第45話 わずかな可能性
教室に戻って授業を受けている間もあの動画を消去できないか考えたが、いい対策が何も浮かばなかった。
前に姉さんも言っていたけど、ネットに上げられた動画を完全に消し去ることなんて出来ない。
僕の大会切り抜き動画だって消えたと思ったら、またアップロードされていたんだ。ななちゃんが盗撮された動画を削除したとしてもまた誰かがその動画を上げる。そんないたちごっこを永遠に繰り返すような気がしていた。
「動画を消すことが出来ないなら、せめてななちゃんの話題がネットからなくならないかな」
別の視点で問題の解決策がないか考えてみた物の良いアイディアが何も思いつかない。
そもそも動画をネットに上げるという行為はデジタルタトゥーという行いにあたり、それは一生消えることのない傷としてネットに残り続けてしまう。
「‥‥‥神宮司、神宮司!!」
「あれ? 尾崎君? 今授業中なのに立ち歩いてていいの?」
「何寝ぼけたことを言ってるんだよ? 授業なんてとっくの昔に終わってるぞ」
「嘘!?」
「嘘じゃない。俺の言う事が信じられないなら周りを見渡してみろ」
尾崎君の言う通り周りを見回すと、クラスメイト達が帰りの準備をしている。
中には鞄がない机もあり、早々に下校した人もいるようだ。
「尾崎君の言う通りだ。教室には殆ど人がいない!?」
「みんな昨日の事件のせいで、さっさと家に帰ったようだな」
「なるほど。だからこんなに人がいないのか」
放課後になるといつもは大勢の生徒が教室に残って楽しそうに談笑しているが、今日はそういう人達が殆どいない。
みんなあの事件が再び起こることを恐れて、早々に帰宅してしまったようだ。
「そういえば月島さんはどうしてるだろう」
「月島ならホームルームが終わったら、いの一番に教室を出て行ったぞ」
「そうか。それならよかった」
きっと月島さんはななちゃんの家に向かったに違いない。
尾崎君の話しから察するに、誰よりも早く教室を出て彼女の家に向かったようだ。
「(月島さんがななちゃんの側にいてくれるなら安心だ)」
これでななちゃんの心の傷が少しでも癒えてくれればいい。
大親友の月島さんが側にいてくれれば、ななちゃんの心の傷が癒えるのもそんなに時間は掛からないはずだ。
「(ななちゃんの心のケアは月島さんに任せるとして、僕はあの動画がこれ以上拡散されない方法を考えよう)」
それが1番の問題なんだけど、それについては最善の策が全く思い浮かばない。
どんな手を打ったとしても根本的な問題の解決には繋がらないので、僕にはどうすることも出来ない。
「(いっそうのこと手あたり次第削除申請を出してみるか?)」
でもそんなことをしたって、あの動画が残っている限りまた誰かがSNSにアップするのが目に見えている。
結局この問題を解決するにはあの配信行われる前に間に入って、あの盗撮犯を取り押さえることしか方法がないような気がした。
「駄目だ!! どんな方法を取っても八方ふさがりだ!!」
「いきなり独り言を言うなんてどうしたんだよ? 朝からずっと様子が変だぞ」
「ごめん。どうしても柊さんの事が気になって、何も手がつかないんだ」
「やっぱり柊のことを考えてたのか。あいつは俺達が心配するだけ無駄だ。あの炎上具合から察するに、当分の間学校には来れないだろう」
「うん、僕もそう思うよ」
月島さんと話していた時からずっとこの炎上をどう収めればいいか考えていたけど、いい方法が全く思いつかない。
普通ならこういう問題は時間が解決してくれる。だけどその方法で解決するには莫大な時間が必要となり、このままだとななちゃんはいつになっても学校に来ることが出来ない。
「お前も俺と同じことを考えているなら、考えるだけ無駄だ。今の俺達に出来ることは何もない」
「それは僕もわかってるよ」
「なら無駄な事を考えるのはやめておけ。それよりも俺はお前に聞きたいことがある」
「僕に聞きたいこと? それって何?」
「SNSで見かけたこの投稿なんだけど、この名前に見覚えはないか?」
尾崎君が見せてくれたSNSの投稿記事には、見覚えのあるハンドルネームが書かれている。
どうやらあの動画はななちゃんの事だけでなく、たまたま映ってしまったとある人物の事まで話題に上がっているようだ。
「この名前は‥‥‥‥‥」
「今神倉ナナの炎上騒動の裏で話題になっているこの名前だけど、もしかしてこのTomaって奴の正体はお前なのか?」
その時僕の頭の中である妙案が浮かんだ。
下手をするとこの問題がさらに燃え上がるかもしれないが、上手くいけばななちゃんの話題が沈静化する可能性もある。
「(ほんのわずかでもこの問題が鎮静化する可能性があるなら、僕はその可能性にかけたい)」
ただこのやり方は僕1人では出来ない。成功する為には協力者が必要になる。
「おい、神宮司!! 黙ってないで俺の質問に答えろ!!」
「ごめん、尾崎君!! 僕は用事を思い出したからもう帰るね!!」
「おい!! まだ話が終わってないぞ!!」
「その話はまた週明けに聞くよ!! じゃあね!!」
せっかく妙案が思いついたのだからすぐ動かないともったいない。
それにこの計画を遂行する為には、やらなければいけないことがたくさんある。
僕は教科書を鞄に詰めることを忘れ、空の鞄を背負ったまま教室を出た。
「まずは姉さんに相談しよう! 話はそれからだ!!」
姉さんをどのように説得しようか考えながら、僕は教室を出て急いで家へと帰る。
家に帰って自分の部屋に入ると、僕はポケットに入っているスマホを取り出し姉さんに電話を入れた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
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