第55話 新しい活動方針
「ななちゃんは何を頼んだの?」
「あたしはフルーツジュースだよ。斗真君は何にしたの?」
「僕はこの宇治抹茶にした」
「あんたはずいぶん渋い物を頼むのね」
「このメニュー表に当店のオススメって書いてあったら、誰だって飲みたくなるよ!?」
メニュー表の中央に写真付きでこんなでかでかと載っていたら、誰だって頼んでみたくなるだろう。
姉さんもナナちゃんと同じフルーツジュースを頼んだようで、僕達が頼んだ飲み物はすぐに運ばれてきた。
「それじゃあ早速話し合いを始めましょう。まずは菜々香ちゃんの盗撮動画についてね」
「あの動画を何とかすることが出来るんですか?」
「もちろんよ。昨日の午後うちの会社と契約している顧問弁護士と話して、発信者情報開示の請求をお願いしてきたわ」
「えっ!? もうそんな所まで話が進んでたの!?」
「そうよ。手続きの準備は進んでるから、近日中にはその人達を訴えることが出来るわ」
さすが姉さん、やることが早い。
顧問弁護士が動いているという事はあの盗撮動画をネットにアップロードした人は近日中に摘発されるだろう。
「でも、あの動画って今SNSに大量にありますよね? どうやってそれらを取り締まるんですか?」
「それはこの前斗真が行った配信の後、菜々香ちゃんが映っている動画を上げているアカウントを全てリスト化したのよ」
「そんなことまでしたんですか!?」
「そうよ。全てスクショ付きで証拠を押さえただけじゃなくて、一部悪質なアカウントは画面キャプチャーしたから、言い逃れは出来ないはずよ」
姉さんは軽く言っているが、そんな簡単な言葉では言い表せない程大変だった。
ななちゃんが映っている動画をアップロードしたアカウントは1つや2つじゃない。
それこそ数百個も違法アカウントがあり、その1つ1つをスクショや画面キャプチャーしたのでものすごく大変だった。
「ありがとうございます。私の為にそんなことまでしてくれて」
「お礼を言われる程じゃないわ。だってこれだけじゃ、何の問題の解決にもなってないから」
「どういうことですか?」
「このアカウント達を訴えるには菜々香ちゃんの許可が必要なのよ。もちろん菜々香ちゃんは未成年だから、貴方の両親の許可ももらう必要があるわ」
「あたしの両親の許可も必要なんですか?」
「そうよ。そこで貴方と貴方の両親の意志を確認したいんだけど、どこかで話が出来る場を作れないかな?」
「もちろん大丈夫です。事の経緯を説明すれば、何とかなると思います」
「それはよかったわ」
「琴音さんはいつ空いていますか? 予定を教えてもらえれば、こちらで日程を調整します」
「私はいつでも大丈夫よ。菜々香ちゃんの両親の予定に合わせるわ」
「わかりました。今日の夜両親に事情を説明して、日程がわかり次第すぐ連絡をします」
これで1つ問題は解決した。まだナナちゃんの両親の許可をもらわないといけないけど、この問題はすぐ解決するだろう。
「これで問題は1つ解決したわね。次は菜々香ちゃんの今後の活動の話よ」
「あたしの活動ですか?」
「うん。あの事件が起こった直後にこんなことを聞くのもどうかと思うけど、菜々香ちゃんはこれからもVTuber活動を続けて行くの?」
「その事なんですか、しばらくVTuber活動を休止しようと思ってます」
「えっ!? ななちゃん、VTuber活動を辞めちゃうの!?」
「辞めるわけじゃないよ。ただ今の状態で活動をするわけにはいかないから、お母さん達と話し合って、高校生のうちはこの活動をやめようって話になったの」
「本当にそれでいいの!?」
「うん! お父さんやお母さんと話して決めたことだから、これでいいと思ってる」
その割にはななちゃんの表情はすぐれない。
きっとこの判断は彼女の本意ではないのだろう。
今の話だけを聞いていると、親に言われたからしょうがなくやめると言っているようにしか聞こえなかった。
「菜々香ちゃんは本当にそれでいいの?」
「えっ!?」
「この1年毎日頑張って配信をしてチャンネル登録者数をあれだけ増やしたのに、本当にここで辞めていいの?」
「よくはありません。ただこんな事が起きてしまったので、今まで通り活動をするわけには‥‥‥」
「それなら今まで通りの活動をしなければいいのよ」
「えっ!?」
「姉さん、どういう事?」
「言葉の通りよ。もし菜々香ちゃんがこれからもVTuberとして頑張りたいなら、うちの事務所に入らない?」
「それって姉さんはななちゃんの事をスカウトしようとしてるの?」
「そうよ。ただ個人でやっていた時とは違って色々と制約がつくけど、菜々香ちゃんのやりたいことが出来るように協力するわ」
姉さんが人を勧誘するなんて珍しい。今まで3人しか所属タレントを取らなかったのに、どういう風の吹き回しだろう。
「あたしが、斗真君と同じ事務所に入るんですか?」
「そうよ。私だったら貴方の事をトップVTuberとして導いてあげることが出来るけど、どうかな?」
姉さんに誘われてナナちゃんも悩んでいるようだ。
彼女が悩むのも無理はない。いきなり事務所に入らないかと言われても即決できないだろう。
「1つ質問をしていいですか?」
「いいわよ」
「もし琴音さんの事務所に入ったら、斗真君と自由にコラボ配信をしてもいいですか?」
「斗真の意思確認をしてもらうことは大前提だけど、事務所の社長としては好きにしてもらっても構わないわ」
「本当ですか!?」
「もちろんよ。それにもし菜々香ちゃんが望めば、うちの事務所にいるVTuberとコラボしていいわよ」
「ありがとうございます。そういうことなら、ぜひ入らせてください!」
「わかったわ。そしたら今度親御さんに会った時にその話もしましょう」
いつの間にかななちゃんが姉さんの事務所に所属する話が進んでいた。
ななちゃんがVTuber活動を続けてくれるのは嬉しいけど、いくつか疑問に思うことがある。
「(それにしても姉さんの事務所に入る条件に僕とのコラボを入れるなんて、どういうつもりだろう?)」
あんな念入りに聞かなくても僕はいつでもコラボをするつもりなのに。
それだけがものすごく不可解に思えた。
「これで大体話はまとまったわね。せっかくだから、ここで夕食を食べていきましょう」
「えっ!? いいの!?」
「せっかくこんないい所に来てるんだから、今日ぐらい美味しい物を食べて帰りましょう」
「わかった」
「今日は私の奢りだから、好きな物を頼んでいいわよ! 早速料理を注文しましょう」
それから僕達はこの店で夕食を取った後、ななちゃんを家まで送り届けて事務所の寮へと帰る。
まだ仮決定ではあるが、ななちゃんが姉さんの事務所に所属することが決定した。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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