第62話 個性的なタレント達
スーパーで買い出しをした僕達は事務所に戻って夕食の支度をする。
支度をするといっても僕は料理が出来ないので、買ってきた食材をサラさんに渡して作ってもらうことにした。
彩音さん? 彼女はどんな料理を作るかわからないので、サラさんと協議した結果キッチンから出て行ってもらった。
最初はサラさんもやる気を見せる彩音さんに流され夕食作りを譲ろうとしていたが、彼女が料理をしようとする理由を話すと状況は一変する。
『そんな邪な気持ちを持つ人をキッチンに入れられませんわ!!』
そう言ったサラさんが彩音さんの事を蹴りだして、自分1人で夕食作りを始めてしまう。
その結果僕の心配は杞憂に終わり、何事もなく夕食の時間を迎えた。
「それじゃあみんなで食べようか。いただきます」
「「「いただきます」」」
夕食のテーブルには僕と彩音さんの他に2人いる。
1人は言うまでもなく僕の姉である琴音姉さん、そしてもう1人が彩音さんと共にVTuberとして活躍している槙島サラさんだ。
サラさんはくすみのない綺麗な金色の長髪をなびかせる美人な女性で、その所作は深窓の令嬢を髣髴とさせる程丁寧で様になっている。
何故彼女がこんなにもマナーに精通しているのか。その理由はサラさん本人が国内で有名な企業の社長令嬢という事もあり、幼い時からそういう教育を受けてきたからだ。
「(こんなにも綺麗で何でも出来る人なのに、どうしてこんな小さい事務所に入ったんだろう)」
僕がそう思ってしまう程サラさんは完璧な人であり、彩音さんとはまた別次元の天才だ。
才能だけでいえば彩音さんと双璧をなす程、この人はそつなく何でもこなす。
僕が今もっとも尊敬する人物でもある。
「うん! このハンバーグ美味しいね! さすがサラの料理だ」
「当たり前ですわ。このぐらいの料理なんて朝飯前です」
「珍しく彩音と意見が一致したわ」
「おっ! それは奇遇ですね琴音さん。今すぐ僕と結婚しましょう!」
「悪いけどそれは却下させてもらうわ」
「ガッデム!?!?」
彩音さんは姉さんに結婚を断られてシュンとしてしまう。
でもそれは彩音さんの自業自得だろう。彩音さんがいくら結婚を申し込んだ所で姉さんと結婚するのは法律的に無理なので、今回ばかりは姉さんの考えが正しいと思う。
「それにしても本当にサラさんのご飯は美味しいですね」
「そうでしょう。琴音だったら絶対焦がしてるだろうし、弟君はこんな凝った物は作らないので、たまにはこういうお肉料理も悪くないと思いますわ」
「サラさん、僕は作らないんじゃなくて作れないんですよ。サラさんみたいに料理が上手くないから」
「そう思ってるのは貴方だけですわ。琴音と違って弟君はレシピ本を見ながら作れば、絶対に美味しい物をつくれます」
「本当ですか?」
「もちろんですわ。この私が保証します!」
「サラ、あまり根拠のない事を言わないの」
「根拠ならありますわ! 斗真君はこの前私の料理を手伝ってくれたでしょう」
「はい。先日みんなの夜ご飯を作った時の話ですよね?」
「そうです。あの時一緒に料理を作っていてそう感じました。なので弟君はもっと自分に自信を持って下さい!」
こうやってサラさんに褒められるのはちょっと嬉しい。
この人は普段厳しい事しか言わないけど、何故か僕にだけは優しく接してくれる。
「ちょっとサラ、うちの弟を甘やかさないでよ。斗真が調子にのるでしょう」
「別に甘やかしてるわけじゃありませんわ。一緒に料理を作っている時、琴音にはないセンスを弟君からは感じただけです」
「もしかしてサラ、今私に喧嘩を売ってる?」
「売ってませんわ。私はあくまで客観的事実を言ったまでです」
まずい、このままでは姉さんとサラさんの喧嘩が始まってしまう。
この喧嘩の仲裁が出来そうな彩音さんは幸せそうな顔をしてハンバーグを食べていて、全く役に立ちそうにない。
「(こうなったら僕が2人の仲裁に入るしかない)」
元はと言えば僕の話を発端に始まった喧嘩だ。その責任は僕にあると言っていい。
意を決して、僕は2人の会話に割り込むことにした。
「2人共こんな所で喧嘩しないでよ!? せっかくの美味しいご飯がまずくなるでしょう!?」
「斗真がそう言うならしょうがないわね。ここは一時休戦よ」
「そうしましょう。弟君に免じて、ここは引いてあげます」
よかった。何とか2人の喧嘩を止めることが出来た。
仕事中は滅多に喧嘩なんて起きないのに。どうしてこういうしょうもない所で2人はよく衝突するのだろう。僕には2人の考えていることが全くわからなかった。
「サラは良くも悪くも思った事を口にするからね。だから彼氏が出来ないんだよ」
「ご生憎様。大学では彩音が彼氏という事になってますので、私は全然平気です」
「えっ!? そうなの!? 僕、その情報は初耳なんだけど!?」
「知らないんですか? 1年生の間では私達のことを美男美女カップルと呼ぶ人が多いんですよ」
「だからショタ‥‥‥いや、年下の男の子達は僕が話しかけても避けるのか」
「彩音さん、それは違うと思います」
学内の人が彩音さんを避けてるのは貴方の奇怪な行動のせいです。
既に学内にいる教授から呼び出しを何回かされているらしいので、僕の推測はあながち間違ってないはずだ。
「そういえば斗真」
「何?」
「菜々香ちゃんの事だけど、今週末うちの事務所に来るんでしょう。事務所を案内する準備は出来てる?」
「それは大丈夫だよ。準備は既に終わってる」
「それならいいわ」
「当日はこの建物の案内と隣接してる3Dスタジオに連れて行けばいいんでしょう?」
「うん。当日はみんな揃ってるから、そこで顔合わせと食事会をしましょう」
「やりましたわ! 久しぶりに豪華なご飯が食べれます!」
「何を言ってるのよ、サラ。菜々香ちゃんの歓迎会は事務所でするに決まってるじゃない」
「えぇ~~~~~~!? 私、叙〇苑に行きたかったのに~~~」
「そういうのはライブが終わった後にやりましょう。それにお店よりも事務所の方が気兼ねなく何でも話せるでしょう」
「姉さん、本音はどうなの?」
「普段からこの子達が身バレしそうなことしか話さないから、出来れば人がいない所でやりたいのよ」
「なるほど。そういうことか」
それなら事務所でやることに僕も賛成だ。
サラさんはともかく彩音さんが何を言うかわからないので、姉さんの提案は間違ってないと思う。
「琴音!! 私、これから身バレするような事は絶対に話しませんから!! だからナナさんの歓迎会は、ぜひ叙〇苑でやりましょう!!」
「そうですよ!! これからは事務所の裏話の代わりに、お金の話をするようにします!! だから僕からもお願いします!!」
「今の発言を聞いて、余計に歓迎会を事務所でやりたくなったわ」
彩音さんもサラさんもは話せば話す程墓穴を掘っていく。
姉さんが事務所で歓迎会をしたいといったのも納得である。
「(こんな調子で話をされたら、遅かれ早かれ身バレしてしまうだろう)」
だから姉さんが事務所で歓迎会をやるのにも納得してしまった。
たださえななちゃんはこの前盗撮被害にあったばかりだ。
彼女の安全面を考慮して、歓迎会は事務所でやった方が絶対にいいと思う。
「ちょっと彩音、貴方のせいで叙〇苑がなくなったじゃない!!」
「それは僕のせいなの!? サラがの押しが弱いからでしょ!?」
「そんなことあるわけありません!! 全て彩音の責任ですわ!!」
「2人共、喧嘩してるならそのハンバーグはもらうわよ」
「あっ!? 私のハンバーグ!?」
「返事する前にもう食べてるじゃないですか!! ずるいですよ、僕も食べたいです!!」
「彩音は人のを食べるんじゃなくて、まずは自分の物を食べなさい!!」
やっぱりここで食べる夕食は騒がしい。自宅にいた時とは比にならないぐらい会話が飛び交っている。
「(でもこの雰囲気、不思議と嫌じゃないんだよな)」
むしろこんなに騒がしいのに居心地がいい。
みんなで世間話をしながら食べるご飯が、こんなに美味しいとは思わなかった。
「斗真、どうしたの? そんなにぼーーッとして」
「何でもないよ。それより姉さんいいの? 彩音さん達にハンバーグ持ってかれてるよ」
「嘘!? ちょっと2人共、勝手に私のハンバーグを取らないでちょうだい!!」
「自分が先に取ったのが悪いんでしょう」
「因果応報とはこういうことを言うんですよ」
こうしてお互いのハンバーグを取り合う争いが始まった。
姉さん達のハンバーグの取り合いは夕食が終わるまで続いたけど、結果として3人共同じぐらいの量を食べていた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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