1.5章 番外編 事件の後処理

第54話 秘密の打ち合わせ

 先生達から呼び出された翌日、学校が終わった僕はななちゃんと共にとあるお店に向かう。

 地図アプリに住所を入力して、指定されたお店を必死になって探していた。



「今あたし達が向かっているお店って、斗真君は行ったことがあるの?」


「ないよ。今日案内する所は僕も初めて行く場所なんだ」



 だから僕も結構テンパっている。

 行き慣れた場所ではないので、この前2人で池袋に行った時のような余裕は一切なかった。



「それにしても、斗真君のお姉さんがVTuber専門の芸能事務所をやってるなんて思わなかったよ」


「正確にはネットで活動する人達をサポートする事務所らしいけど、僕以外に所属している人は全員VTuberらしいんだ」



 これは僕も後から知った話だけど、姉さんの事務所にいる人達は全員VTuberらしい。

 この前事務所の近くで会った人も姉さんの事務所に所属するVTuberだったらしいけど、どういう配信をしている人なのかわからなかった。



「着いた! ここが姉さんから指定したお店だよ」


「なんだか高級そうなお店だね」


「うん。外観だけ見れば、どこかの高級料亭と言われてもおかしくない」



 それぐらい目の前にあるお店は立派だった。

 とても高校生2人が行くような場所ではない。

 もう少し年齢を重ねた大人の人達が通うような格式高いお店のように見えた。



「とりあえず中に入ろう」


「うん!」



 ななちゃんを連れて中に入ると女性の店員さんがいた。

 制服姿なのにも関わらず、彼女は嫌な顔をせず僕達のことを出迎えてくれた。



「いらっしゃいませ。2名様でよろしいですか?」


「実は今日神宮司という名前で予約をしているんですが‥‥‥」


「神宮司様ですね。失礼致しました。今お部屋にご案内しますので、少々お待ちください」



 お姉さんに案内されて、僕達はその後ろをついていく。

 お店の中は1つ1つの部屋が個室となっていて、廊下側からは中の人達の姿が見えないような作りになっていた。



「まるで隠れ家みたい」


「初めて来たお客様にはよくそう言われます」


「すいません!? 悪口を言ったわけじゃないんです!?」


「それは私も承知しております。だから気にしないでください」



 店員のお姉さんは微笑ましいものをみるような目で僕達の事を見ている。

 その視線はまるでこれから結婚するカップルが両親の顔合わせを前にして緊張しているので、その緊張を和らげようとしているようにも見えた。



「お待たせいたしました。こちらの部屋になります」


「ありがとうございます」



 引き戸を開けると既にそこには僕達を呼びつけた姉さんが待っていた。

 テーブルの上には小型のノートPCが置かれている所見るに、僕達が来るまでの間仕事をしていたらしい。



「思ったより早かったじゃない。そんなに早く学校が終わったの?」


「うん。今日の放課後は特にやることがなかったから、早く帰ることが出来たよ」



 正確にはこの前の盗撮騒ぎを重く見た学校が、早めに生徒を返したという見方が正しい。

 部活動をしている人達以外はホームルームが終わるってすぐ帰る所を見るに、あの事件の余波はしばらく続きそうだ。



「斗真の後ろにいるのが、かみ‥‥‥じゃなくて、柊菜々香ちゃんでいい?」


「はい! 初めまして、柊菜々香と申します」


「私は神宮司琴音です。今日は名刺を持ってきたから、せっかくだからこれをもらってください」


「ありがとうございます。すいません、まさか今日こんな風に挨拶をするとは思わなかったので、今名刺を持ってないんです」


「えっ!? ななちゃんは名刺を持ってるの!?」


「うん。一応持ってるよ。普段は案件を依頼してくれた会社の人と直接会う時に使うんだけど、私が企業からの案件を受けることは殆どないから使う機会がないんだ」



 ななちゃんが名刺を持っていたことに僕は驚いた。

 彼女がそれを持っていたということは、僕も持ち歩いた方がいいのかもしれない。



「名刺まで作ってるなんてしっかりした子じゃない。斗真も菜々香ちゃんの事を見習わないとね」


「そうは言われても、僕はあまり配信者ストリーマー活動をする気はないよ」


「あれだけ派手にデビューしておいて何を言ってるのよ? 斗真の売り出し方ももう考えてあるんだから諦めなさい」


「えっ!? そんなことまでもう決めてあるの!?」


「もちろんよ。学校の先生達もそのプランならって事でこの活動を許可してくれたのよ。これから忙しくなるから、覚悟しておいてね」



 僕の意志とは裏腹に無理矢理覚悟を決めさせられてしまった。

 正直な話を言うと、まだ心の準備が出来ていない。

 一体僕はこれからどうなるのだろう。



「あの‥‥‥」


「何?」


「神宮司さんって、もしかしてあたしが斗真君とコラボの打ち合わせをした時にいたマネージャーさんですか?」


「そうよ。あの時斗真のマネージャーをしていたのは私だから、正確にいえば初めましてじゃないわね」


「すいません。あの時のことを忘れていて」


「謝らなくていいわよ。それに私の事は琴音って呼んでもらえればいいわ。神宮司だと斗真の呼び方と被って、どちらの事を呼んでるかわからなくなるでしょ」


「わかりました。これからは琴音さんって呼ばせてもらいます」


「それでよし! それより2人共早く座って。早速話し合いをしましょう」



 姉さんに促され、僕達は横並びに座る。

 僕達が座ったのを見て、姉さんはPCを鞄にしまい話し合いをする態勢を取った。



「今日貴方達をここに呼んだ理由は2つあるわ」


「僕達と話したいことが2つもあるの?」


「そうよ。1つはこの前起きた盗撮事件についての話でしょ。そしてもう1つは菜々香ちゃんのVTuber活動についての話よ」


「姉さん!? こんな所でそんなことを話していいの!?」


「話してもいいからこの場所を選んだんじゃない。この店は1つ1つの部屋が個室になっていて、防音設備まで完備しているからこういう話をするのに最適なのよ」


「そうなんだ」


「稀にこの防音設備をぶち破るぐらいの大声で話す人がいるけど、貴方達ぐらいの声なら周りに聞こえないはずだから、気兼ねなく話して大丈夫よ」



 防音設備をぶち破るぐらいの大声を出す人とは誰の事だろう。

 姉さんの事務所に数日間暮らしていて、なんとなくそういう人に心当たりがあるけど、その人の名誉の為に名前を出すのはやめておこう。



「それじゃあ話をする前に飲み物を頼みましょう。食べたい物があったら、そっちのメニュー表に料理も載ってるから好きな物を頼んでいいわよ」


「姉さん、ここのお会計は‥‥‥‥‥」


「もちろんそれはうちの会社の経費で落ちるわ。だから安心して好きな物を食べなさい」



 姉さんがそう言うなら僕も遠慮せず頼もう。

 僕達はメニュー表に載っている中で自分が飲みたい飲み物を注文した後、姉さんと話し合いを始めた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


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