第117話 斗真提案のイベント
ななちゃんとコミフェスに行った次の日の夕方、僕と彩音さんは事務所のソファーに座っていた。
「それにしてもサラ達は遅いな。何をしているんだろう」
「きっと今頃今日のイベントに行く為の準備をしているんですよ。ここは大人しく待ちましょう」
彩音さん以外の女性陣はみんな準備があるといい、サラさんの部屋に集まっている。
そこで何をしているのか僕は知らない。むしろ彩音さんこそその集まりに参加していてもおかしくないのに、何故こんな所にいるのだろう。その理由がわからなかった。
「時に斗真君」
「何ですか?」
「有明方面で行われる花火大会なんて、君はよくあんな面白そうなイベントを見つけてきたね」
「昨日偶然コミフェスの帰りに見つけただけですよ。僕がみんなと遊びたかっただけなので、気にしないでください」
「えっ!? 斗真君は昨日コミフェス行ってきたの!?」
「そうですよ。何か問題がありましたか?」
「あるに決まってるだろう!! コミフェスに行くなら僕も誘ってよ! 1人よりも2人で行く方があのイベントは楽しいでしょ!!」
「もしかして彩音さんも昨日コミフェスに行ったんですか?」
「昨日は行ってないよ。僕は今日コミフェスに行ってきたんだ」
「今日行ったんですか!? ‥‥‥そういえば彩音さん、今日は1日休みでしたよね?」
「そうだよ! この日を迎えるにあたって、琴音さんに土下座をして無理矢理休みを取ったんだ」
「なんて邪な理由で休みを取ったんだ」
「何とでもいってくれ。今日はエッチな女の子の本がいっぱい並ぶ‥‥‥いや、可愛い女の子の本がいっぱいある日だからね。それを一通り買い占めてきたよ」
「取り繕っても遅いですよ。今完全にエッチな本が目当てと言っていたのを聞き逃しませんでしたよ」
つまりこの人は今日のコミフェスで自分のオカズに出来るようなエッチな本を買いに行ったのである。
どうりで今日1日姿が見えなかったわけだ。あそこに行くだけでも大変なのに、よく待ち合わせ時間に間に合うように帰ってこれたな。
「やはり斗真君の事は欺けなかったか」
「彩音さんの心の声は駄々洩れなので、僕以外の人でも気づくと思いますよ」
「むぅ。さっきから斗真君は硬派を気取ってるけど、少しは自分の欲に素直になった方がいい」
「どういうことですか?」
「言葉の通りだよ。斗真君はもっと性に対してオープンにした方がいいよ」
「彩音さんが僕のことをどう思っているかわかりませんが、そういう話を公の場で話す事は駄目だと思います」
「いいんだよ。こういう事はオープンに言った方が。『エッチな女の子が大好き!!』 ってみんなに向かって堂々と言った方が、悶々とした気持ちを抱えなくて済む」
「物事をオープンに言う性格のせいで、サラさんと喧嘩してるくせに」
「それは言わないでほしい。いまだにサラのやつ、僕と口を聞いてくれないから困ってるんだよ」
こんなに落ち込んでいる彩音さんの姿を見るのは初めてだ。
その様子を見るとよっぽどサラさんと仲違いしているのが堪えているように見える。
「今日のイベントはサラさんも来るので、何とかしてサラさんと仲直りしてください」
「もしかして君がわざわざこのイベントに誘ってくれたのは、それが理由だったの?」
「他にどんな理由があるんですか?」
「てっきり君と神倉さんのラブラブっぷりを僕達に見せつける為だと思ってたよ」
「そんな事するわけないじゃないですか!?」
「ラブラブって所は否定しないのか。さすが斗真君。略してさすとまだな」
「流行らない言葉を使うのはやめてください!?」
こんな切迫した状況なのにも関わらず、この人は僕をからかって楽しんでるな。
ここ最近サラさんに口を聞いてもらえないからといって僕をからかわないでほしい。こんな事をされるなら、このイベントなんて企画しなければよかった。
「お待たせしました!」
「うわぁ~~!? みんな可愛いね! その浴衣似合ってるよ!」
「ありがとうございます!」
事務所に入ってきたななちゃん達は色とりどりの浴衣を着ている。みんながこのような姿になったのはひとえにサラさんのおかげだ。
昨日の夜サラさんにこのイベントを話したら、せっかくだからといって家の中に余っている浴衣を人数分取り寄せてくれた。
そのおかげでお祭り気分で今日のイベントを楽しむことが出来る。
こういう事をさりげなくしてくれたサラさんに対して、僕は感謝していた。
「ナナさん、彩音のいうことを真に受けない方がいいですわ」
「そうそう。彩音は誰にでも可愛いっていうから、あの人の事は無視していいよ」
「サラも秋乃もそんな無粋な事を言わないでよ!? 斗真君も神倉さんの浴衣姿を見て、可愛いって思わない?」
「もちろんななちゃんの浴衣姿が1番可愛いと思ってます。でも、サラさんや秋乃さんの浴衣も可愛いですよ」
浴衣を着る3人の仲で、特に僕が目を引いたのはななちゃんが着ている青の浴衣だ。
綺麗な花の模様が描かれている浴衣はとても綺麗で彼女にぴったりである。
「なんだかあまり褒められている気がしないのは私だけ?」
「秋乃、斗真君は私達のことを一応褒めてくれています。だからここは素直にありがとうと言っておきましょう」
「そうだよね。斗真がそう言うなら、私は信じるよ。ありがとう!」
サラさんのいい方だとまるで僕がサラさんと秋乃さんのことを褒めていないように聞こえる。
2人共街を歩けば10人中9人が振り向くぐらい可愛い姿をしているから褒めたのに。なんだか釈然としないな。
「何で2人は僕の事は信じてくれないのさ!? 斗真君なんてきっと神倉さんにしか興味が‥‥‥」
「彩音、あんたは少し黙ってなさい!!」
「痛っ!? いきなり暴力を振るうなんて酷いですよ、琴音さん!?」
「ねっ、姉さん!? どうしたの!? 今日は朝から晩まで仕事だと言ってたでしょ?」
「仕事は仕事だけど、予定より早く終わらせて帰って来たのよ。このイベントの為に」
「えっ!? もしかして姉さんもこのイベントに行くつもりなの?」
「当たり前でしょ。事務所に所属するタレントが全員参加するのに、社長の私が参加しなくてどうするの? それこそ本末転倒じゃない」
昨日姉さんにこのイベントについて話した時、あっさりOKが出たのはこういうことだったのか。
正直姉さんがついてくるのは頼もしいことがある反面不安も残る。
この後何も起こらないことをひっそりと祈っておこう。
「それじゃあみんな、準備が出来たなら行きましょう。早くしないと花火大会が始まっちゃうわよ」
「はい!」
それから姉さんを先頭に僕達は花火大会の会場へと行く。
会場の最寄り駅に行くと既に大勢のお客さんがいた。
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