第32話 姉の思い

「僕が神倉ナナと勝手に連絡を取って、姉さんは怒らないの?」


『もちろん怒ってるわよ!! もしこれがリスナーにバレたら、大きなスキャンダルになるじゃない!!』


「やっぱりそうなるよね」



 まがりなりにも姉さんは事務所の代表取締役をしている。

 所属するタレントが秘密裏に女の子と会っていたら、事務所の代表である姉さんが怒らないはずがない。



『まぁそうは言ってもうちの事務所は自由恋愛を推奨してるし、この事がバレたとしても斗真へのダメージは殆どないはずよ』


「姉さんの事務所って恋愛自由なの!?』


『そうよ。うちの事務所はあえて自由恋愛を推奨してるわ。だから斗真も好きなだけ恋愛をしていいわよ』


「それはわかったよ。でもそんなことを事務所が大々的に推奨して、ファンの人達は怒らないの?」


『斗真はわかってないわね。そういう面倒な問題を避ける為に、わざと自由恋愛を推奨してるのよ。だからファンもその事を承知で推し活をしてくれてるから、怒る人なんていないわ』


「確かにそうだけど‥‥‥」


『それに恋愛禁止なんて規則を定めたら、交際をしている事がファンにバレた時大変なことになるじゃない!!』


「でもそういう事って、芸能人はみんな守ってるんじゃないの?」


『もちろんちゃんと守る人もいるわよ。だけど最初の1年2年はみんな言う事を聞いてくれるんだけど、3年目を過ぎると業界の事がわかり始めて気が緩んでくるから、約束を破る人が出始めるの」


「へぇ~~~、そうなんだ」


『そうなのよ。100歩譲って約束を破るのは構わないんだけど、今までため込んでいた鬱憤が爆発して大胆な行動を取るようになるから大変なの』


「例えばその人達はどんな行動をするの?」


『人によって行動は変わるけど、一般的にはSNSで匂わせをすることが多いわ。彼氏が投稿したものと同じ食器や家具を投稿するだけならまだしも、お揃いの指輪やブレスレットを相手のファンに向けて見せつける人がいるの」


「そんな事をする人がいるんだ」


「そんな人なんてごまんといるわよ。しかもその匂わせ行動のせいで交際がバレて大炎上。マネージャーは昼夜問わず対応に追われて、心身共に疲弊することが目に見えてるわ』



 姉さんの語り口調は普段よりも気持ちがこもってる。

 まるでその現場を間近で見てきたようだ。



『だからうちの事務所は一芸がある子を選んで採用してるの。熱愛が発覚したとしてもその子の人気が落ちないように、何か秀でた特技を持っている子を採用してるわ』


「姉さんの事務所が少数精鋭でやっている理由がわかった気がするよ。少ない人数で事務所を回してるのはそういう事だったんだ」


『そうよ。いい人材がいればもちろん採用するけど、そういう人達はみんな大手に取られちゃうから、中々いい子が見つからないのよ。斗真も良い人が見つかったら、私に紹介してね』



 今の話を聞いて、初めて姉さんの事務所の内情を知れた気がする。

 芸能事務所を始めた時から少数精鋭でやっている事に疑問を抱いていたけど、こういう理由ならタレントが少ないのも納得できる。



『話を戻すんだけど、神倉ナナと連絡を取る時はもちろんプライベート用のアカウントでやり取りをしてるんでしょ?』


「うん。ななちゃんとはそのアカウントでやり取りをしてるよ」


『それならいいわ。これからも連絡を取る時は、出来る限り配信で使ってるアカウントを避けて連絡をとって頂戴』


「姉さんはいいの!? 僕がななちゃんとプライベートで話してても?」


『今更私が止めたってやめられないでしょ。何かあった時はこっちでフォロー出来るように準備はするから。私への報告は怠らないようにしなさい』


「わかった。ありがとう、姉さん」


『どういたしまして』



 やっぱりこういう時の姉さんは頼りになる。

 最初は姉さんの事務所に入ることに対して難色を示していたけど、この事務所に所属していてよかった。



「この関係を相手がどう思ってるかわからないけど、うちの事務所的には問題ないわ。ただもし付き合ったりしたら一言連絡を頂戴。いつでも交際発表できるように報告用の文章を考えておくから』


「ごめん、姉さん。色々とありがとう」



 あれだけ僕に配信者と付き合うのはやめておけと口ずっぱく言っていたのに、僕がその人達と交流することを許してくれるなんて、姉さんは懐が広いな。

 こんなに手厚い対応をしてくれるなら、最初から姉さんにちゃんと報告しておけばよかった。



『そんなにかしこまらなくていいわよ。それよりも神倉ナナってどんな人だったの? やっぱり大学に入りたての若い女の子だった?』


「それは‥‥‥‥‥‥‥秘密」


『何で秘密にするのよ。ここまで協力するんだから、少しぐらい情報をくれたっていいでしょう』


「本人が自分の素性を誰にも言わないで欲しいと言ってたんだよ。だから相手が姉さんでもこの事は話せない」



 神倉ナナが同じ学校のクラスメイトだということは、例え姉さんであろうと言う事が出来ない。

 もしこの事を話したら絶対に姉さんは興味本位で僕の学校を調べるだろう。

 そうならない為にも、この事については僕とななちゃんだけの秘密にしておこう。



『それならしょうがないわね。相手がそう言ってるなら、あまり詮索はしないでおくわ」


「重ね重ねごめん」


『謝らなくていいわよ。ただ夜遅くまで連絡を取り合うのはやめなさい。学業に支障が出たら元も子もないわ』


「わかった」


『それじゃあ与太話はこの辺にしてミーティングを始めるけど、斗真は準備出来てる?』


「今PCの電源を入れるからちょっと待ってて!?」


『あれだけ時間があったのに、まだ準備が出来てないの?』


「ごめん!? すぐに準備するから、ちょっと待ってて!?」



 それから大体2時間程、僕は姉さんと定期ミーティングを行った。

 普段なら15分程度で終わるはずのミーティングがこんなに長引いた理由は、姉さんが仕事の話の合間にななちゃんの事について執拗に聞いてくるからである。



『それでそれで、斗真は神倉ナナとどこに行ったのよ?』


「もうその話は勘弁してよ!?」



 こんな会話がミーティング中ずっと行われていた。

 そのせいで僕は疲れ果ててしまい、PCの電源を落とすのと同時にベッドの上に寝ころんでしまう。



「ダメだ。一旦休憩をしよう」



 緊張の糸が途切れてしまったせいかそのままベッドの上で目を閉じてしまい、僕はそのまま眠ってしまった。


------------------------------------------------------------------------------------------------

ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


最後になりますが作者が執筆するモチベーションにも繋がりますので、作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る