第93話 バカップルの夕食風景

「お待たせ、斗真君。あたし特製の料理が出来たよ」


「ありがとう、ななちゃん。結構時間が掛かったね」


「うん! せっかくの機会だから、いつもより凝った物を作ったんだ!」



 凝った物を作ったという事は、普段僕が中々食べられないものを作ってくれたに違いない。

 正直ななちゃんと一緒にご飯が食べられるだけでも嬉しいのに、美味しいご飯まで作ってもらえるなんて。こんなに幸せな事はないだろう。



「こんな美味しそうな料理が食べれて、ななちゃんには感謝しかないよ。いつもありがとう」


「どういたしまして! それよりもあたしが何を作ったか当てて見て」



 ななちゃんに促されるまま、僕はテーブルに置かれた彼女の料理を見る。

 テーブルには茶色いスープが入った食器が置かれている。



「(食べ応えがありそうな牛肉にニンジンやジャガイモ。そしてブロッコリーが入ってる)」



 その食材が入っていることがわかれば、おのずと料理名が浮かんでくる。

 この料理は僕の好きな料理の1つだけど作るのが大変なので、普段は滅多に食べられないレアな料理だということがわかる。



「たぶんこれはビーフシチューだ!」


「正解! 前に斗真君と一緒に行ったスーパーでビーフシチュー用のお肉が安く売ってたから買ってきたんだ」


「なるほど、そうだったのか」


「なんだか反応が微妙だけど、もしかしてビーフシチューは嫌いだった?」


「全然嫌いじゃないよ!? むしろ好きな部類だから、作ってくれて嬉しい」



 家では中々食べられないこんな凝った物を作ってくれて凄く嬉しい。

 今すぐにでもシチューを食べてななちゃんに味の感想をいいたいけど、何故か僕の席にスプーンがなかった。



「あれ? ななちゃん。僕のスプーンは?」


「ないよ」


「えっ!? 僕のスプーンはないの!?」


「うん! でも大丈夫だよ。あたしが食べさせてあげるから」


「えっ!?」


「ほら、斗真君。あ~~~ん♡」



 唐突に僕の前にビーフシチューをよそったスプーンが差し出される。

 あまりに唐突な行動のせいで頭が追い付いてこない。一体ななちゃんは僕に何をするつもりなんだ?



「ななちゃん、これは‥‥‥」


「あたしが作ったビーフシチュー、食べてくれないの?」


「えっ!?」


「斗真君に食べてもらいたくて、頑張って作ったのに‥‥‥」


「いっ、いただきます!!」



 こんなに可愛い声で懇願されたら食べるしかないだろう。

 脳がこの状況を処理する前に、僕は差し出されたスプーンにかぶりついた。



「んんっ!?」


「どう? あたしが作ったシチュー」


「凄く美味しいよ!! 洋風レストランのビーフシチューよりも美味しい!」


「斗真君が喜んでくれてよかった!」


「市販のルーを使って、こんなに美味しく作れるんだ。凄いね」


「えっ!? このビーフシチューは市販のルーは使ってないよ」


「嘘!? ってことはこのビーフシチューはスープを1から作ったの!?」


「そうだよ。これは市販のルーじゃなくて、自分で作ったんだ」


「だからこんなに美味しいんだ」



 ななちゃんが料理上手なのは知っていたけど、こんなに色々な事が出来るなんて思わなかった。

 この前のオムライスも美味しかったし、彼女の旦那さんになる人は幸せだろうな。

 僕の前に座るななちゃんは美味しそうにシチューを食べる僕の事を嬉しそうに見守っていた。



「次は斗真君があたしに食べさせて」


「えっ!?」


「はい! このスプーンを渡すから、それを使って食べさせてね♡」



 このスプーンって、さっき僕が食べたスプーンじゃないか!? これをななちゃんの口に押し込まないといけないの!?



「これってもしかして間接キス‥‥‥」


「どうしたの、斗真君?」


「なっ、何でもないよ!?  気にしないで!?」



 もしかして間接キスを意識してるのは僕だけなの?

 ななちゃんは全然気にしてないし。僕が自意識過剰なだけなのかもしれない。



「はい、あ~~~ん♡」



 目の前には目をつむって口を半開きにするななちゃんがいる。

 こうしてななちゃんの顔を間近で見ることが殆どないから知らなかったけど、ななちゃんってこんな色っぽかったんだ。

 唇は血色がいい赤色で肉厚もあり柔らかそうだし、切れ長いまつげはまるでテレビに出てくる芸能人を見ているようである。



「斗真君、遅いよ」


「すいません!?」



 えぇい!! こうなったら仕方がない。男は度胸だ!!

 シチューをこぼさないようにななちゃんの口にスプーンを近づける。

 そしてビーフシチューの入ったスプーンがななちゃんの口の中に入れた。



「うん! 我ながらこのビーフシチューは満足できる味に仕上がってる」


「そうだね‥‥‥」


「どうしたの斗真君? そんなに顔を赤くして?」


「なっ、何でもないよ!?」



 駄目だ、気をしっかり持たないと。今日のななちゃんは月島さん以上に色っぽい表情をしている

 普段学校でこんな色っぽい姿を見せないはずなのに。何で今日に限ってそういう姿を僕に見せるのだろう。

 配信が終わったばかりだといつもとは違う雰囲気に戸惑いっぱなしだ。

 今のななちゃんはいつも学校で見せる柊菜々香ではなく、配信上で見ている神倉ナナを見ているようだ。



「そしたら今度はあたしが斗真君に食べさせてあげる」


「えっ!?」


「交換交換でシチューを食べさせあおうと思うんだけど、ダメ?」


「ダメ‥‥‥じゃない‥‥‥」


「ありがとう♡ そしたらそのスプーンをもらうね!」



 そんな上目づかいで見られたら、断るに断れないじゃないか!!

 僕からスプーンを受け取った彼女は嬉しそうに笑う。僕にスプーンを向けるその表情はニコニコと嬉しそうに笑っている。



「はい、斗真君。あ~~~ん♡」


「あん!」


「美味しい?」


「うん。ものすごく美味しいよ」



 こんな光景を姉さん達に見られたら、絶対にバカップルと言われるに決まってる。

 だけどななちゃんはこの食べさせあいをやめることはない。むしろ積極的に僕の口にスプーンを運んでいる。



「そしたら次はあたしが食べるね」


「うっ、うん」



 途中から恥ずかしすぎて、並んでいた夕食がどんな味をしているのかわからなくなってしまう。

 結局2人で1つのシチューを食べきるまで、この食べさせあいは続いた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。


最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。


追記 2/29


本日の更新についてですが、作品のクオリティーを上げるために時間は未定とさせてください。

遅くても明日の7時にまた更新しますので、よろしくお願いします。


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