第23話 Tomaとナナ

 柊さんが待ち合わせをしている男性の話を聞けば聞く程、僕は到底その人の足元には及ばないと思う。

 それぐらいその男性がイケメン過ぎた。この人に比べたら、僕なんてミジンコみたいな存在のように思えてくる。



「柊さんが待ち合わせをしている人って優しくて格好いいね」


「神宮司君が待ち合わせをしている人だって素敵な女性だと思うよ」


「ありがとう。正直僕にはもったいない程、彼女は優しくて気遣いが出来る大人な女性だと思ってる」



 あれほど素敵な女性なら引く手あまたなはずなのに、どうして僕と会ってくれるのだろう。そこだけは僕にもわからなかった。



「お互い大切な友達に会えるといいね!」


「うん!」



 時計を見ると時刻は既に13時を過ぎている。

 そろそろナナちゃんが現れてもおかしくないはずだけど、公園内には彼女らしき人物は見当たらなかった。



「柊さんが待ち合わせをしている人って、まだ来ないの」


「そうみたい。神宮司君はどう?」


「僕の方もまだだよ」



 この前コラボ配信をした時は待ち合わせ時間よりも早く来ていたので、時間にはきちんとしている人だと思う。

 そんな人が遅刻するなんて考えられないので、何かよからぬ事に巻き込まれたに違いない。そのせいで怒りよりも先に心配の方が勝ってしまった。



「どうしたんだろう? もしかして事故にでもあったのかな?」


「そんなはずないよ! きっと神宮司君の待ち人も、もう少し待てばきっと来るはずだから気長に待とう!」


「そうだよね。電車が遅れてるせいだと思う事にする」


「たぶんそうだよ。あたしもそう思ってる」



 柊さんの今の言葉は自分に言い聞かせているように聞こえる。

 彼女も僕と同じように待ち合わせ相手が現れなくて焦っているようだ。



「もう少し待てばお互いの待ち人が来るよ。それまで一緒に待とう」


「うん!」



 それからさらに15分程待つが、一向にナナちゃんは待ち合わせ場所に現れない。

 柊さんの待ち人も現れず、2人で公園のベンチに座って待ちぼうけていた。



「こんなに待っても来ないなんて、本当に事故にでもあったんじゃ‥‥‥」


「ごめん、神宮司君。あたし彼の事が心配だから連絡してみるね」


「僕も友達に連絡してみる」



 スマホを触っている柊さんを見て、僕も自分のスマホをポケットから出す。

 その直後僕のスマホにナナちゃんから連絡がきた。



神倉ナナ:お疲れ様! あたしは今公園にいるんだけど、Toma君はどこにいるの?


Toma:僕も今公園にいるよ



 ナナちゃんも既に公園にいたのか。それらしき人物は見かけないけど、一体どこにいるんだろう。



「柊さんは相手の人と連絡がついた?」


「うん! 彼もこの公園にいるらしいんだけど、どこにいるんだろう」



 どうやら柊さんの相手も同じ公園にいるみたいだ。

 僕同様に辺りをキョロキョロと見回している。



Toma:ナナちゃんは公園のどの辺りにいるの?


神倉ナナ:あたしは今公園のベンチにいるよ


Toma:嘘!? 僕もそうだよ。今公園のベンチに座ってる



「「えっ!?」」



 僕と柊さんの声が重なったのと同時にお互いの顔を見つめてしまう。

 たっぷり10秒間見つめあった後、やっと彼女と話す事が出来た。



「もしかして柊さんが‥‥‥ナナちゃん?」



 話の核心をつく一言を僕は柊さんに言った。



「あたしの事をナナちゃんって呼ぶ人はToma君だけだから、もしかして神宮司君がToma君なの!?」


「うん、そうだよ」



 驚いたなんてものじゃない!? 思わずその場で腰が抜けそうになった。

 だってクラスでは清楚で可憐な美少女である柊さんが、ちょっとエッチなお姉さん系VTuberの神倉ナナだなんて普通は思わないだろう。

 柊さんと神倉ナナは対局に位置する存在だ。2人の事を知っている僕からすれば、その2人が同一人物だという事がいまだに信じられなかった。



「神宮司君が‥‥‥Toma君? 本当にあのToma君なの?!」


「そうだよ。ほら、これを見て。あの時約束した遊戯ダムのキーホルダーをつけてきたよ」


「本当だ! あの時約束したキーホルダーがついてる」


「ナナちゃ‥‥‥柊さんはあのキーホルダーをつけてないの?」


「あたしもちゃんとつけてるよ! ほら、このバッグを見て。ちゃんと誰が見てもわかるような場所に着けてあるよ」



 彼女が見せてくれたバッグにも遊戯ダムのキーホルダーがついている。

 これで柊さんが神倉ナナだということが確定した。

 どうやら僕達はお互いが自分の待ち人だとは思わず、ずっとベンチに座っていたようだ。



「驚いた。まさか柊さんが神倉ナナだとは思わなかった」


「あたしも同じだよ。まさか神宮司君がToma君だなんて思わなかった」


「本当に世間は狭いね。まさかこんな身近にネット上の友達がいるなんて思わなかったよ」



 こんなことなら、もっと早く柊さんに声をかけておけばよかった。

 出会った時にお互いの待ち人の名前を確認しておけばこんな事になってなかったのに。僕としたことが失敗した。

 


「どうしたの柊さん? 急に顔が赤くなったけど、熱でもあるの?」


「あたしは今まで神宮司君がToma君だと思わずに、あんなことを言って‥‥‥」


「あっ!?」



 あまりに衝撃的な出会い方をしたせいで忘れていたけど、柊さんがナナちゃんとは知らず僕は彼女の事をずっと褒めちぎっていた。

 しかも本人に聞かれたら恥ずかしいことまで僕は柊さんに話している。



「(つまり僕は今まで告白とも取れるような発言を本人の前でしていたんだ!?)」



 その事を認識した途端急に恥ずかしくなってしまう。

 柊さんも僕と同じ気持ちなのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。



「‥‥‥‥‥Toma君はこの後どうする?」


「どうしよう‥‥‥‥‥とりあえず一旦落ち着くために、どこかで休憩する?」


「賛成!」


「そしたら場所は僕が決めてもいい?」


「うん、いいよ。場所はToma君に任せる」


「ありがとう。それじゃあ休憩できる場所に案内するから、僕に着いてきて」



 それから僕達は火照った頭を冷やす為、休憩できる場所へと移動した。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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