第132話 夏の終わりに

 彩音さんの周年ライブの撮影が終わった数日後。夏休みが終わるまであと少しと迫ったある日、僕はななちゃんと久しぶりに出かけていた。

 出かけた場所は秋葉原。今日はこの街でテスト前に約束をしていた遊戯ダムやボケモンカードのお店をめぐるつもりだ。



「斗真君、こっちこっち! 早くお店に行こう!」


「そんなに慌てなくても、カードゲームショップは逃げないよ!?」



 あのライブが終わってからというものの、ななちゃんはよく笑うようになった。

 今も僕の手を取り、率先してカードショップへと向かっている。



「(ななちゃんに笑顔が増えた理由はきっと心に余裕が出来たからだろうな)」



 ダンスレッスンやボイスレッスンはあるものの、周年ライブが終わったことでななちゃんのスケジュールにはだいぶ余裕は出来た。

 最近は事務所にある僕の部屋に来て宿題をしたり、こうして2人で遊びに出かけている。



「目的のカードショップってこの信号を渡った先だっけ?」


「うん、そうだよ! 斗真君はデッキを持ってきた?」


「もちろん持ってきたよ。遊戯ダムとボケモンカードゲームのデッキを2つずつ持ってきてあるから、あとで対戦しよう」



 今日はカードショップにいくということなので、遊戯ダムのデッキだけじゃなくボケモンカードのデッキも用意してきた。

 ななちゃんもデッキを2つ持ってきていると思うので、今日はカード対戦とデッキの調整、そして必要であればカードを購入するという予定となっている。



「こうしてまた斗真君と一緒に遊べて嬉しいな!」


「またって言われてもあまりしっくりこないな」


「えっ!? どうして!?」


「ななちゃんはこの前一緒にコミフェスに行ったことを忘れちゃった?」


「もちろん覚えてるよ。でもあの時は帰りに琴音さんがいたからノーカンだよ」


「そうなの?」


「そうだよ。それにこうして2人でのんびり遊びに行くのは池袋に行って以来でしょ」


「確かにそうかもしれない」



 コミフェスの時は落ち込んでいたななちゃんを励ますために出かけただけだし、こうして元気なななちゃんと遊ぶのは久しぶりかもしれない。

 それこそ夏休みに入って彼女がこんなに笑っているのを初めて見た。

 それだけあの周年ライブの収録が重荷になっていたんだと今になって思う。



「(この夏は色々あったけど、ななちゃんと濃密な時間を過ごせたな)」



 気が付けば今年の夏休みはななちゃんと一緒に過ごしていた。

 朝起きてから寝るまでの間、ずっと彼女が隣にいた気がする。



「(でもそのおかげで、ななちゃんへの理解が前よりも深まった気がする)」



 ななちゃんの好きな物や嫌いな物だけでなく、彼女がどういう人なのかというのがわかった気がする。

 そして何よりお互いの心の距離がものすごく近づいた気がした。



「そういえばななちゃん」


「何?」


「今年の夏休み楽しかった?」


「うん、楽しかったよ! 斗真君はどうだった?」


「僕も楽しめたよ。今まで過ごした夏休みの中で1番楽しかったかもしれない」



 それはきっとななちゃんが一緒だったから、こんなに楽しめたのだろう。

 僕1人だったら例年通りずっと家の中に引きこもって、ゲームをして終わっていたに違いない。



「斗真君、ありがとう」


「何が?」


「斗真君のおかげで今年の夏は例年より楽しく過ごせたよ」


「僕の方こそお礼を言わないと。ななちゃんと一緒に夏休みを過ごせたおかげで、今までで1番充実した夏休みが送れたよ。本当にありがとう」


「どういたしまして。これからもいっぱい2人だけの思い出を作ろうね」


「うん! ‥‥‥待って、ななちゃん!? それってどういう意味!?」


「し~らな~い♡」



 ななちゃんは惚けているが、僕の耳にははっきり聞こえたぞ。2人きりの思い出という言葉を。

 あれは一体どういう意味で言ったのだろう。ななちゃんが言った言葉の意味を理解できず悶々としてしまう。



「ほら、斗真君! 信号が青になったから行こう」


「うっ、うん!?」



 信号機の色が青になったことで、話をはぐらかされてしまった。

 こうなってしまっては仕方がない。またの機会に聞こう。



「見つけた! あたしが話していたお店はあそこだよ!」


「ここがななちゃん一押しのお店なんだ」


「うん! だから早く入ろう!」



 この夏休みを通じて、僕はななちゃんと仲良くなれたのだろうか。

 学校で高嶺の花と言われている柊菜々香と一緒に遊んでると1年前の自分に言ったら、一笑に付されるだろう。

 だけどその出来事は現実であり、ななちゃんは僕の隣で微笑んでくれている。

 出来ればこの笑顔をこの先も守っていきたい。彼女の笑顔を見ながら僕は強くそう思った。



「どうしたの、斗真君? そんなところでぼーーーっとして?」


「何でもないよ!? それよりも早くお店に入ろう」



 夏休み最後の日、僕はななちゃんと2人でカードショップ巡りを始める。

 いつものようにななちゃんと手を繋ぎながら、2人でカードショップの中へと入っていった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます。

これにて2章は終了となります。


3章についてですが、これがこの物語の最終章になります。

ここまでは1章で学校内、2章で事務所内の話を書きましたが、3章ではそれらのキャラクター達が色々な場面で交錯します。

学園内のキャラクターと事務所の人達が斗真と菜々香にどのように関わってくるのか楽しみにしてください。

最終章の3章に関しては現在執筆中ですので、もうしばらくお待ちください。


最後になりますが、ここまでこの作品を読んでいただきありがとうございます。

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同じクラスにいる清楚で可憐な優等生がちょっとエッチなお姉さん系VTuberだった 一ノ瀬和人 @Rei18

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