第60話 騒動の影響
中庭にあるベンチの前に着くと僕はベンチの端に座り、買ってきた総菜パンを袋から出して食べる。
その後に続いてななちゃんと月島さんもベンチに座り、家から持ってきた弁当箱を食べていた。
「そういえば菜々香」
「何?」
「菜々香がやってる活動ってどうなったの? 確か‥‥‥VTuberだっけ? 今休止してるんでしょ?」
「うん。琴音さん‥‥‥斗真君のお姉さんのアドバイスで、期末テストが終わるまで休止しようって話になったんだ」
「その活動はいつ再開する予定なの?」
「期末テストが終わった後、具体的には7月上旬に復帰する予定だよ」
「そうなんだ。復帰までまだ時間が掛かるのね」
「復帰に時間が掛かるといっても、その間にやることはいっぱいあるんだよ」
「そうなの?」
「そうだよ。現に僕は今その準備を手伝ってて毎日忙しいんだ」
あの事件が起きてからななちゃんは一切配信をしていない。
それは姉さんからのアドバイスもあり、表向きは体調不良ということで活動を休止している。
ただ水面下で復帰への準備は着々と進んでおり、僕もその準備に駆り出されていた。
「そういえば菜々香は何で期末テストの後に復帰することにしたの? 別に今すぐ復帰しても問題ないんじゃない?」
「それはそうなんだけど、琴音さんから『VTuberの活動も大事だけど、高校生の本分である学業の方が大事だから、今はそっちに集中しなさい!』って言われたから、そうすることにしたの」
「琴音さん? その人ってもしかしてさっきちょっとだけ話に出てた、神宮司のお姉さんの事?」
「そうだよ。まだこれは極秘の情報だけど、ななちゃんは姉さんが運営してる事務所に入ることが決まってるんだ」
「そうなの!?」
「うん。あたしも斗真君のお姉さんが運営している事務所の名前を聞いた時驚いちゃった。まさか斗真君のお姉さんが、あのアーススタジオの社長をしていたなんて思わなかったから」
「ごめん。ウチはそういう事に詳しくないからよくわからないんだけど、そのアーススタジオ? って所はそんなに凄いの?」
「凄いなんてものじゃないよ!? 斗真君のお姉さんが運営している事務所って、業界内じゃ伝説の事務所って呼ばれてる程神格化されてるんだよ!!」
「そっ、そうなの?」
「うん! 所属しているタレントは3人しかいないんだけど、その3人共YourTubeのチャンネル登録者数はが100万人を超えている、少数精鋭の最強事務所って呼ばれてるんだよ!」
「そんな凄い事務所に所属して、菜々香は大丈夫なの?」
「うん! 斗真君も一緒にいるから、あたしは平気だよ」
「僕の場合ななちゃん達とは別枠の扱いだけどね」
一応僕もその事務所に所属している事になっているがななちゃんとは違い、どちらかというと社員のような扱いとなっている。
もちろん今でもTomaとして週末にゲーム配信をしてるが、平日はななちゃん関連の仕事をしているので、立ち位置としてはななちゃんのマネージャーという扱いになっていた。
「でもそういう所に所属する為には親の許可も必要なんじゃないの?」
「うん。未成年がそういう活動をするにはお母さん達の許可をもらわないといけないよ」
「それって大丈夫なの? 菜々香の親はかなり厳しかった気がするけど、許可は出たの?」
「その辺りは大丈夫なはずだよ。この活動をするにあたって、ななちゃんの両親の許可はもう取ってある」
「いつの間に取ったの!?」
「炎上騒動が起きてすぐだよ。姉さんが直接ななちゃんの家に行って事情を話したはずだから、その時に事務所に所属する許可をもらったんだと思う」
その場で何を話したか詳しく教えてもらえなかったけど、ななちゃんの両親も彼女のVTuber活動を認めてくれたと姉さんは話していた。
だからその時に事務所に所属する許可をもらったんだと思う。
「(VTuber活動にしても、姉さんの事務所に入ったからこそ続ける事が出来たに違いない)」
そのぐらい姉さんの事務所は有名な事務所らしい。
VTuber業界について疎い僕だけど、後々ネットで調べてその話を知った。
「そういえば斗真君はあたしのお父さんとお母さんに会ったんだよね?」
「うん! 姉さんがななちゃんの両親を招いて事務所見学をしていた時、挨拶だけさせてもらったよ」
「神宮司は菜々香の両親達と一緒に事務所案内をしなかったの?」
「うん。その日は僕も配信をしないといけなくて忙しかったから、姉さんが全部1人でやってくれたんだ」
姉さんもそれを知っていたからこそ、僕に事務所見学を任せなかったのだろう。
あの時は軽い自己紹介をしたあとななちゃんの両親から感謝の言葉を言われて、戸惑った覚えがある。
「お父さん達が斗真君のことを褒めてたよ。落ち着きがあって大人びている格好いい青年だって言ってた」
「そう言われると僕もなんだか恥ずかしいな」
「学校でも配信の時のような格好をすればいいのに。神宮司は何でしないの?」
「だって朝起きるのって辛いじゃん。髪をセットする暇があったら、1分1秒でも布団の中に潜っていたいんだよ」
「その気持ちはわかるけど‥‥‥まぁ、神宮司に何を言っても無駄だよね」
僕は間違ったことを言ってないはずなのに、何で月島さんは呆れているのだろう。
ため息をつきながら、ジトっとした目で僕の事を見ている。
「この数週間色々なことがあったけどおおかたの問題は解決したし、あとはテストを頑張るだけだね」
「そういえばななちゃんは事務所の人達と会った?」
「まだ会ってないよ。確か今週末顔合わせする予定でしょ」
「そういえばそうだった」
その顔合わせには僕も同席することになっている。
当初僕は翌日の配信準備があるからと理由をつけてその立ち合いを辞退したんだけど、姉さんの強い要望で参加することになった。
「生きる伝説と言われているVTuberって、一体どんな人達なんだろう? ウチには全く見当がつかないな」
「あの人達の配信をあたしは見たことがあるけど、おとぎ話に出てくるような王子様やお姫様みたいな人達なんだよ」
「えっ!? そうなの!?」
「うん。歌がものすごく美味いだけじゃなくて、ダンスをする姿がものすごく格好いいの。だから男性ファンだけじゃなくて女性ファンも多いんだよ」
「いいなぁ~~~菜々香は。そんな格好いい人達と会うことが出来て。なんだか羨ましい」
「美羽ちゃんは羨ましいって言うけど、一緒に仕事をするだけだからね。別にその人達と友達になるわけじゃないよ」
「それもそうか」
「うん。でもそれを差し引いても、あたしはその人達と会うのがものすごく楽しみなんだ!」
「伝説のVTuberってどんな人なんだろう」
「どんな人達かわからないけど、早くあの人達に会いたいな!」
ごめん、ななちゃん。期待している所悪いけど、あの人達に過度な期待をしない方がいい。
ここ最近彼女達と接してる僕から言わせてもらうと、全員が全員個性的過ぎて扱いに困っている。
普段から関わりのある僕でも時々どう接していいかわからない時があるので、ななちゃん達は出来るだけ関わりを持たない方がいいと思っていた。
「せっかくだから菜々香、そのVTuberの事について詳しく聞かせてよ」
「いいよ! まずはこの業界の最前線で活躍している九堂彩音さん。彼女は男性みたいな中世的な声をしてて、格好いいセリフで女性を魅了する人なんだよ!」
「そんな格好いい人がいるんだ」
「うん! 美羽ちゃんもその人の配信を見ればわかるよ。クールで格好良くて知的な、全ての女性が憧れる王子様なんだ!」
それから昼休みが終わるまでななちゃんはうちの事務所に所属する3人のVTuberについて語ってくれた。
その間僕と月島さんはその話に黙って耳を傾ける。
VTuberの事を語るななちゃんはものすごく楽しそうで、いつもより輝いて見えた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の8時に投稿します。
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