第118話 花火大会

「やっぱり花火大会は人がたくさんいるわね」


「これだけ人が多いとはぐれないか心配になるよ」



 この地域では最大級の花火大会ということもあって人が多い。

 今は全員固まって行動しているけど、少しでも離れると迷子になりそうだ。



「これだけ人が多いとどの場所で花火を見るか考えないといけないわね」


「それなら僕、いい場所を知ってるよ! 海辺の方に向かって歩いて行こう」


「海辺の方に向かって歩くのはいいけど、あっちには何があるの?」


「広場だよ。海辺の方に遮蔽物が何もない大きな広場があるから、みんなそこに向かってるんだよ。だから僕達もそこへ行こう」



 事前に調べた情報だと、海辺の方に歩いていくと大きな広場がある。

 有料席に座れない一般参加の人達はそこに集まって花火を見るらしい。



「わかったわ。そしたら私達をその場所まで案内して」


「了解! その場所まで僕が案内するから、みんな着いてきて」



 昨日と同じ轍は踏まないと思い、この花火大会について事前に調べてきてよかった。

 唯一想定外だと思ったのはこの人込みだ。こんなに人がたくさんいてみんなとはぐれないか心配だった。



「斗真君」


「ななちゃん、どうしたの?」


「こんなに人がいっぱいいると迷子になるかもしれないから、はぐれないよう手を繋いでもいい?」


「もちろんいいよ」



 ななちゃんから差し出された手を僕は優しく握る。

 彼女もその手を握り返して、僕に微笑みかけてくれた。



「ここから先は人が多いから、僕の手を放さないでね」


「うん♡」



 なんだかこうしてななちゃんと手を繋いでるとこそばゆい気持ちになる。

 僕達はまだ付き合ってもないのにこういうことをしているけど、ななちゃんが不快に思ってないか心配になった。



「あたしは斗真君と手を繋げて嬉しいから、心配しなくていいよ」


「えっ!? 僕ななちゃんに変なことを言った?」


「言ってないよ。だけど斗真君が不安そうな顔をしてたから、何となくそう思っただけ。違った?」


「違くないよ。なんだかななちゃんには僕の考えていることが全て見透かされている気がする」


「そんなことないよ。あたしは何となく斗真君のことがわかるだけだよ」


「本当?」


「うん! だってこの夏休みはずっと斗真君と一緒にいたんだもん。だから斗真君の考えてることは大体わかるよ」


「まいったな。これだと僕はななちゃんに隠し事が出来ないじゃん」


「うん! だから斗真君も何かあったら、あたしに話してね♡」



 なんだかななちゃんには僕の心の内まで見抜かれているようだ。

 さっきよりも強く僕と手を繋ぎ、僕から離れないように体を寄せていた。



「斗真と菜々香、とってもラブラブ」


「こっ、これはラブラブじゃなくて、ななちゃんとはぐれない為にしていることです!?」


「そっ、そうですよ!? 秋乃先輩!? 勘違いしないでくださいね!?」


「2人で同じことを言ってるのがますます怪しい」


「「怪しくないです!!」」



 こうして秋乃さんにラブラブだと言われると恥ずかしい。

 ななちゃんも僕と同じ気持ちなのか、隣にいる彼女の顔を見ると真っ赤になっていた。



「そういえば秋乃さん、姉さん達はどこにいるんですか?」


「私もわからない。気づいたらみんないなくなってた」


「こんなに人が多いのに早速迷子になったのか」



 この人込みの中、姉さん達を見つけるのは至難の業だ。

 最悪僕達が先に広場で場所取りをして、そこを目指して姉さん達に来てもらった方がいい。



「しょうがないな。姉さんには連絡だけ入れて、先に広場に行くか」


「私の事を呼んだ?」


「姉さん!? さっきから姿が見えなかったけど、どこに行ってたの?」


「すぐそこのコンビニ前で、彩音達と話してたのよ」


「そういえば彩音さんとサラさんがいないけど、どこに行ったの?」


「あの2人はコンビニに寄ってからこっちに合流するみたいよ。だから先に広場に行っててと言ってたわ」


「そうなんだ。ならしょうがないな」


「でも、コンビニに寄るなんて変じゃないかな?」


「ナナはどうしてそう思ったの?」


「だって飲み物や食べ物は斗真君のリュックに入ってるんだから、今更コンビニで買い物をするようなことは‥‥‥」


「ななちゃん、たぶん彩音さん達は大丈夫だよ」


「本当なの、斗真君?」


「うん。たぶんあの2人の事は気にしなくていいと思う」



 今の話で姉さんがあの2人に何をしたのかわかった。

 大方姉さんが彩音さんとサラさんに何か言ったのだろう。

 たぶんこれからあの2人は僕達と別行動するに違いない。だからあの2人のことは放っておいても問題ないだろう。



「それじゃあ行くわよ! 斗真、ちゃんとビールは持ってきた?」


「そんなの持ってくるわけないじゃん!? 僕はまだ未成年だよ!?」


「だったら行く途中で買っていきましょう! さぁ、花火が楽しみだわ!」


「姉さんは花火よりもビールが楽しみなんじゃ‥‥‥」


「何か言った?」


「何でもありません!?」


「それじゃあ早速行きましょう! ビールと花火が私を待ってるわよ!」



 それから姉さん扇動の元、僕達は広場に向かって歩き始めた。


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