第59話 ある日の昼休み
「斗真君、一緒にお昼ご飯を食べよう!」
「うん、いいよ。そしたらいつもの場所へ行こう」
あの盗撮騒動が沈静化して以降、僕とななちゃんは学校でも話すようになり一緒に昼食を共にする仲になった。
一緒に昼食を取るのはななちゃんだけではない。彼女の親友である月島さんも合わせて、3人で行動をしていた。
「神宮司、遅いよ!」
「ごめん、月島さん」
「そんなにのんびりしていて大丈夫なの? 早くしないといつも買いに行ってる購買のパンが売り切れちゃうよ」
「そんな事もあろうかと、今日はコンビニで総菜パンを買ってきたから大丈夫。だから今日は購買に寄らなくてもいいよ」
あの盗撮騒動以降、僕はこの2人と一緒に行動するようになった。
元々2人は池田さん達と一緒に行動していたが、ゴールデンウイークを境にそのグループは分裂してしまう。
幸か不幸かそのせいで2人は自由にグループを作れるようになり、そのグループに僕が入ったというのが事の顛末だった。
「(最初は彼女達と一緒に行動することにものすごい抵抗感があったんだよな)」
ななちゃん達と話すようになった最初の頃、学校でも存在感が薄い地味な僕がこんな華やかな2人と一緒にいてもいいのかという葛藤があった。
だがそれも時間が経つにつれて徐々に薄れていき、今ではため口で話せるような気軽な間柄になった。
『神宮寺のやつ‥‥‥柊さんといちゃつきやがって‥‥‥』
『しかも名前で呼ばれるなんて、羨まし過ぎる!!』
『それだけなら100万歩譲って許そう。だけど俺は柊さんだけじゃなくて、月島さんと楽しそうに話してるのが許せない!!』
『『それな!!』』
僕に聞こえる程の声量で話す学校内の男子達からの過剰な嫉妬。
彼等からこうした陰口を叩かれることが最近では日常茶飯事となっている。
「(こうなることがわかってたから、僕は今まで近づかないようにしてたんだよな)」
あの頃は出来るだけ彼女達から距離を取り、最低限の会話しかしてないような気がする。
だけどあの騒動以降ななちゃん達の方から僕に声をかけるのでその意味がなくなり、こうして普通に話している。
「(こんな事になるなら、もっと早くななちゃん達と行動していればよかった)」
これは僕が学校生活で唯一後悔したことである。
遅かれ早かれこんな風に言われると思っていたので、それならもっと早くななちゃん達と一緒に行動していればよかった。
「斗真君、大丈夫?」
「僕は平気だから気にしないで」
一緒に行動し初めて最初の頃はこういう噂話をされるのが嫌だったけど、今となってはどうでもよくなっていた。
それよりも今は僕と一緒にいてくれる2人の事を大切にしたい。
そういう気持ちで2人の隣にいる。
「神宮司も有名になったよね。最近はクラス外でも噂されてるらしいじゃん」
「こんな有名人と一緒に行動してたら、普通はそうなるよ」
「ごめんね、斗真君。あたしのせいでこんな事になって」
「ななちゃんが悪いわけじゃないよ。僕が噂されてるのは月島さんのせいだから気にしないで」
「うっ、ウチのせいなの!? 神宮司が噂になってるの!?」
「当たり前でしょ。月島さんは去年のミスコンを最年少で優勝してるし、学内でトップクラスの知名度を持ってるんだよ。そんな人と一緒に行動している男の人がいたら、普通は噂になるよ」
「うぅっ!? それを言われると否定できない‥‥‥」
「しかも今まで1度も月島さんから浮いた話が出たことないんだよ。そんな人がこんな地味な男と一緒に歩いてるとなれば、みんなこぞって噂するはずだ」
この前の騒動でななちゃんの名前が広がったこともあるけど、そのななちゃん以上に有名な人が月島さんである。
なんせ彼女は去年文化祭で行われたミスコンの最年少優勝者であり、学内の誰もが認める美貌を持っている。そんな人が名前も聞いたことがない見知らぬ男と歩いてたら、誰だって噂をするだろう。
「なるほど。確かに神宮司の言っていることは一理あるわ」
「一理あるとかじゃなくて、間違いなくそのせいだと思うよ」
「そういえばあたし、最近美羽ちゃんが告白されたって話を聞かないかも」
「うん! だって最近ウチに告白してくる人の数がめっきり減ったからね」
「そうなの?」
「そうだよ! 告白してくる人だってみんな揃いも揃って、『神宮寺はやめとけ』とか『あんなハーレム男といても、ボロ雑巾のように捨てられるだけだぞ』とか言ってくる馬鹿ばかりだから相手にしないようにしてる」
「ちょっと待って!? 僕はその話、初めて知ったよ!?」
「そう? 結構有名な話だと思ったんだけど違うの?」
「うん。ななちゃんは知ってた? この話?」
「あたしも初めて知った」
「まぁウチとしては神宮寺のおかげで体のいいナンパ除けが出来るから、今の状態を結構気に入ってるんだよね」
「前から思っていたけど、月島さんってマイペースだよね」
「類は友を呼ぶって言うから、しょうがないでしょう」
「その言い方だと、僕もマイペースってことになるよ」
「さすが神宮司だね。ちゃんと自己分析が出来てるじゃん!」
僕自身は否定したいけど、月島さんがそう言うならそうなんだろうな。
自分では全くマイペースだと思ってなかったから、少しだけショックを受けた。
「そんなに落ち込まないでよ。図星を言われたぐらいで」
「図星を言われたから落ち込んでるんだよ!?」
「もう、男らしくないわね。そんな事で落ち込んでる暇があるなら、早くご飯をたべよう。昼休みが終わっちゃうよ」
確かに月島さんの言う通りである。このままここで立ち話をしていては貴重な昼休みが終わってしまう。
これ以上ここでこの話をしていても意味がないので、早く昼食を食べに教室を出た方がいい。それが賢明な判断だと思う。
「そうだね。そしたらいつもの場所に移動しようか」
「うん! 早く行こう!」
可愛らしい弁当袋を持つななちゃんを先頭にして、僕達は中庭にあるベンチを目指して教室を出た。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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