第22話 驚きの鉢合わせ

 ゴールデンウイークが始まり、ついにナナちゃんと遊びに行く日がやって来た。

 この日の為に今日は朝早くから美容院に行き髪を整え、着ている服は皺ひとつないようにアイロンをかけた。



「必要最低限の身だしなみを整えたし、ナナちゃんと会う準備は出来た」



 あとは遅刻をしないように待ち合わせ場所へ行くだけだ。

 僕は待ち合わせ時間を念入りに確認して電車に乗った。



「今日の遊ぶ場所は池袋だから迷う事はないし、ここならナナちゃんを上手くエスコートできるはずだ!」



 この場所ならアニメショップ等サブカルチャー的な物も充実してるし、映画館やゲームセンター等遊べる施設がたくさんある。

 それに洋服屋やアクセサリーショップ等おしゃれなお店も揃っているので、ここならナナちゃんにどんな無茶振りをされても大丈夫だろう。



「待ち合わせ場所はこの公園で間違いないよね?」



 池袋駅から少し歩いたところにある小さい公園が僕達の待ち合わせ場所である。

 僕が待ち合わせ場所に着く頃には、既に大勢の人達でにぎわっていた。



「ナナちゃんとは13時に待ち合わせをしたけど、本当に来るのかな?」



 現在の時刻は12時30分。約束の時間より30分早く来てしまった。

 待ち合わせをしていた時間より早く到着したが、遅刻するよりは断然マシだ。

 ナナちゃんがくるまでの間、僕は公園のベンチに座って彼女の事を待つことにした。



「ナナちゃんの顔がわからないのは不安だけど、お互いの事がわかるように目印として、遊戯ダムのキーホルダーをバッグに付けてるから大丈夫なはずだ」



 僕とナナちゃんはお互いの顔がわからないので、目印として遊戯ダムのキーホルダーをバッグに着けている。

 2人がたまたま同じものを持っていたのでこれを目印にしたけど、これをつけているだけで本当に彼女と会えるのか少々不安だった。



「あれ? 今公園の中に入ってきた女の子って、柊さんじゃないかな?」



 制服姿ではないけど、あの姿は間違いなく柊さんだ。

 彼女は公園に入ると周りをキョロキョロと見回している。

 一体こんな所で何をしているのだろう?



「あっ!? 神宮司君!?」


「柊さん!? 僕の名前を知ってたの!?」


「もちろん知ってるよ。だってあたし達クラスメイトでしょ」


「それもそうか」



 クラスで存在感のない僕の事なんて眼中にないと思っていたけど、よくよく考えれば僕達はクラスメイトである。

 だから彼女が僕の事を知っていてもおかしくはない。



「どうしたの? そんなに僕の事なんてじーーっと見つめて?」


「なんだか今日の神宮司君って、いつもと雰囲気が違うね」


「そうかな?」


「うん。なんだかいつもより大人っぽくて格好良く見える」



 美容院にまで行って髪を整えたから、いつもとは雰囲気が違うと言われても驚きはない。ただその姿を柊さんに見られたのは失敗だった。



「(自分がおしゃれをした姿をクラスメイトに見られるのが、こんなに恥ずかしいとは思わなかった)」



 今すぐにでもどこかに消えてしまいたいが、ナナちゃんの事を待っている手前そうすることが出来ない。

 さっきから柊さんは僕の事をまじまじと見つめている。彼女はおしゃれをした僕に興味津々のようだ。



「どうしたの、神宮司君? 顔が赤いよ」


「何でもないよ!? 柊さんもいつもとは雰囲気が違ってて可愛いね」


「ありがとう! あたしも今日はいつもより気合を入れておしゃれをしてきたんだ!」


「そうなんだ。もしかして柊さんはこれから彼氏と出かけるの?」


「違うよ⁉ 何で神宮司君はそう思ったの!?」


「だって今日の柊さんは学校にいる時よりも可愛いし、こんなに気合を入れておしゃれをしてきたってことは、彼氏と出かけるためだと思ったんだよ」



 今日の柊さんは服装が可愛いだけでなく、薄く化粧もしている。

 これだけ気合を入れておしゃれをするのは、彼氏とデートに行く以外ありえないだろう。



「う~~~ん、そうだな‥‥‥神宮司君になら話してもいいか」


「えっ!?」


「これは学校の人達には秘密にしてほしいんだけど、実はあたしこの後男の子と遊ぶ予定なの」


「嘘!? 柊さんが男の人と遊ぶの!?」


「そうだよ! その人とはこの公園で会う約束をしてるから、もう少ししたらここに来ると思う」



 柊さんの話を聞いて僕はショックを受けた。

 自分には手の届かない高嶺の花だという事はわかっているけど、彼女の口から男の人と遊ぶという言葉を聞きたくなかった。



「(池田さん達との合コンの約束を反故にしてまでこの約束を優先するんだから、その男性はきっと格好いい人なんだろうな)」



 柊さんと遊ぶ男性が羨ましい。彼女の心を射止めた男性とは一体どんな人なんだろう。



「そういう神宮司君はここで何をしてるの?」


「僕はこれからネットで知り合った友達と遊ぶ予定なんだ」


「ふ~~~ん、もしかしてその友達って女の子なんじゃないの?」


「えっ!? 何でわかったの!?」


「そんなの神宮司君の格好を見ればわかるよ。いつもより気合を入れておしゃれをしてるのもその女の子の為なんでしょ?」


「そうだよ。やっぱり柊さんも僕が頑張っておしゃれをしたのがわかった?」


「うん! 普段の神宮司君を知ってるからこそ、その女の子の為に頑張って身なりを整えてきたのがすごく伝わってくるよ!」


「まいったな。そう言われると何だか急に恥ずかしくなってくる」


「もしかして今日会う女の子は神宮司君の彼女なの?」


「違う違う!? 僕が今日会う人はただの友達だよ!?」


「友達なんだ」


「うん。だけどその人は気遣いが出来てしっかりしている大人の女性だから、僕もその人に釣りあうような格好をしないといけないと思って、この格好をしてきたんだ」



 ナナちゃんと会っても恥ずかしくないように、僕は僕なりに精一杯のおしゃれをしてきたつもりだ。

 周りから背伸びをしていると言われたっていい。

 こうでもしないと僕と会ってくれる彼女に対して失礼にあたる。



「なんだか羨ましいな」


「羨ましい? どうして?」


「だって普段は大人しい神宮司君が、こんなに格好良くなるんでしょ。そこまで神宮司君を本気にさせる女の子にちょっと嫉妬しちゃう」


「僕だって同じ気持ちだよ。今日の柊さんは学校にいる時よりも可愛いから、そこまで君を夢中にさせる男の人が羨ましい」


「ふふっ♡ 褒めてくれてありがとう! 実は今日会う人って、あたしの憧れの人なんだ」


「憧れの人?」


「そうだよ! その人とは今年の春先に初めて話したんだけど、その時からずっと会いたかったんだ」


「その人とは今まで会ったことはないの?」


「会ったことはないけど、ずっとチャットや電話で連絡を取り合ってたの。どうやって遊びに誘おうかずっと考えてて、この前勇気を振り絞って誘ったら向こうもOKしてくれて、やっとその人と会えるんだ!」



 なんだか柊さんが羨ましいな。自分の憧れの人に会えるなんて、これ以上喜ばしい事はないだろう。

 それと同時に柊さんが憧れてる人がどんな人なのかものすごく気になった。

 


「柊さんはその人と何時に待ち合わせをしているの?」


「予定では13時にこの公園で会うことになってる。まだ12時30分なんだけど、その人と会うのが楽しみすぎて、ちょっと早くきちゃった」


「嘘!? 僕が友達と待ち合わせをしている時間と同じだ!?」


「神宮司君もあたしと同じ時間に待ち合わせをしてるの!?」


「そうだよ。せっかくだから、その人達の事をここで一緒に待たない?」


「いいよ! 折角だから一緒に待とう」



 やった! これで少しの間だけど、柊さんと一緒に過ごす事が出来る!

 でも30分もの間柊さんと何を話そう。彼女とこんなに長い時間を過ごすのは初めてなので、お互いの共通点が見当たらない。



「(困ったな。一体何を話そう)」



 困っているのは柊さんも同じようで、僕の方をチラチラと見ている。

 お互いあまりにも接点がなさすぎて話す事がない。



「でも‥‥‥」


「?」


「でも‥‥‥‥‥柊さんがそこまで本気になる人って、きっと優しくて気遣いが出来る大人びた人なんだろうな」


「うん。正直あたしにはもったいない人だと思ってる」


「よかったらその人が来るまで、今日会う人がどんな人か聞いてもいいかな?」


「いいよ。その代わり神宮司君が今日会う女の子について、あたしも詳しく聞かせてもらってもいい?」


「もちろんいいよ!」



 それから僕達は集合時間になるまで、お互いの待ち人について話した。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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