第37話 固い絆(柊菜々香視点)
《柊菜々香視点》
「ほら、ウチが言った通りじゃん。こんな所にベンチなんてないよ」
「確かにこっちの方にはないけど、念のためあっちも見て行かない?」
「あっち? 確かにあそこに木陰はあるけど、ベンチなんてあるの?」
「たぶんあると思う」
「わかった。菜々香がそう言うなら行くだけ行ってみよう」
そう言って2人で木陰の中へと入っていく。すると木陰の奥まった所に斗真君が話していたベンチが見つかった。
「こんな所にベンチなんてあったんだ。少し薄暗いけど、風が吹いてて気持ちいい場所だね」
「あたしの言った通りでしょ!」
「うん。でも菜々香、よくこんな穴場を知ってたね」
「たまたま見つけただけだよ!?」
「本当? なんか怪しいけど?」
「本当だよ!? だからあんまり詮索しないで!?」
実際は斗真君が教えてくれたんだけど、その事を美羽ちゃんにいう事が出来ない。
もしあたし達の関係が明るみになったら、あたしがVTuberだという事が美羽ちゃんに気づかれるかもしれない。
「(だからこれはあたしと斗真君、2人だけの秘密)」
彼と秘密を共有できるだけで、無性に嬉しくなる。
寝落ち通話をした時から彼の事が気になっていたけど、2人で遊びに行ってからはその思いがどんどん強くなっていった。
「それよりも早く座って食べよう!」
「うん」
2人でベンチに座って持っていた紙袋をあける。
そしてさっき買ったパンを2人で食べた。
「このメロンパン美味しい!」
「チョココロネもいい! さすが出来立てと歌うだけはあるわ!」
食にうるさいあの斗真君が絶賛するだけはある。
売れ残っている菓子パンがこれだけ美味しいと他の総菜パンも食べて見たくなる。
「ねぇ、菜々香」
「何?」
「今日菜々香がいつもと違う行動をしてるのは、最近ウチの元気がなかったからだよね?」
「そうだよ! 教室にずっといると塞ぎこんじゃうから、いい気分転換になると思って誘ったんだ」
最近美羽ちゃんと莉緒ちゃんの仲に亀裂が入ったことはわかっている。
あたしも合コンに行きたくなかったから美羽ちゃんを擁護したけど、そのせいで莉緒ちゃん達とは疎遠になってしまった。
「ごめん、菜々香。ウチのせいでこんな事になって」
「全然構わないよ。あたしも合コンに行きたくなかったから、美羽ちゃんが断ってくれて感謝してる」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、2人だけになっちゃったね」
「うん。でも2人だけなのは悪い事なのかな?」
「えっ!?」
「あたしは美羽ちゃんが側にいてくれればそれでいいよ。別に1人ぼっちになったわけじゃないし、気にすることはないと思う」
斗真君みたいに自分から1人になる人だっているんだし、それに比べればあたし達は恵まれている。
美羽ちゃんは下を向いてるけど、そんな必要は一切ない。むしろ無理矢理にでもあたし達を合コンに連れて行こうとした莉緒ちゃん達が間違ってる。
「菜々香がそう言ってくれると少し楽になるよ」
「あたしは美羽ちゃんが側にいてくれればそれでいいから。また2人で楽しくやっていこう」
「うん!」
よかった。美羽ちゃんに笑顔が戻って。
この場所を教えてくれた斗真君には感謝をしないといけない。今度学校で話す時があれば、お礼にあの購買で買ったメロンパンの差し入れをしよう。
「そういえば菜々香」
「何?」
「さっきはたまたまこの場所を見つけたって言ってたけど、本当はこの場所を誰に教えてもらったの?」
「えっ!? 誰にも教えてもらってないよ!?」
「そんなわけないでしょ。インドアの菜々香がこんな穴場スポットなんて見つけられるはずがないじゃない」
さすが美羽ちゃんだ。あたしと長年付き合ってきただけはある。
あたしが人付き合いが得意でない事や、あまり外出をしないことまで美羽ちゃんにはバレてしまっている。
でもそういう美羽ちゃんもあまり外に出かけている所を見かけないのであたしと同類だ。だからこそ美羽ちゃんとは中学時代からずっと仲が良かったんだと思う。
「まさか菜々香‥‥‥男でも出来た?」
「でっ、出来てないよ!? あたしに彼氏なんて出来るわけないじゃん!?」
「なんか怪しい。ほら、正直に白状してすっきりしなさい!」
「ちょっと美羽ちゃん!? 脇腹をくすぐらないで!?」
「正直に言わない菜々香が悪いんだよ! くすぐられたくなかったら、早く言いなさい!」
それから昼休みの間、あたしは美羽ちゃんと中庭で過ごす。
中庭で過ごす間、美羽ちゃんはずっとあたしに笑いかけてくれた。
------------------------------------------------------------------------------------------------
ここまでご覧いただきありがとうございます。
続きは明日の7時に投稿します。
最後になりますが作品のフォローや応援、★レビューをよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます