第38話 隠し事
「あの2人、なんだか楽しそうだな」
気分転換に購買で買ったパンを中庭で食べていると人の気配がしたので咄嗟に隠れてしまったが、その判断は間違いではなかった。
嫌な予感がしてすぐさま近くの茂みに隠れると、案の定さっき座っていたベンチにななちゃん達がやってきた。
「さっき購買で2人の事を見かけた時に嫌な予感がしたけど、まさかその予想が当たるなんて思わなかった」
この前ななちゃんに購買の魅力を語ったけど、話半分で聞き流していると思った。
しかも僕が紹介をした秘密のスポットに来るなんて予想外だ。
おかげで僕は別の場所で昼食を取らないといけなくなった。
「こうなったら仕方がない。いつもの場所で食べるか」
これ以上2人の邪魔をするのも悪いし、別の場所へ行こう。
僕は2人に気づかれないように屋上へと向かう。
「よし! いつもの食事スポットに着いたぞ」
屋上のドアの前が普段の僕の食事スポットである。今日はラッキーなことに誰もいない。
僕はその場所で手に持っていた紙袋を開けハンバーガーを手に取った。
「それじゃあ早速食べよう」
「そうだな。それでは一斉に」
「「いただきます!」」‥‥‥‥って尾崎君!? 何でそこにいるの!?」
「だから俺は‥‥‥って、神宮司は俺の名前を正しく言ってたな」
「いつまでそのノリツッコミをするの!? もしかしてそのボケ、地味に気にいってない!?」
「別に気にいってるわけじゃない!? つい反射で言ってしまうだけだ!?」
元はといえば僕が名前を間違い続けたのが悪いんだけど、尾崎君もそのボケを気に入っているように見える。
今度からわざと間違えてみるか。でもそれはそれで一々このボケとツッコミをするのが面倒くさいので、やっぱりやめておこう。
「そういえば神宮司」
「何?」
「ずっと言おうか悩んでたけど、お前柊の事が好きだろう?」
「なっ、何を言ってるの!? 僕がなな‥‥‥柊さんの事が好きなわけないじゃないか!?」
「惚けるなって。休み時間だけじゃなくて、授業中柊がお前の事を見てたぞ」
「なっ、柊さんが僕の事を見てたの!?」
「そうだよ。今日の現国の授業が退屈過ぎて周りを見渡してたら、たまたま彼女がお前の事を見てたんだ」
「何それ? 初耳なんだけど?」
「知らなかったのかよ? 周りも気づいてなかったみたいだけど、お前は気づいているものだと思っていた」
ななちゃんが僕の事をずっと見ていたんだ。僕も今日の朝彼女の事を見てたけど、授業中まで僕の事を見ているとは思わなかった。
「お前と柊の間に何があったか知らないけど、あいつだけはやめておけ。柊と付き合うとろくな事がないぞ」
「僕は柊さんと付き合ってないよ!? 変な勘違いをしないで!?」
「それならいい」
「そういえば何で尾崎君はそんなに柊さんから僕を遠ざけようとするの? 僕からすれば、柊さんが悪い人には見えないんだけど?」
「悪いがそれは言えない」
「何で教えてくれないの?」
「それはお前の為だ。何も知らない方がいい事もある」
一体尾崎君はななちゃんについて、どんな情報を掴んでいるのだろう。
彼が僕からななちゃんを遠ざけようとする理由がわからない。
それに彼がここまで僕にお節介を焼く必要なんてないはずだ。
「まさか尾崎君、柊さんの事が好きなの!?」
「俺があいつの事を好きになるわけないだろう。そもそも俺達の間に接点がないんだから、好きになる要素なんてない」
「でも一目惚れって可能性もあるじゃん」
「ないないない。俺は自分の事を色眼鏡で見ない女性が好きなんだよ。柊なんて真逆のタイプだろう」
「そうかな? 柊さんはそういうタイプには見えないけど」
実際初めて会った時もななちゃんはちゃんと僕の事を知ろうとしてくれた。
それこそ色眼鏡なんてなく僕と接してくれていたから、彼女がそういうタイプではないことはわかっている。
「それはお前の見る目がないんじゃないか?」
「僕からすれば、尾崎君の見る目がないと思うよ」
「中々いうじゃないか。俺はずっとお前の為を思って言ってるのに」
「それこそ余計なお世話だよ。その人がどんな人か見極めるのは自分でする」
「なるほどな。神宮司の意見はわかった」
「尾崎君、どこに行くの?」
「教室に戻るんだよ。お前が自分で人を判断すると言ってる以上、俺の助言なんて必要ないだろう。じゃあな」
そう言って立ち上がった尾崎君は階段を降りて行ってしまう。
結局彼は何が言いたいのだろう。朝からずっと頑なに隠している、彼が持っている情報がわからない。
「あそこまで頑なに話さないなんて、尾崎君はななちゃんの何を知ってるんだろう」
ななちゃんの隠された秘密。それを尾崎君は握っているようだ。
だがそんなことを考えた所で僕にはわからない。彼が話してくれない事には、それが何なのかわかることなんてない。
「でも、ななちゃんが何か隠しているようには見えないんだよな」
いつも僕と一緒にいる彼女は自然体だ。とても何かを隠しているようには見えない。
「う~~~ん。今の所有力な情報もないし、気にしてもしょうがないか」
尾崎君が言っていることが本当かどうかもわからない。
彼が僕に何も話してくれない以上、それを鵜呑みにするのもどうかと思う。
『キーンコーンカーンコーン』
「まずい!? 昼休みが終わっちゃう!? 急いで教室に戻らないと!?』
尾崎君のせいで昼ご飯を食べそびれてしまった。
今僕が紙袋にはさっき購買で買った手を付けられてないパンが入っている。
「この食べ物の恨み、いつか絶対に返す!!」
独り言のように尾崎君に対して恨み節をいいつつも、5時間目の授業を受ける為僕は急いで教室へと戻る。
間一髪先生が来る前に教室に戻ることが出来た僕は、パンが入った紙袋を鞄に入れ空腹のまま授業を受けた。
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ここまでご覧いただきありがとうございます。
本日は更新が遅くなり申し訳ありません。続きは明日の7時に投稿します。
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