第90話 余計な一言
「あっ!?」
「どうしたの、ななちゃん?」
「お昼ご飯の時間がもう過ぎてる!?」
「確かにお昼の時間は過ぎてるけど、そんなに焦る必要ってある?」
「あるよ! 今日は斗真君の為に美味しいご飯を作ろうと思ってスーパーで買い物をしてきたのに。これじゃあ台無しになっちゃう!?」
「そんなことは気にしなくていいよ。今日はもう遅いし出前でも頼もう」
「ダメ!! 斗真君のご飯はあたしが作るの!!」
「わかった。そしたらお願いします」
ななちゃんがここまで僕のご飯を作るのに執着する理由は何なんだろう。
僕としては彼女のご飯が食べれて嬉しいけど、ここまで気を使わなくてもいいのに。
いつもこの事務所に来て食事を作ってくれているななちゃんに僕は頭が上がらなかった。
「斗真君はやけに機嫌がいいね。そんなに神倉さんの料理が楽しみなの?」
「はい! すごく楽しみです!」
「そんなにはっきり言われると、僕も反応に困るな。そんなに神倉さんの料理は美味しいの?」
「はい! ななちゃんの料理は凄く美味しいですよ! 今日は一体何を作ってくれるんだろう」
「それは出来てからのお楽しみだよ! 部屋に戻ったらすぐ作るから、もう少し待っててね」
何を作ってくれるかわからないけど、今から昼食が楽しみだ。
この前作ってくれたオムライスもものすごく美味しかったので、ななちゃんへの期待値は天井知らずとなっている。
「神倉さん」
「何ですか、彩音先輩?」
「昼食の話なんだけど、僕もご相伴に預かってもいい?」
「いいですよ! あたしにダンスを教えてくれたお礼に今日は腕を振るいます」
「やったあぁぁぁぁぁぁぁぁ!! あの神倉ナナのご飯が食べれるぞおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
「彩音さん、喜びすぎじゃないですか?」
「斗真君はわかってないな。女の子の手料理が食べられるんだよ!! これが喜ばずにはいられないだろう!!!」
「また調子のいいことを言って。サラさんが作ってくれた時は、そんなに興奮してませんでしたよね?」
「ここだけの話だけど、サラのご飯は食べ飽きたんだよ。やはり食べ慣れた味よりも、初々しい新人が作る料理の方が僕は好きなんだ」
「なるほどなるほど。彩音は私の料理がまずくて食べられないと言うんですね?」
「まずいわけじゃなくて、食べ飽きたんだよ。健康に気を使うとか言って、いつも味が薄めだから、たまには濃い味の物をがっつりと‥‥‥って、サラ!? いるならいるって言ってよ!?」
「大学の講義が終わって丁度帰って来たんですわ。今の話を聞きたくて聞いていたわけではありません」
サラさんはそう言うが、彩音さんが戸惑うのもわかる。大学から帰ってくるにしてはあまりにもタイミングが良すぎないか!?
まるで彩音さんをびっくりさせようと外で待ち伏せしていたかのようなタイミングで、サラさんは部屋の中に入って来た。
「(もしかするとこうなることを見越して、部屋の外で待機をしていたのかもしれない)」
そう考えると全ての辻褄がつく。もしかするとサラさんは彩音さんの昼食を作る為にこの部屋に来たのかもしれない。
「私の料理がまずくて食べられないというなんて驚きました。そうならそうと面と向かって言ってくれればいいのに」
「ちっ、違うよサラ!? 僕はサラの料理がまずいわけじゃなくて、ただ食べ飽きただけで‥‥‥」
「彩音さんは少し黙っててください!!」
話せば話せば墓穴を掘る彩音さん。僕は彼女の口を塞ぐが時すでに遅し。
サラさんの額には怒筋が出ており、こめかみの血管も浮き出ていてものすごく怒っている。
こうなると僕にはどうにもできないので、天に祈るしかない。
でも祈った所でもう遅い。今更謝った所でサラさんの怒りは収まらないだろう。
「彩音の考えはわかりました。私のご飯が食べ飽きたのなら、これから彩音の夕食は梅干しとパックご飯だけにしますわ」
「待ってよ、サラ!? 僕はサラのご飯が1番好きだよ!?」
「私に遠慮なんてしないで、ナナさんのご飯が好きなら最初から言ってくださればいいのに」
「誤解だサラ!! 僕はサラのご飯が1番好きだ!!」
「ふん!! 私のご飯が食べ飽きたなんて言う人の事なんてもう知りません!!」
「サラ、待ってくれ!? 頼むから僕の話を聞いてくれ?」
怒って部屋を出ていくサラさんの後ろを彩音さんは全速力で追いかけていく。
そのせいでこの部屋には僕とななちゃんだけが取り残された。
「えぇっと‥‥‥彩音さんのお昼ご飯はどうしようか?」
「とりあえず僕とななちゃんの2人分を作ればいいんじゃない? 彩音さんはしばらく戻ってこなそうだし」
いつものこととはいえ、あの状態のサラさんを鎮めるのは難しい。
この様子だと今日の彩音さんの夕食は梅干しご飯で決定だろう。
それだけは僕にでもわかった。
「片付けも終わったし、一旦僕の部屋に移動しようか」
「うん。いっぱい汗をかいちゃったから、お風呂を借りてもいい?」
「いいよ。そういえば着替えは‥‥‥」
「大丈夫だよ。ちゃんと持ってきてあるから、心配しないで」
「わかった」
あれ? 今日はななちゃん、配信が終わったら家に帰るんじゃなかったっけ?
もしかして僕の勘違いだったかな? あとでもう1度予定を確認しておこう。
「それじゃあ斗真君の部屋に戻ろう」
「うっ、うん」
微妙な違和感を感じつつ、僕はななちゃんと一緒に自分の部屋へと戻る。
それからななちゃんがお風呂から上がり2人で昼食を食べた後、今夜行う復帰配信へ向けて準備を始めた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿しますので、よろしくお願いします。
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