第63話 週末の勉強会

 週末の土曜日、この日はななちゃんが姉さんの事務所を見学する予定となっている。

 ななちゃんの見学予定は午後となっているが期末テストが近いので、施設の見学をする前に僕の部屋に来て勉強する予定となっていた。



「そろそろ待ち合わせの時間か」



 現在の時刻は9時丁度。ななちゃんと待ち合わせをした時間だ。

 時刻表が表示されている駅の電光掲示板には電車が9時に到着すると書いてあるので、たぶんその電車に乗ってくるだろう。

 だから僕は彼女が予定時間より少しだけ遅れていても焦らなかった。



「今駅の改札から出てきた女の子は、もしかしてななちゃんじゃないかな?」



 しばらく駅の前で待っていると改札から見知った女の子が出てくる。

 辺りを見回している彼女と目が合うと、一目散に僕の方へと近づいてきた。



「おはよう、斗真君」


「おはようななちゃん。途中で道に迷わなかった?」


「うん、大丈夫だよ。ホームからこの改札まで一直線だったからわかりやすかった」


「それならいいんだけど。この駅って降りる階段を間違えると別の改札に出るから大変なんだよ」


「もしかして斗真君はこの駅で迷ったことがあるの?」


「うん。学校の帰り道に1度だけ迷ったことがあるよ。その時は幸い定期券を買っていたから駅構内に戻って正しい改札に戻ることが出来たけど、もし定期券がなかったらこのコンクリートジャングルを永遠に彷徨っていたかもしれない」



 我ながらあの時はついていたと思う。

 姉さんにその事を話した時も『その気持ちがよくわかる』と言っていたので、たぶん過去に僕と同じ過ちを経験してるはずだ。



「だからななちゃんも帰りは気をつけてね」


「うん。わかった」


「そしたら事務所へ案内するよ。僕についてきて」



 それから僕はななちゃんを姉さんの事務所へと案内する。

 事務所に戻る前に勉強の合間の休憩中に食べる飲み物やお菓子を買うために、スーパーに寄って買いだしをした。



「こんなにいっぱい買ったけど、食べきれるかな?」


「平気平気。もし食べきれなかったら、あとでスタジオにいるみんなへの差し入れとして持って行こう」


「そんなところにお菓子なんて持っていって大丈夫なの?」


「大丈夫。控室に置いておけば、みんな食べてくれるよ」



 彩音さん達もお菓子は大好きなはずだし問題はないだろう。黙ってあそこに置いておけば、きっとみんな喜んで食べてくれるはずだ。



「それよりもななちゃん」


「何?」


「さっき買い物をした時にお菓子や飲み物だけじゃなくて、鶏肉や卵を買ってたけど何に使うの?」


「それは‥‥‥‥‥秘密。あとで教えるから、楽しみにしてて!」


「わかった」



 もしかしたら後でななちゃんが僕の為に何か作ってくれるかもしれない。

 ただ何を作るかわからないので、それは出来るまでの楽しみにしておこう。



「着いた! ここが姉さんの事務所だよ」


「ごめん、斗真君。ここってマンションじゃないの?」


「僕も最初はそう思ったけど、これでもちゃんとした事務所なんだ」


「ここに住んでいる斗真君がそういうなら、そうなんだね」


「事務所案内はあとでするとして、とりあえず僕の部屋に行こう」


「うん!」



 事務所の玄関ホールに設置してあるエレベーターに乗り、2階の部屋へと上がる。

 僕が住んでいるのは2階の角部屋。そこにななちゃんを案内した。



「ここが僕の部屋だよ。上がって上がって」


「お邪魔します」



 この日の為に昨日わざわざ掃除をしたから、部屋は汚くないはずだ。

 部屋の隅から隅まで念入りに掃除機もかけたし大丈夫だろう。家を出る前に確認したけど、埃一つ落ちてない清潔な家になっている。



「斗真君の部屋って、結構広いんだね」


「うん。実家にある自分の部屋よりも広いよ」


「そっちにある2つの部屋は何の部屋なの?」


「右が配信部屋で左は僕の寝室になってるよ。配信部屋は防音室になってるから、いくら叫んでも大丈夫なんだ」


「いいなぁ、防音室。あたしも欲しい」


「ななちゃんの家に防音室はないの?」


「うん。さすがにそれを買うお金がないから、防音カーテンをつけてる」


「そうだよね。防音室を入れると安い物でも数十万円かかるんでしょ」


「そうだよ。それにあれを入れるのには場所も取るから、うちは入れてないよ」



 普通の人だったらそうだよな。しかもななちゃんは高校生。今までは親にも配信活動のことを話していなかったため、防音室を入れるハードルは非常に高い。



「あとで防音室の中を見せてもらってもいい?」


「いいよ。勉強が終わったら中を案内するね」



 折り畳みのテーブルを出した後床に座布団を敷き、僕達はそこにお互いが持ってきた教科書やノートを置く。

 ななちゃんが勉強の準備をしている隙に、台所の棚に入れておいた紙コップを持ってくる。これで勉強する準備は完璧だ。



「それじゃあ勉強会を始めよう」



 それから僕達は午前中みっちりとテスト勉強をする。

 お互いわからない所は教え合いながら勉強を進めていき、気づけば時刻は昼の12時になっていた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿します。


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