第47話 VTuberの素顔
「姉さんの事務所って、一体どんな所なんだろう」
電車に乗っている最中、僕は芸能事務所とはどんなところなのか考えていた。
一見すると華やかな場所のように見えるが、結局はどこにでもある会社なので、もしかすると事務所内は意外と地味なのかもしれない。
「そういえば僕、姉さんの仕事場に今まで1度も行ったことがない」
VTuberが所属している芸能事務所とは一体どんなところなんだろう。
普通の芸能事務所とはどう違うのか、少しだけ興味があった。
「ここが姉さんの事務所の最寄り駅か。とりあえず電車から降りよう」
電車を乗り継ぎ指定された駅に着いたのはいいけど、人が多すぎて酔いそうになる。
都会に事務所を構えてる事は知っていたけど、こんな人の多い駅に事務所があるとは思わなかった。
「とりあえず送られてきた住所の場所を目指そう」
スマホに搭載されている地図アプリを頼りに混雑する大通りを抜け、なんとか人通りの少ない路地裏までたどり着いた。
ここまで来ればもう少しだ。あの角を右に曲がれば姉さんの事務所に辿り着く。
「姉さんから送られた住所を頼りにここまで来たけど、事務所ってここだよな?」
事務所だと思ってきた場所にはマンションが建っていた。
駅から少し離れた所にある4階建ての小さいマンションのような建物。
どうやらここが姉さんの事務所らしい。
「ここの1階が事務所になってるらしいけど、どうやって中に入るんだろう?」
エントランスに続く通路はあるけど、この中に入っていいのだろうか。
姉さんの事務所が本当にこの建物か確証がないので、迂闊に建物の中に入ることが出来なかった。
「君、どうしたの?」
「えっ!?」
「そんなところで僕達の事務所を見上げて、何をしてるの?」
「あの‥‥‥その‥‥‥」
「もしかして僕の事を駅からつけてきた不審者だったりする? もしそうなら社長から警察に通報するように言われてるから、近くの交番に電話をしないといけないんだけど?」
「ちっ、違います!? 僕は姉さんに用があって‥‥‥」
「姉さん? ‥‥‥あっ!? もしかして君、琴音さんの弟さん!?」
「姉さんの名前を知っているって事は、もしかして貴方はこの事務所の関係者ですか?」
「そうだよ!」
よかった、運よく事務所の関係者の人に会う事が出来た。
これで姉さんの所へ案内してもらえる。僕はなんて運がいいんだろう。
「どこか琴音さんの面影があると思ってたけど、僕の勘は当たってたようだね!」
この陽気な人も姉さんの事務所の社員なのか。
でもその割には赤色の派手な髪が特徴の中世的な姿をしている。
「(見た目はものすごく格好いいけど、この人の性別がわからない)」
見た目からは男性か女性か判別が出来ない。
それにこんな派手な格好をしていて、姉さんに怒られないのかな。
「もしかして君、琴音さんの事を探してるの?」
「はい、そうです」
「君には悪いけど、彼女ならこの時間は外出していていないはずだよ」
「えっ!? さっき電話で今日は内勤だって言ってましたよ!?」
「たぶん緊急の仕事が入ったんじゃないかな? さっき事務所でやけに慌ててたから、どこかに行く準備をしてたんじゃない?」
「そうですか。そしたらどうしよう? 姉さんにもう1度連絡してみた方がいいかな?」
「そんなことなんてしなくていいよ。僕の家で琴音さんの事を待っていれば、それで解決さ!」
「でもいつ姉さんが帰ってくるかわからないので、ここを離れるわけには‥‥‥」
「それなら大丈夫。僕の家はこの建物の中にあるから、心配しなくていいよ」
「そうなんですか!?」
「そうだよ。この事務所は寮にもなっていて、タレントに部屋も貸しているんだ」
タレント? ということは、この人もVTuberなのか?
でも目の前の人はVTuberとは思えないぐらい綺麗だ。
この見た目なら普通に実写でもやっていける気がする。
「(でも、さっきからこの人の様子がなんかおかしいんだよな)」
出会ってからずっと僕に対して優しく接してくれているのに、目の奥がギラギラしている。
それはまるでライオンが無防備な野ウサギを仕留めようとするような、狩人の目をしていた。
「さぁ、行こう! 琴音さんの弟君をお姉さんの部屋に案内してあげるよ!」
「あの‥‥‥さっきからやけに鼻息が荒くないですか?」
「はぁ、はぁ‥‥‥‥じゅるり♡ そんなことないよ。それよりも僕の部屋でお茶でも飲もう!」
やっぱり何かおかしい。話をするにつれてこの人の事が段々怪しく見えてきた。
ずっと獲物を狙うライオンのような目をしてるし、本当に姉さんの会社の人なのか疑わしい。
「(もしかしたら僕を誘拐するつもりなんじゃないか?)」
そうだとしたら今すぐ逃げないとまずい!?
幸いにも逃げ込める場所はたくさんあるので、いつでも逃げられるように準備をした。
「何でそんなに後ずさりするの? 大丈夫だって。怖くない怖くない」
「そういう発言が怖いんですよ!? 貴方は本当に姉さんの会社の人なんですか!?」
「もちろんそうだよ。だからそんなに警戒しないでほしい」
「そんなに目をギラギラさせて近づいてきたら、誰だって警戒しますよ!?」
「弟君が何を心配しているかわからないけど大丈夫だよ。君は気持ちよくなるだけだから。痛い思いをするのは僕だけさ!」
「一体貴方は何を言って‥‥‥」
「ちょっと彩音!! 私の弟相手に何をしようとしてるのよ!!」
「痛っ!? いきなり叩くことないじゃないですか、琴音さん!!」
「あんたがウチの弟を誘惑してるからそうなるんでしょう!! 少しは反省しなさい!!」
久々に生で見た姉さんは相変わらず美しい。大学に入学してから垢ぬけたと思っていたけど、実際に見た姉さんは僕とビデオ通話をしていた時よりも綺麗に見えた。
「久しぶりね、斗真。少し見ないうちに大きくなったじゃない」
「ビデオ通話で話してるから、あまり久しぶりって感覚はないけどね」
「確かにそうね。それよりもごめんなさい。ウチの事務所の人間が迷惑をかけて」
「事務所の人間って事は、もしかしてこの人は姉さんの事務所の社員なの?」
「社員じゃないわ。この子はウチの事務所に所属するVTuberよ」
「VTuber? ってことは、この人は姉さんの事務所に所属するタレントなの?」
「そうだよ。僕は
「こんな道端で芸名を言うんじゃないの!! 身バレしたらどうするつもりよ!!」
「おっと!? これは失敬」
「失敬じゃないわよ!! それになんで血のつながってないあんたが、私の弟に自分の事をお姉さんって呼ばそうとしてるの!!」
「それはもちろん琴音さんが将来僕の伴侶になるからですよ。その人の弟さんなら僕の事をお姉さんと呼ぶ権利があると思わないですか?」
「全く思わないわね。そもそも私もあんたも女だから、将来の伴侶になる事なんて未来永劫ないわ」
「ガッデム!?」
「斗真、この子の事は放って置いていいからこっちに来て。あの事について、早く話しましょう」
「わかった」
事情はよくわからないけど、この人のことは放っておいて姉さんについて行こう。
姉さんも無視してるようだし、僕もそこまで相手にする必要はないような気がする。
「待って下さい、琴音さん!! せっかくですから、僕と一緒にお茶をしましょう!!」
九堂さんは姉さんにすがるような声で呼びかけているけど、姉さんは彼女のことを無視して事務所の中へと入っていった。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の8時に投稿します。
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