第64話 ベランダの幽霊
「そろそろお昼の時間だけど、コンビニで何か買ってくる?」
「その必要はないよ。今日はあたしが斗真君の為にお昼ご飯を作ってあげる!」
「えっ!? ななちゃんが僕に昼食を作ってくれるの!?」
「うん! その為にさっきスーパーに寄って食材を買ったんだよ」
「そういえばさっき卵とか鶏肉を買ってたね。あれは僕に昼食を作るためだったのか」
「そうだよ! これからお昼ご飯を作るから、斗真君はそこに座ってて」
やはりあの鶏肉や卵は、昼食を作るために買ったようだ。
クラス中の誰もがうらやむ美少女の手料理が食べられるなんて、これほど嬉しい事はないだろう。
「僕も何か手伝う事はある?」
「そしたら2人分のお皿とスプーンを準備して。あたしどこに食器があるかわからないから、それだけお願い」
「わかった」
電子レンジでご飯を温めながら、ななちゃんは台所で玉ねぎを切っている。
鶏肉の下準備は既に終わっており、彼女が何を作ろうとしているか段々とわかってきた。
「もしかしてななちゃんはオムライスを作ろうとしてるの?」
「そうだよ。もしかして斗真君はオムライス嫌いだった?」
「嫌いじゃないよ。むしろオムライスは大好きだから、それを作ってくれて嬉しいよ」
「よかった! それなら腕によりをかけて作るからちょっと待っててね!」
それから僕はテーブルに戻り、ななちゃん特製のオムライスが出来るのを待つ。
台所にいるななちゃんは鼻歌を歌いながら料理を作っていた。
「(そういえばななちゃんの料理の腕ってどうなんだろう?)」
以前彼女は毎朝お弁当を自分で作ってると言っていたので下手なはずがない。
期待に胸を膨らませて待っていると、お盆に2つのオムライスをのせたななちゃんが現れた。
「お待たせ! オムライスが出来ました!」
「わぁ! すごく美味しそう!」
「デミグラスソースを作ろうかと思ったんだけど、ちょっとおおちゃくしてケチャップにしちゃった」
「全然構わないよ! むしろ僕はデミグラスソースよりもケチャップの方が好きだから、こっちの方が嬉しい!」
「それならあたしも頑張って作ったかいがあるよ! 今オニオンスープとサラダをそっちに持って行くから、ちょっと待ってて」
「それぐらい僕が持っていくよ。ななちゃんは料理を作ってくれたんだから、そこに座ってて休んでて」
「ありがとう、斗真君。そしたらお言葉に甘えるね」
エプロンを外したななちゃんはテーブルの前に座る。
僕はキッチンに行くと準備してあったオニオンスープとサラダをななちゃんの前に持って行った。
「これで全部揃ったね」
「うん」
「そしたら食べようか」
「それじゃあいっしょに」
「「いただきます」」
オムライスを食べよう手を伸ばすと、目の前のななちゃんが窓の外を見て固まっている。
表情はこわばり顔も青ざめているので、ただ事じゃない。僕の知らない所で何かが起こっているようだ。
「どうしたの、ななちゃん? 僕の顔に何かついてる?」
「おっ‥‥‥」
「おっ?」
「おっ、お化け!? お化けがいる!?」
「お化けなんているの? まだ昼間なのに!?」
「ベランダの外にいた!? 赤髪の男の子が、虚ろな目であたし達の事を見てた!?」
「赤髪の男の子? そんな人いるのかな? 僕も今ベランダを見てるけど、そんな人はいないよ」
窓の外はベランダになってるけど、人の姿は見当たらない。
それにここはマンションの2階だ。1階に比べて、そう簡単に人が入って来れるとは思わない。
「本当にそんな人がいたの?」
「いた!! 逆さまになった状態で首だけ垂らして、あたし達の事を凝視してた!!」
「それってななちゃんの見間違えじゃないよね?」
「うん!! もしかして斗真君、あたしの事を信じてくれないの?」
「そんなことないよ。ななちゃんが嘘をつくことはないとは思ってる」
でも赤髪の男の人なんてベランダにいないんだよな。
念のためベランダの外に出て確認したけど、それらしき人影はない。
「今ベランダを見てきたけど、誰もいなかったよ」
「そんなはずないと思うんだけど‥‥‥」
「ちなみにその人って、赤髪の他にどんな特徴があった?」
「特徴といった特徴はないんだけど、中世的な顔をした美少年だったよ」
「中世的‥‥‥美少年‥‥‥その人ってもしかして、髪形はショートカットじゃなかった?」
「うん、そうだよ。逆さまになっててよくわからなかったけど、たぶんそうだと思う」
中世的な赤髪の美少年。その3つの特徴を兼ね揃えた人に僕は心当たりがある。
「(ただあの人がこんなことをするのかな?)」
いや、あの人のことを舐めてはいけない。姉さんが何をするかわからないと言っていた要注意人物だ。
良くも悪くも規格外の人なんだ。常識を取り払って考えた方がいい。
「どうしたの、斗真君? 急にそんな怖い顔をして?」
「もしかしたら僕、その幽霊に心当たりがあるかもしれない」
「本当!?」
「うん。しばらくしたらまた出ると思うから、幽霊が出たらわからないように僕に合図を出して」
「合図を出すって、どうすればいいの?」
「そうだな‥‥‥もしベランダにその幽霊が現れたら、そこにある付け合わせのサラダを食べてくれればいいよ」
「わかった。次に見かけたらそうするね」
それから僕達はいつも通り食事をする。
しばらくすると青ざめた表情をするななちゃんがサラダを食べ始めた。
「(サラダを食べ始めたという事は、たぶんお化けが出たんだな)」
ここですぐ振り返るのは素人のやることだ。僕はあえてたっぷりと時間を取る。
「斗真君‥‥‥」
まだだ!! まだ飛び出す時間じゃない!!
気付いていない振りをして相手を油断させて逃げられないようにするために、もう少しだけ我慢をする必要がある。
「(さっきからななちゃんお化けが怖いのか、ずっとサラダばかり食べてる)」
ななちゃんも怖がっているようだし、そろそろ潮時だな。
僕は後ろを振り向くと猛然とベランダに向かってダッシュをして窓を開けた。
「うわっ!?」
「『うわっ!?』じゃないですよ!! そんなところで何をしてるんですか、彩音さん!!」
ベランダにいたのは僕の上の階に住んでいる彩音さんである。
彼女はベランダで尻もちをつき、罰が悪そうに頭をかいていた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
最後になりますが作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます