第30話 クラス内の異変

 2人で遊びに行った翌日以降、毎日のようにななちゃんと連絡を取りあっていた。

 それこそ平日の日中以外はずっとチャットをしていて、ななちゃんの配信が終わり次第作業通話を開始して明け方に寝る。そんな生活サイクルを繰り返していた。



「でも、さすがに学校に行く前日まで夜更かしをしていたのは間違いだった」



 ゴールデンウイーク中に1日だけある平日期間。その前日に夜更かしをするべきではなかった。

 そのせいで授業前にも関わらず、ものすごく眠い。さっき教室に着いたばかりなのにあくびが止まらなかった。



「おはよう、菜々香」


「美羽ちゃん、おはよう」


「どうしたの? そんなにあくびなんかして?」


「昨日ちょっと夜更かしをしちゃって。そのせいでちょっとだけ睡眠不足なんだ」


「また夜更かしをしたの!? 最近夜更かしをする頻度が多くない?」


「そんなに多くないよ。それにあたしが夜更かしするのって、そんなに珍しい事なのかな?」


「珍しいわよ! 少なくてもウチは菜々香が夜更かしをしている所なんて殆ど見たことがない!!」


「そうかな?」


「そうだよ!! 夏休みだって日付が変わる前に寝てるのに!? 一体どうしちゃったの!?」



 すいません、月島さん。それは僕のせいなんです。

 昨日は画面共有をして遊戯ダムのアニメを見ながら、スマッシュシスターズというゲームを2人でやってました。


 FPSとは違い2人の実力が拮抗していたせいで勝ったり負けたりを繰り返しやめ時を失った結果、窓の外を見ると太陽が空から覗いていた。

 たぶんそのせいでななちゃんはものすごく眠いんだと思う。念のためあとで謝罪のメッセージを送っておこう。



「本当に大丈夫? 体調は悪くない?」


「うん! 大丈夫だよ」


「もし体調が悪かったらいつでもいうんだよ。ウチが保健室に連れていくから」


「ありがとう。美羽ちゃん」



 月島さんとななちゃんのやり取りを見てると罪悪感が湧いてくる。

 今度からは学校のある日は程々にゲームをするようにしよう。そう心に決めた。



「やけに眠そうだな、神宮司」


「尾立君」


「尾崎だよ!! 何度も同じ間違えをするな!!」


「ごめんごめん」



 なんだか最近はよく尾崎君の事をクラスで見かける気がする。

 単に暇なのかそれとも僕に構ってほしいのか。もしくは両方だと思うけど、最近僕によく話しかけてくるようになった。



「その様子だと俺がお前に何か伝えにきた事を察したな?」


「うん」


「察しがいいな。休暇前と休暇後の教室の様子を見て、何か変わったことがあると思わないか?」


「変わったこと?」



 教室を見回すが特段変わった所はない。

 月島さんとななちゃんはいつも通り楽しそうに話しているし、尾崎君が言うような変化は見られなかった。



「特にクラス内で変わった所があるようには見えないけど?」


「それじゃあ特別にヒントをやろう。柊や月島を見て、何か違和感を感じないか?」


「別に何も感じないよ。あの2人が一緒にいるのはいつも通りなんじゃないの?」


「確かにあの2人が一緒にいるのはいつも通りだ。だけどそこにいるべきメンバーがいないだろう?」


「そういえば池田さん達の姿が見当たらない」


「正解。どうやらこのゴールデンウイーク中、池田達が月島と柊のグループから離れたらしいんだ」


「どうしてそんなことになってるの!?」


「これは俺の予想だけど、この休み期間中池田が話していた合コンが開催されたんじゃないか?」


「そういえば休み前にそんなことを話していたような気がする」


「だろう? それで池田がその合コンに参加した人達と新たにグループを結成したんだよ。だから合コンに参加しなかった月島達は必然的に省かれたんだと思う」



 確かに尾崎君の言っていることは一理ある。ゴールデンウイーク前に月島さんと池田さんは喧嘩をしていたので、それが尾を引いているのだろう。



「(ただそうなってくるとななちゃんが心配だ)」



 楽しそうに月島さんと話してるけど、周りから仲間外れにされて大丈夫なのかな。

 平然と話してはいるけど、内心は穏やかじゃないような気がする。



「池田と月島のグループが分裂した事で、クラス内の空気も一変してる」


「どういうこと?」


「現状月島達のグループは柊を含めて2人しかいない。だからクラスの男子達が2人を自分のグループに誘おうと息巻いているんだ」


「えっ!? 今そんな事になってるの!?」


「そうだぞ。ほら、見ろよ。あの茶髪のイケメン、鮫島がいるグループがしきりに月島達のことを見てるじゃないか」


「本当だ」


「それに一匹狼の松村だって、2人の事を見てる」


「松村君って、入学早々上級生と喧嘩をして停学になったっていうあの人?」


「そうだよ。噂ではその先輩が気に食わないという理由で病院送りにしたらしい」


「なんだか怖い人なんだね」


「あぁ。切れたら何をするかわからないジャックナイフと言われてる男だ。出来ることなら近寄らない方がいい」



 去年まで別のクラスだったけど、彼の噂話は僕も知っている。

 確か体育館倉庫で3年生の先輩達3人を顔が腫れあがる程殴ってしまった事件だ。



「そう考えるとこのクラスって問題児が揃ってるね」


「おいおいおい!? 俺をお前達と一緒にするなよ」


「尾崎君だって僕と同じようなものでしょ!?」


「お前と一緒にするな!! こう見えて俺は単なるゴシップ記者だ。それのどこに問題がある?」


「ゴシップ記者って言ってる時点で問題しかないよ!?」


「それだって周りに求められてるからそうしてるだけだ。俺だってやりたくてやってるわけじゃない」


「なら誰がそれを求めてるの?」


「もちろん、俺の配信を見てるリスナー達だ」



 駄目だ。これ以上尾崎君と話をしていても話は平行線を辿るだろう。

 ここは変に反論せず適当に相槌を打っておいた方がいい。ここで彼の事を刺激してもいいことがない。



「実はここだけの話、俺はお前が驚くようなビッグなネタを掴んでる」


「ビッグなネタ? 何それ?」


「悪いがここでは言えない。ただ俺の放送を聞いてくれたリスナーがオフ会で面白い情報を俺に教えてくれた」


「どういうこと?」


「まだ裏取りが出来てないからなんとも言えないけど、確定情報が出たらお前にも話そうと思う」


「はぁ?」



 尾崎君が掴んでるビッグなネタとは何だろう。

 それを僕に話すという事は僕の身近にいる周りの人達の情報という事だ。



「尾崎君、その情報ってもしかして僕の‥‥‥」


「おっと! そろそろ授業の時間だ。俺は自分の席に戻る」


「えっ!?」


「じゃあな、神宮司。また会おう」



 そう言って尾崎君は自分の席へと戻っていく。

 言いたいことを言って帰るのは彼らしいが、一体僕に何を伝えたかったのだろう。



『キーンコーンカーンコーン』


「もう朝のホームルームの時間か」


「みんな! ホームルームを始めるぞ!! 席に座れ!!」



 それから担任の先生がやってきて、ホームルームが始まった。

 この日は授業中ずっとあくびが止まらず、授業が終わると寄り道をせず真っすぐ家へ帰り、ななちゃんに謝罪のメッセージを入れた後すぐに寝た。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿します。


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