第92話 お泊りデート
「お疲れ様、ななちゃん」
「斗真君! ありがとう」
「えっ!? 僕、何かした?」
「うん! 斗真君がモデレーターをやってくれたおかげで、いつもよりコメントが拾いやすかったよ!」
「そう言ってもらえると、僕も頑張ったかいがあるよ」
正直この作業に意味があるのかわからなかったけど、ななちゃんがこれだけ喜んでくれるのならやってよかったと思う。
僕は配信初心者だからわからないけど、普段から配信をしている人にとって、モデレーターがいるかいないかでやりやすさが全然違うみたいだ。
「それじゃあ菜々香ちゃんの配信も終わったことだし、この辺でお開きにしましょう」
「姉さんはこの後は事務所に行くの?」
「いかないわよ。私はこのままどこかで外食をしてくるわ」
「えっ!? 姉さんはもう帰るの?」
「うん。だって私がやることはもうないからね。今日はサラも夕食を作らないみたいだし、このままどこかで食べてくるわ」
なるほど。あの2人の喧嘩はそういう風に収まったのか。
サラさんが今日夕食を作らない理由は、たぶん彩音さんのせいだろう。
「(まだ彩音さんはサラさんのご機嫌取りが終わらないんだろうな)」
どうやらあの2人の喧嘩はまだ続いているらしい。
そしてその余波が今日の夕飯にまで及んだわけだ。
「菜々香ちゃん、親御さんにはちゃんと連絡しておいたから。今日はゆっくりしていってね」
「はい! ありがとうございます」
「ちょっと待って!? ゆっくりしていくって、どういうこと?」
「あれ? 聞いてないの? 今日菜々香ちゃんはこの事務所に泊っていくのよ」
「嘘!?」
「本当よ。斗真も知っている物だと思っていたけど、知らなかったんだ」
「うん。その話は初めて知った」
朝早くから遊ぶ約束はしていたけど、事務所に泊ることは聞いていない。
どうりでななちゃんの荷物が多かったわけだ。
彼女が僕の家に来た時、大量の食材に入ったビニール袋に目がいったせいで見落としていたけど、大きな荷物を持っていたのはそのせいだったのか。
「菜々香ちゃん、この部屋は自由に使っていいからね」
「はい! ありがとうございます!」
「何かあったら、隣の部屋にいる斗真を頼りなさい。一応この建物にある部屋の事は全て熟知してるから、頼めば何でもやってくれるはずよ」
「わかりました!」
「ちょっと待ってよ、姉さん!?」
「どうしたのよ、斗真? そんなに慌てて?」
「ななちゃんがここに泊っていくって正気!? 僕もいるんだよ!?」
「あんたは菜々香ちゃんの隣の部屋なんだから問題ないでしょ。それとも何? もしかしてあんたはみんなが寝静まった頃を見計らって、菜々香ちゃんに夜這いでもする気なの?」
「そんなことするわけないでしょ!?」
「なら問題ないじゃない。じゃああとはよろしくね」
そういうと姉さんは部屋を出て行ってしまう。
どうやら本当にななちゃんはここに泊っていくらしい。彼女は今も僕の事をチラチラと見て様子を伺っている。
「ごめんね、斗真君。このことを伝えてなくて」
「謝らなくていいよ。むしろ夜遅くまでななちゃんと遊ぶことが出来て、僕は嬉しい」
「本当?」
「本当だよ。昼間は彩音さんとダンスレッスンをしていて全然遊べなかったから、後でカードゲームをしよう」
こういうのが結果オーライというのかもしれない。
昼間は全然遊べなかったので、今日の夜はその分ななちゃんと遊ぼう。
「こういうのって修学旅行の夜みたいでわくわくするね」
「修学旅行だと男女別々の部屋にわけられるから、一緒に遊べないけどね」
そう考えるとこうしてななちゃんと一緒にいるのがおかしい気もしてきた。
ななちゃんが隣の部屋にいるからといって、同じ建物内で一夜を共にするんだ。
しかも学校みたいに先生達の監視の目もないので、部屋を自由に行ききできる。
つまり僕達が望めば、同じ部屋で一緒に寝ることも出来てしまう。
「(そんな想像をしていたら、急に顔が熱くなってきた)」
ななちゃんと一緒に寝ることはないと思うけど、夜遅くまで彼女と一緒に入れると思ったら急に恥ずかしくなってくる。
ななちゃんも僕と同じことを思ってるのか、顔を真っ赤にして俯いていた。
「そういえば斗真君、お腹が空かない?」
「そういえばお昼ご飯を食べてから、何も食べてない」
「それならあたしがご飯を作るから一緒に食べよう。今日の朝お昼ご飯の食材を買うついでに夕食の買い物もしてきたんだ」
「だからあんなに荷物が多かったのか」
「うん、そうだよ!」
今までの話を聞いてななちゃんがダンスレッスンの後、替えの下着を持っていた理由もわかった。
あれは最初からここに泊っていくことを想定して準備していたから、下着を持っていたんだ。だから僕の部屋でシャワーを浴びていた時、すんなりと替えの下着に履き替えたのかもしれない。
「今から夕食を作るから、斗真君はそこで待ってて」
「いやせっかくだから、僕も夕食を作りを手伝うよ」
「ありがとう。でもあたし1人で作るから大丈夫だよ。その気持ちだけで十分だから、斗真君はリビングで待ってて」
「わかった」
僕がリビングで座って待っている間、ななちゃんが嬉しそうに夕食を作りを始める。
その間僕はスマホを使って、今日のななちゃんの配信を見た人達の感想を見ていた。
「(一体ななちゃんは何を作ってくれるんだろう?)」
お昼ご飯に作ってくれたトマトパスタはものすごく美味しかった。もしかしたら夕食はそれ以上の物を作ってくれるかもしれない。
僕がななちゃんの料理に期待を膨らませていると、テーブルの上に食器が置かれる音が聞こえた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。
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