第29話 指切りげんまん

「う~~~ん、楽しかった! やっぱりこういうお店に行く時は、1人で行くよりも友達と行った方がいいね!」


「僕もそう思うよ。こういう所には1人で来るよりも、同じ趣味を持った友達と来た方が断然楽しいと思う」


「あたしも同感だよ! 今日はすごく楽しかったよ! ありがとう、Toma君」


「僕も柊さんと遊べて楽しかったよ。こちらこそありがとう」



 エッチな話をされて戸惑うこともあったけど、なんだかんだいって楽しかった。

 柊さんと僕の趣味が似ていることもあり話が盛り上がったので、出来ることなら彼女とはまたどこかへ遊びに行きたいと思っている。



「そういえばあたしずっと気になってたことがあるんだけど‥‥‥」


「気になったこと? それって何?」


「一緒に遊んでる時、何でToma君はあたしの事をななちゃんって呼んでくれなかったの?」


「それはなんだか柊さんに申し訳ない気がして‥‥‥」


「別にあたしは気にしないよ。出来ればToma君にはこれからも"ななちゃん"って呼んでほしいな」


「いいの? 柊さんの事をあだ名で呼んで?」


「もちろんいいよ! だってあたし達は友達でしょ?」



 友達か。確かに僕と柊さんは友達といっていいかもしれない。

 ここまで柊さんが言ってくれるんだから、僕も彼女の呼び方を変えよう。

 そうしないとあだ名で呼ぶことを許可してくれた彼女に対して申し訳ない。



「わかった。これからは僕も柊さんの事をななちゃんって呼ぶことにするよ」


「ありがとう。一応言っておくけど、学校でもその呼び方で構わないからね」


「学校でもあだ名で呼んでいいの!?」


「いいよ。何か悪い事でもある?」


「いや‥‥‥別に」


「その代わりあたしもこれからはToma君って呼ばせてもらうから。これからよろしくね、Toma君」


「こちらこそ、よろしくお願いします」



 今の話を要約すると僕はこれから学校でも柊さんの事をあだ名で呼んでいい権利を手に入れたことになる。

 彼女の事をあだ名で呼べることにちょっとした優越感があったけど、そもそも学校で彼女に声をかける機会なんてほぼないので意味はないだろう。



「あともう1つお願いがあるんだけど」


「何?」


「今日Toma君と一緒に遊んでる時、あたしと話した内容は学校の皆に内緒にしてほしいんだ」


「内緒?」


「うん! 一緒に遊んだことは言ってもいいけど、その‥‥‥‥‥あたしがエッチな話をしていた事とかVTuberをしている事を他の人達には内緒にしてほしいの」


「わかった。それぐらいの事なら全然構わないよ」


「本当?」


「うん。その代わりななちゃんも僕がTomaだってことは他の人には内緒にしてほしい」


「もちろん。これはあたし達2人だけの秘密だよ♡」


「2人だけの秘密か」



 これで僕とななちゃんの間には人には言えない秘密が出来てしまった。

 しかしよくよく考えてみればお互い人にはバレるとまずい秘密を握ってるので、お互いの額に銃口を突きつけ合っているのと変わらないだろう。



「そしたらこのまま帰りながら、連絡先を交換しよう」


「えっ!? ティスコでいつでも連絡が取れるのに、連絡先を交換するの!?」


「うん。ティスコだと2人で遊んでたことがバレた時、お互い大変でしょ」


「確かに言われてみればそうだけど‥‥‥」


「だから普段使ってるプライベート用のアカウントを交換しよう。そっちのアカウントで連絡を取りあえば、他の人達にはあたし達がつながってる事がわからないでしょ」



 確かにその方がお互い安全だ。情報流出にまで気を使ってるなんてさすが現役VTuber。僕とは違い、そういう所は徹底している。



「わかった。そしたらLainのQRコードを見せればいい?」


「うん! 友達登録をしたらスタンプを送るから、Toma君も友達登録してね」


「了解」



 送られてきたスタンプの友達を友達登録して登録が完了。

 これでプライベートアカウントでも僕はななちゃんと連絡が取れるようになった。



「Toma君って下の名前も斗真って名前なんだ」


「そうだよ」


「だから春に行われたエベ祭りに出場した時、Tomaって名前にしたんだね」


「うん。自分の名前をローマ字読みにしただけなんだけど、ちょっと安直すぎたかな?」


「あたしはいい名前だと思うよ。斗真‥‥‥あたしは好きだよ。この名前」


「ありがとう。ななちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」


「何であたしは斗真君にお礼をされたの?」


「名前を褒められることって中々ないから、ついついその言葉が口をついただけだよ」



 今まであんまり褒められることがなかったので、ななちゃんが僕の事を褒めてくれるのが嬉しかった。

 あの時は僕の身バレを危惧した姉さんから別の名前を提案されたけど、それらを全て却下してよかった。



「夕日も沈んできたし、そろそろ帰ろうか」


「うん!」


「家に帰ったらまた連絡するよ。今日は誘ってくれてありがとう」


「こちらこそ! また一緒に遊びに行こうね」


「もちろん。今度は2人で行きたい所を決めて遊びに行こう」


「それじゃあ約束をしよう。斗真君、小指を出して」


「小指? これでいいの?」


「うん!」



 僕が目の前に出した小指にななちゃんの小指が絡む。

 慌てて僕が離そうとするが、彼女の小指の力が強くて離すことが出来なかった。



「ちょっと斗真君、何で逃げようとしてるの!?」


「こんな事をされたら逃げるに決まってるよ!? ななちゃんは一体何をしようとしてるの!?」


「指切りげんまんだよ。こういう約束をする時は定番でしょ」


「定番?」


「そう。あたしが美羽ちゃんと約束する時によくやってることだよ」



 友達がいない僕にはこれが定番の約束の仕方なのかわからない。

 僕にもっと友達がいればこれがスタンダードなのかわかるけど、今の僕にそれが本当なのか確かめるすべはなかった。



「それじゃあ行くよ! 指切りげんまん嘘ついたら、斗真君があたしの胸に興味がある事を皆にバラシちゃう!」


「ちょっ、ちょっと待って!? それは冤罪じゃない!?」


「冤罪じゃないよ。だってさっきお店の中で、あたしの胸が1番って言ってたじゃん」


「あっ!?」



 ななちゃんの言う通り、確かに僕はあの店でそう言った。

 2者択一に迫られたからななちゃんの方を選択しただけなんだけど、間違いなく僕は彼女の胸が1番だとはっきりと言った。



「指切った! これで斗真君はあたしと遊びに行かなかったら、あたしの胸が好きな事を皆に知られちゃうね」


「そうだね。これで何が何でもななちゃんを遊びに連れてかないといけなくなった」



 まさに呪いの指切りといってもいいだろう。

 この約束が達成出来なかった場合、僕は社会的に死んでしまう。



「約束をしたのはいいけど、僕が約束を破った時のリスクが大きすぎない?」


「そうかな?」


「うん。もし僕が約束を破ったら、僕の学校生活が終わるよ」


「それならあたしとの約束を守ってくれたら、特別にご褒美をあげる」


「ご褒美?」


「そうだよ。だから楽しみにしててね♡」



 ななちゃんがいうご褒美とはなんだろう。

 なんだかろくなものな気がしないけど、頭の片隅に入れておこう。



「最寄り駅に着いたから、あたしはこの駅で降りるね」


「わかった。今日はありがとう。気をつけて帰ってね」


「うん! また後で連絡するね! 今日は楽しかったよ、ありがとう!」



 ななちゃんは電車を降りると、僕に向かって手を振ってくれる。

 僕もななちゃんが見えなくなるまで手を振り、この日は解散した。


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ここまでご覧いただきありがとうございます。

続きは明日の7時に投稿します。


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