第27話 魅力的な女の子

「柊さんは何のフィギュアを見てるの?」


「これは前にアニメ化された学園ラブコメに出てくるヒロインのフィギュアだよ!」



 柊さんが食い入るように見ているそのフィギュアは僕も見覚えがある。

 この子はこのアニメのメインヒロインである、氷結の女王と呼ばれている女の子だ。



「このアニメは僕も好きだったな」


「Toma君もこのアニメを見てたの!?」


「うん! 主人公はひねくれた変わり者だったけど、その中にある彼の優しさに心が打たれたよ」



 オタク界隈を席巻したアニメだったとはいえ、僕と柊さんの好きな物が一致していると嬉しくなる。

 この分なら他にも好きな物が被っている可能性があるので、僕は彼女の事をもっと知りたくなった。



「主人公も良かったけど、あたしはヒロインに感情移入したな」


「どうして?」


「だって周りは主人公の事を変わった人だと煙たがっているのに、彼の優しさや功績を理解しているのはヒロイン達だけなんだよ。自分が傷ついても周りを助けようとする彼の事を救おうとして、必死に頑張るヒロインに心が打たれちゃった」



 柊さんは柊さんであのアニメを見て思う事があるようだ。

 確かにあのアニメに出てくる主人公の行動を見ていると胸が痛くなることがときどきある。

 きっとそれが彼女の心に響いたのだろう。だから僕とは違い彼女はヒロイン達に共感したようだ。



「ごめんね、なんだか辛気臭い話をして」


「全然構わないよ。僕もそのアニメは好きだから、柊さんと話せてよかったよ」


「本当? そう言ってくれると嬉しい」



 アニメの話が出来るのはもちろん嬉しいけど、それ以上に僕は柊さんの笑顔が見れるのが嬉しい。

 彼女がこんな表情豊かに笑う所を僕は初めて見た。

 


「それにしてもこのフィギュア、精巧に作られているね」


「うん。このフィギュアを制作している会社は業界でも最大手の所だから、こんなに作りが細かいんだよ」


「そんな有名な所がこれを作ってるんだ」


「そうだよ。精巧に作られている分値段が高いけど、このクオリティーならお値段以上の満足感が得られると思う」



 柊さんが今見ているフィギュアの値段は2万円もする。

 そのぐらい値段が張れば、中途半端な物は作れないだろう。



「(フィギュアが精巧に作られてるのもいい事だけど、何より布面積が多いのが僕としてはポイントが高い)」



 学園もののアニメという事もあり、僕達が見ているフィギュアは制服を着ている。

 先程見ていた物とは違い布面積も多いし、これなら僕も安心して柊さんと一緒に見る事が出来た。



「う~~~~ん」


「柊さんどうしたの? いきなりしゃがみ込んで?」


「しゃがめばこの子のパンツが見えるんじゃないかと思って‥‥‥‥‥あとちょっと、あとちょっとなんだけど‥‥‥‥‥‥」


「何を考えてるの!? 公然の場所でパンツを見るなんて、それは犯罪だよ!?」


「そこはフィギュアだから問題ないよ。それにToma君だってこの子のパンツの色が何色か気にならない?」


「えっ!?」


「アニメだとパンツの色の描写がなかった子だよ。そんな子がどんな下着を履いてるか興味が湧かない?」


「そう言われると‥‥‥見てみたい気もする」


「だったら一緒に見よう!」


「うん‥‥‥ってならないよ!? 男の僕がフィギュアのパンツを食い入るように見てたら、誰が見たって変質者にしか見えないでしょ!?」



 気になるといえば気になるけど、柊さんのように店頭でやる勇気は毛頭ない。

 もし見るとしても店頭で買って家でゆっくりと‥‥‥ってダメダメダメ!? フィギュアに対して、そんな邪な気持ちを抱いたらダメだ!!



「もう、しょうがないな。Toma君がそういうなら、今日はこのくらいにしておくよ」


「そうしてもらえると僕も助かるよ」


「ちなみにあの子のパンツの色は何色だったと思う?」


「えっ!? もしかして柊さん、あのキャラクターが履いていたパンツの色が見えたの!?」


「うん。バッチリ見たよ!」



 10人中10人の男が振り向くような清々しい笑顔で、柊さんはなんてことを言うんだ。

 これがもっとエモい言葉ならその笑顔と相まってどんな男でもイチコロだけど、さすがにアニメのキャラクターが履いているパンツの話じゃ誰もときめかないだろう。



「あたしぐらいの蔵人なら、この程度の障害は造作もないよ!」


「それがフィギュアのパンツを見る事じゃなければ、格好いいセリフなんだけど」


「細かい事は気にしない! それよりも次はあっちのフィギュアを見よう」



 なんだか今日の柊さんはテンションが高い。いつも教室で友達と話している時より、どことなく楽しそうに見えた。



「このフィギュアは胸が大きいね」


「それはこのキャラクターがサキュバスをモチーフにしたキャラクターだからじゃないかな?」


「なるほど。だからこんなに胸が大きいんだ」


「たぶんそうだと思うよ」



 柊さんはフィギュアの胸に興味津々だけど、僕はこのキャラクターのパンツが気になって仕方がない。

 これも全て柊さんのせいだ。さっきパンツの話をされたせいで、このキャラクターのスカートの下に何が履いているか興味が湧いてしまった。



「見て見て斗真君! このキャラクターの胸の所! 洋服がハート形に切り取ってあるから、胸の谷間が見れるよ!」


「本当だ! さすがサキュバスだね」


「Toma君はこういう穴があると指を入れたくならない?」


「なるなる! つい上からズボって指をツッコみたく‥‥‥って柊さんは僕に何を言わせるの!?」



 ちょっと油断したらこれだ。柊さんはきっと僕にこういう言葉を言わせたかったに違いない。

 現に彼女は僕の目の前でお腹を抱えて笑っている。今のやり取りが彼女のツボにハマったようだ。



「Toma君ってノリがいいね。思わずあたし笑っちゃった!」


「笑ってくれたならいいよ。引かれるよりは全然いい」



 今の話題で笑ってくれるなら良しとしよう。

 彼女にティスコをブロックされ、教室で無視され続けるよりは100万倍マシだ。



「あ~~~よかった。Toma君が思っていたような人で安心した」


「柊さんは僕がどんな人だと思ってたの?」


「それはな・い・しょ♡ それよりあっちにもフィギュアが置いてあるから、一緒に見に行こう!」



 さっきからずっと柊さんの事を見ているけど、こうして一緒に過ごしている内に彼女の印象が変わった。

 教室では清楚で落ち着いた雰囲気を醸し出していたけど、こんなに表情がコロコロ変わるような魅力的な女の子だとは思わなかった。



「(もしかして柊さん、いつも我慢してるのかな?)」



 今思えば教室で女子達と話している柊さんはどこかよそよそしかった。

 あれはもしかしたら彼女達の事を気遣って、あのような態度を取っていたのかもしれない。



「どうしたの、Toma君?」


「何でもないよ」


「それなら次はあっちに行こう。まだまだフィギュアコーナーはいっぱいあるから、どんなフィギュアがあるか隅々まで見よう!」



 それから僕は柊さんと一緒に店内にある様々なフィギュアを見て回った。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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