第91話 復帰配信

「Live2Dも問題なく動くし‥‥‥OBSも大丈夫! ななちゃん、配信準備が出来たよ!」


「ありがとう! それにしても斗真君は凄いね! パソコンの設定をするのって大変なはずなのに、ものすごく手際が良かったよ」


「そういう作業はここに来てから散々やらされたからね。あれだけの台数を設定していたら、嫌でも覚えるよ」



 それこそ機材設定をする際、何度姉さんに注意されたかわからない。

 彩音さんやサラさんが使っているパソコンでトラブルが起こった際も僕1人で対応していたので、この手の作業に慣れてしまった。



「それにしてもこの部屋って凄いよね。防音室が完備されてるだけでもありがたいのに回線スピードも早いなんて、あたしの家よりも快適な環境で配信が出来るよ」


「そうなるように作られてるからね。この部屋は姉さんのこだわりが細部まで詰まってるんだ」



 そのせいで結構な費用が掛かったと本人は言っていた。

 だがそのおかげで配信者が気分よく配信できるんだから、姉さんも本望だろう。

 彩音さんやサラさんも普段あんなに忙しそうにしているのに、毎日のように配信しているのはこういう環境にいるせいでもある。



「お疲れ様。斗真、配信の準備は終わった?」


「ちょうど今配信準備が終わったところだよ」


「そう。それならいいわ。菜々香ちゃんはここのパソコンは使いこなせそう? 自宅の物と勝手が違うかもしれないけど大丈夫?」


「はい、大丈夫です。むしろこの場所はあたしの家よりも快適です」


「それはよかったわ。今日は私と斗真が隣の部屋で待機してるから、何か会ったらスマホで連絡を頂戴」


「わかりました」



 ふぅ、これで僕の仕事は終わりだな。

 あとはリビングにでななちゃんの配信を楽しく聞いてればいいか。



「斗真はなに『一仕事終えました』みたいな顔してるのよ」


「そうは言っても、もう僕に出来ることはないでしょ?」


「何を言ってるのよ? 菜々香ちゃんの配信のモデレーターはあんたがやるのよ」


「えっ!? 僕がやるの!?」


「菜当たり前でしょう。他に誰がやるっていうの?」



 ここで『姉さん』と言ったら、即座に殴られていただろう。

 咄嗟に余計なことを言わなかった自分を褒めてあげたい。



「菜々香ちゃんのマネージャーは斗真なんだから、あんたが彼女のことをサポートしてあげなさい」


「わかった。そういうことなら、僕がななちゃんのモデレーターをやるよ」


「ありがとう、斗真君!」


「菜々香ちゃん、もし今日の配信で誹謗中傷のコメントがきても、全部斗真が何とかするから安心して。今日の配信で失敗したとしても全部斗真の責任だし、気負わなくていいわ」


「ちょっと待ってよ、姉さん!? そんなプレッシャーをかけたら、僕が潰れると思わないの!?」


「思わないわよ。あんたはプレッシャーが掛かってた方が力が出るタイプでしょ。だから問題ないわ」


「僕は姉さんにそう思われてたんだ」


「斗真は自分がどんなタイプだと思っていたの?」


「それはもちろん、褒められて伸びるタイプだと思ってたよ」


「これは私からのアドバイスだけど、あんたはそういうタイプじゃないから今すぐ認識を改めなさい」


「酷い!?」



 自分は褒められて伸びるタイプだと思っていたのに。その真逆のタイプだなんて思わなかった。

 そういえば春のエペ大会の時も試合が始まる前、姉さんに散々プレッシャーをかけられた気がする。

 もしかするとあれも姉さんなりの激励だったのかもしれない。



「それよりももうすぐ配信の時間よ。菜々香ちゃんは防音室で配信の準備をしてちょうだい」


「わかりました」


「斗真は私と一緒にリビングで待機するわよ」


「わかった」



 それから僕達はそれぞれの場所へと移動する。

 僕と姉さんはリビングでノートPCを開き、ななちゃんが配信を始めるのを待つ。



「それにしても姉さん」


「何?」


「僕は今までモデレーターなんてやったことがないけど大丈夫?」


「大丈夫よ。作業をしながらでもすぐ覚えられるから問題ないわ」



 姉さんは軽く話してるけど、そんなにモデレーターって簡単なのかな?

 この前僕が配信をしていた時横目で姉さんの様子を見ていたけど、姉さんのパソコンを見る目は真剣そのものだった。

 あの様子を見ていたら、何も知らないずぶの素人が簡単にできるような作業ではないような気がした。



「さぁ、配信が始まるわよ。あんたも気合入れなさい」


「うん」



 ななちゃんの配信が始まると同時に僕もコメント欄を開く。

 既にコメント欄の文字が動くスピードが早くて何が書いてあるのか読み取れない。



「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん‥‥‥‥10万!?」


「凄いわね。もう同時接続数が6桁になってるわ」


「普段からななちゃんの配信ってこんなに人がいるの!?」


「普段はもっと人数が少ないわよ。ただ今日はあの事件が起きた後の配信ということで、多くの人達が見にきているのかもしれない」


「なるほど」


「それに菜々香ちゃんは突然うちの事務所に所属したでしょ。だから余計に注目を集めてるのよ」



 姉さんの言う通り、言われてみれば今のななちゃんは色々と世間の話題を集めている。

 ネット界隈で注目を集めた盗撮事件に僕が起こした売名配信。これだけでも話題性は十分なはずなのに、個人勢から卒業して事務所と契約までしてしまった。

 この短期間で様々な事が起こり過ぎた結果、普段ナナちゃんの配信を見ていない人達まで彼女の配信を見に来たのかもしれない。



「姉さん、これはどうすればいいの?」


「コメントの中に『〇ね!!!』とか『く〇アマ!!』とかわかりやすい誹謗中傷があるでしょう。そういうのを1つずつ消していくのよ」


「それだけでいいの? 身バレにつながるようなコメントも中にはあるんじゃない?」


「もちろんそういうのもあるけど、まずは明らかな誹謗中傷のコメントを消していきましょう」


「わかった」


「あまりにそういうコメントが多い人はブロックするといいわ。そうすると作業が一気に楽になるから」



 姉さんの言われた通り、そういうコメントを消去orアカウントをブロックしていく。

 あまりにもしつこく誹謗中傷しているリスナーは都度都度ブロックをしていくと、コメント欄が見やすくなった気がした。



「いくつかのアカウントをブロックしたら、だいぶコメント欄が見やすくなったよ」


「大抵こういうのは同じ人が連投してるのよ。今の所大丈夫だから、その調子で続けなさい」


「わかった」



 作業をやっていく内にだんだんとコツがつかめた気がした。

 不必要な物は消し、あまりにもしつこいものに関してはブロックをする。

 よく見ればななちゃんの事を誹謗中傷している人はほぼ同一人物なので、その人達をブロックすればいい。思っていたよりも楽な作業である。



『それじゃあみんな、今日はありがとう。明日からまた配信をするので見にきてね! おつなな~~~』


「よし、これで終わった!」


「よくやったわ。初めてにしては上出来よ」


「そう?」


「そうよ。今日は復帰配信だから人が多かったけど、次回から菜々香ちゃんの配信を見に来る人が少なくなるはずだから、コメント欄はきっと落ち着くと思う。だから今日よりもずっと仕事が楽なはずだわ」


「そうだと嬉しいんだけど‥‥‥」



 なんだか前に見た時よりもななちゃんの同接数やチャンネル登録者数が増えているのは気のせいかな?

 今日の配信の様子を見ると、これからも万単位の人達が見に来そうだ。そうなった時、僕1人でコメントを捌けるのか不安で仕方がない。



「そんな不安そうな顔をしないの。もうすぐ菜々香ちゃんが戻って来るんだから、笑顔で迎えてあげなさい」


「わかった」



 それから僕と姉さんはななちゃんがリビングに戻ってくるのを待つ。

 配信が終わって数分後、少しだけお疲れ気味のななちゃんが防音室から出てきた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。


最後になりますがこの作品がもっと見たいと思ってくれた方は、ぜひ作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。

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