今我が社の顧問弁護士が情報開示請求の手続きを勧めていますので、週明けにうちの事務所で弁護士を交えて打ち合わせは出来ませんか?」
「わかりました。週明けに妻と一緒に事務所に伺わせていただきます」
よし! これで1つ問題は解決した。ただ私にとっての勝負はこれからである。
「それで神宮司さん、弁護士費用はいくらぐらいになるのでしょうか?」
「今のところその費用はウチの事務所で負担するつもりでいます」
「本当に全て負担してもらってもいいんですか?」
「もちろんです。ただ1つだけ条件をつけさせてください」
「条件ですか?」
「はい。菜々香さんをうちの事務所に所属させていただけませんか?」
今日ここに来た1番の目的を私は彼女の両親に対して打ち明けた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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