第33話 配信者としての才能

 次に僕が起きたのは夕方だった。

 太陽が丁度沈んだ頃、僕は重い体を引きずりながらもそもそと布団から出る。



「もうこんな時間か」



 布団から出て時計を見た瞬間、お腹の音が鳴った。

 それは今まで聞いたことがないぐらい大きな音で部屋中に響き渡った。



「そういえば今日は寝てばかりで何も食べていない」



 最後に食事を取ったのは昨日の夕食なので、丸1日何も食べてないことになる。

 それだけの時間何も食べてなければお腹の音もなるだろう。

 


「自炊するのも面倒だし、キッチンの棚にあったカップ麺でも食べよう」



 今日は両親が家にいないので、自分で晩ご飯を作らなければならない。

 いつもだったらラーメンや炒飯等、比較的難易度が低い物を作って食べるけど、今日はそういう気分ではなかった。



「台所に行くんだから、スマホを持って行こう」



 机の上に置いてあったスマホを取ると着信が入っている。

 僕に連絡をくれたのは、この時間絶対に連絡をしない意外な人物だった。



「あれ? ななちゃんから連絡がきてる」



 もうすぐ配信が始まる時間なのに、彼女は何故僕に連絡をしてきたのだろう。

 配信中に連絡するのはまずいので、ななちゃんのYourTubeのチャンネルを見て配信をしていないか確認する。



「今日は休日だから、昼間に配信をしていたのか」



 配信アーカイブには1時間前に配信済みと書いてあったので、先程まで配信をしていたらしい。

 念のためYourTubeとSNSも確認するが、今日の配信は既に終わっているようだ。



「配信が終わってるなら連絡を入れても大丈夫か」



 そう思いななちゃんのプライベートアカウントに電話をかける。

 すると間髪入れずに彼女は僕の電話に出てくれた。


「もしもし‥‥‥」


『もしもし斗真君!? 大丈夫!?』


「僕は大丈夫だよ。どうしたの、何かあった?」


『よかった。さっきから電話をしても全然繋がらないから、倒れてるんじゃないかと思った』


「倒れてないよ。さっきまで姉さんとミーティングをしてて、それが終わって疲れちゃったからベッドに入ってそのまま寝たんだ」


『ミーティング? そういえば斗真君、お姉さんの事務所に所属してるんだよね?』


「そうだよ。ただ事務所に所属してるとはいえ、あくまでそれは一時的なものだよ」


『そうなの?』


「うん。春に行われたFPSの大会の後、僕のメールボックスには案件やコラボの依頼が殺到して、僕1人じゃ手に負えないから姉さんがそれを精査してくれてるんだ」



 そのおかげで僕はだいぶ楽をさせてもらっている。

 姉さんにこの事を相談した時、元々自分が誘ったことで起きた問題なので、それぐらいは手伝うと言ってくれた。

 こうして僕は仮所属ではあるが、今は姉さんの事務所にお世話になっている。

 もちろんこの問題が落ち着いたら、事務所を離れて一般人である神宮司斗真に戻るつもりでいた。



『いいなぁ。あたしもお仕事のメールとかよくくるから、それを返すのが大変で今でも四苦八苦してる』


「僕も元々使ってたメールボックスに大量のメールが届いたから、最初に見た時はびっくりしたよ」


『そんなにたくさんのメールが届いたって事は、本格的に配信者ストリーマーデビューするの?』


「しないよ。前も話したと思うけど、僕は配信者ストリーマーになるつもりはない」


『どうして? こんなにいっぱいお仕事がきてるなら、絶対才能があるのに。もったいないよ』


「それはあくまで一時的な物だよ。春の大会で良い成績を残したから呼ばれてるだけで、そろそろ旬が過ぎて仕事の連絡が減ってくる頃だと思う」



 なんだかんだいってあの大会から既に1ヶ月以上が経過している。

 だからそろそろ僕の仕事が減ってきてもおかしくないはずだ。



『でも本当に斗真君の仕事は減ってるのかな?』


「どういうこと?」


『だって今でもお姉さんが仕事の仕分けをしてるって事は、全然仕事の連絡が途絶えていないってことでしょ?』


「それはどうなんだろう。仕事の話は姉さんに任せてるから、僕もわからない」



 姉さんは何も言わないけど、そろそろ仕事の依頼が減ってくる頃合いだと思う。

 なので1度自分の目でメールボックスを確認してみた方がいいだろう。

 もしかすると殆ど仕事関連の連絡が入っていない可能性もある。



「(ただ1つ気になるのは、前よりも仕事の話が急に増えた気がする」



 それは姉さんとミーティングをしている時に思ったことだ。

 特にななちゃんとコラボしてから、前よりも仕事の話が増えた気がした。



『1度お姉さんに仕事の状況を確認してみたら?』


「そうするよ」



 きっと姉さんに聞けば、その辺りの事について教えてくれるだろう。

 どのぐらいの仕事が僕にきているか全部話してくれるはずだ。



『それじゃあ斗真君の疑問も解決した所で、今日も作業通話をしよう!』


「いいよ。今日は何をする?」


『今日はあたしがオススメのアニメを持ってきたから! それを見よう!』


「わかった」



 自分が配信者ストリーマーデビューすることは当分の間考えなくていいだろう。

 きっとこれは一過性の物なので、もう少し時間が経てばきっとみんな僕の事等忘れてくれるはずだ。



「それじゃあアニメを流すけど、斗真君は準備出来てる?」


「うん! 僕はいつでも大丈夫だよ」



 配信者ストリーマーデビューの話は一旦忘れ、僕はいつも通りななちゃんと一緒にアニメ鑑賞を始めた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の8時に投稿します。


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