第21話 月島美羽の意外な素顔

 次の日の朝学校へ向かっている最中にスマホを見ると、ナナちゃんから連絡がきていた。



神倉ナナ:おはよう! 昨日は夜遅くまで付き合ってくれてありがとう( ᐢ˙꒳​˙ᐢ )


Toma:こちらこそ、ナナちゃんと話せて楽しかったよ!


神倉ナナ:そう言ってもらえるとあたしも嬉しいな!


神倉ナナ:それで今度遊びに行く予定なんだけど、30日の日は空いてますか?


Toma:空いてるよ!


神倉ナナ:そしたら遊びに行くのはその日でいい?


Toma:いいよ。僕はその日付けで大丈夫だから、集合場所と時間は後で連絡するね


神倉ナナ:わかった! Toma君からの連絡を楽しみにしてます(๐^╰╯^๐)♬ルンルン♬


「これでよし」



 日程も決まったし、これでナナちゃんと2人で遊びに行くことが正式に決定した。

 勢いに任せて約束してしまったけど、本当にこれでよかったのだろうか。

 姉さんから忠告された事も気がかりだけど、今はそれ以上に悩んでいる事があった。



「今の僕を見て、ナナちゃんは幻滅しないかな」



 ネットの世界にいるTomaと現実世界の神宮司斗真は似て非なる人物だ。

 もしナナちゃんが僕と会ったら幻滅してしまうのではないか。その事だけがずっと気がかりだった。



「ナナちゃんと会う前に散髪はした方がいいな」



 最近髪を切りに行ってないし、せっかくの機会だから思い切って散髪しに行こう。

 あまり気乗りはしないが、以前姉さんに教えてもらった美容院に行けば格好良く髪を整えてくれるはずだ。



「ナナちゃんと会う前に最低限の身だしなみは整えていこう」



 それが彼女と会う上で最低限のエチケットだろう。芸能人のように格好良くなる必要はないが、彼女から不潔だと思われないように、最低限身だしなみは整える必要がある。



「それにしても、相変わらずクラス内は騒がしいな」



 こんなにクラス内が騒がしいのは、みんな連休前で浮足立っているせいだろう。

 僕を含めたクラスメイト全員がゴールデンウイークがくるのを今か今かと待ちわびていた。



「そういえば菜々香、この前の合コンの話は考えてくれた?」


「ごめん莉緒ちゃん。やっぱりあたしはその集まりに行けない」


「えぇっ!? みんな菜々香が来ることを期待してたんだよ!?」


「本当にごめん。ゴールデンウイークに急な予定が入って、そっちの集まりに行けなくなっちゃった」


「でも‥‥‥」


「諦めなって莉緒。こういう時の菜々香は絶対に自分の考えを曲げないから、説得しても無駄だよ」



 どうやら池田さんが計画していた合コンの話がとん挫したらしい。

 月島さんと柊さんがこの話を前から断っていた事は知っていたけど、あの話がここまで進んでいたことにびっくりした。




「(でも、これでクラスの男子達も胸を撫で下ろしたに違いない)」



 学内で1、2を争う美少女達が年上の大学生達に取られなくてよかった。

 きっとこのクラスにいる男子全員が僕と同じような気持ちを抱いているに違いない。現にある男子グループが月島さん達を見て、ほっと胸を撫で下ろしていた。



「美羽も菜々香も来ないなんて、彼氏になんて言い訳をすればいいだろう」


「莉緒なら他にも知り合いがいるでしょ? その人達に頼めばいいじゃん」


「美羽の言う通り、他に宛はあるけど‥‥‥」


「ダメ元でその人達を誘ってみなよ。ウチ等を無理に誘ってもいい事なんてないよ」


「もう!! わかった!! 今回2人を誘うのは諦めて、他の人を誘う!!」


「莉緒、私は行ってもいいんだよね?」


「もちろんよ。こんな薄情な人達なんて放っておいて、2人で楽しもう!」



 なんだか柊さんのグループに不穏な空気が漂ってる。

 グループ内でもリーダー的な立ち位置にいる月島さんと池田さんが喧嘩をしているせいで、妙な緊張感があった。



「月島と池田は滅茶苦茶仲が悪いようだな」


「尾口君!?」


「尾口じゃなくて尾崎だ!! 頭文字しか合ってないじゃないか!?」


「ごめんごめん、最近全然話してなかったから、尾崎君の名前を忘れてたよ」



 最近授業中ペアを組むような事はなかったし、クラスでも全然話さないので尾崎君の事をすっかり忘れていた。

 彼と話したのもいつだったか思い出せないぐらい、最近関わり合いがなかった。



「(そういえば尾崎君って僕と同じクラスだっけ?)」



 クラスではあまり絡まないので、その事さえも覚えていない。

 ただ彼の様子を見て、何となく僕と同じクラスのような気がした。



「それよりも神宮司はあの2人の争いを見てどう思う?」


「どう思うって言われても‥‥‥早く仲直りしてほしいとは思ってるよ」


「ところがどっこい、それがそうもいかないんだよ」


「どういうこと?」


「月島と池田は価値観が似ているように見えるけど、実際には全然違うみたいだ」


「なるほど。もしかしてそのせいで2人はずっと喧嘩をしてるの?」


「そうだ。月島はギャルみたいな見た目をしているから一見派手に遊んでいるように見えるけど、性格はお堅くてしっかりしてる。だから色々な所で遊び惚けている池田達とはそりが合わないんだよ」


「それは意外だね。月島さんもかなり遊んでそうな見た目をしているのに、性格は真面目なんだ」


「もしかして神宮司も月島が遊び人だと思った?」


「うん。あんな派手な格好をしてれば、誰だってそう思うよ」



 月島さんのあの姿を見れば、誰だって彼女が遊んでると思うだろう。

 僕だって今の尾崎君の話を聞かなければ、彼女に対してそんな偏見を抱いていた。



「ここだけの話、月島があんなファッションをしているのには理由があるんだよ」


「理由? それって何なの?」


「これはあくまで噂だけど、月島はとある男性に片思いをしているらしい」


「えぇっ!? それって超重大情報じゃない!?」


「そうだよ。ただ月島が好きな男性の素性までは俺もわからない」



 月島さんって好きな人がいたんだ。びっくりした。

 しかも一途にその人の事を思っているなんて、もしかしたら僕が思っていた以上に彼女は純情なのかもしれない。



「今までは月島さんの事を派手な格好をしている遊び人だと思っていたけど、それは全て僕の偏見だったのか」


「そうだぞ。人は見かけに寄らないとは月島みたいな人の事を指すんだ」



 もしかしたらあのファッションも自分の好きな人に振り向いてもらう為にしているのかもしれない。

 月島さんが好きな男性とは一体誰だろう。彼女から一途に思われるなんて、その人は幸せ者だな。



「尾崎君は何でその情報を僕に教えてくれたの?」


「何となくだよ。月島と柊からは、お前と似た雰囲気を感じたから話したんだ」


「あの2人が僕と同じ!? ないないないないない!? 僕と月島さん達じゃ住んでいる世界が違うよ!?」



 ミスコンも取ってクラスでも異彩を放つ2人と僕が同じ雰囲気なわけがない。

 クラスのカースト頂点と最底辺が同じ雰囲気を纏っているなんて、そんなことは天地がひっくり返ってもあり得ないだろう。



「そうか? 2人の事を間近で見ている俺からすれば、お前と同じ匂いを感じるぞ」


「尾崎君には悪いけど、僕は全く感じないよ」



 僕と同じという事は、月島さん達が陰キャって事になるじゃないか!? さすがにそれは2人に対して失礼だろう。

 もしくは僕が隠れ陽キャの可能性もあるけど、その可能性は絶対にありえない。

 なので尾崎君の見立ては間違っているような気がした。



「そういえば尾崎君はどうして僕の所に来たの?」


「実は俺もお前に話したいことがあるんだよ」


「僕に話したいこと? それって何?」


「実は今度行うオフ会の日が決まったんだ。だからそれをお前に伝えにきたんだよ」


「オフ会?」


「そうだ。YourTubeのリスナーと触れ合う事を目的としたオフ会が、ゴールデンウイークに開催されるんだよ。せっかくだからお前もその集まりに来ないか?」


「ごめん、僕もゴールデンウイークは予定があっていけないんだ」



 ゴールデンウイークはナナちゃんと遊びに行く予定があるので、尾崎君と遊ぶことは出来ない。

 彼からの約束を断るのは心苦しいが、休みの日にお金を払ってまで尾崎君と会いたくないというのが僕の本音である。



「予定が入ってるならしょうがないな。神宮寺とバチバチに趣味が合いそうな子がオフ会に来そうだから誘ったんだけど、今回は諦めよう」


「ごめん」


「別に謝らなくていい。当日は俺1人で楽しんでくるわ。あとで俺の話を聞いて、行けばよかったと後悔するなよ」



 そう言って尾崎君は自分の席へと戻って行ってしまう。

 どうやら彼はがここに来たのは、ゴールデンウイークに行われるオフ会に僕を誘いたかっただけのようだ。



「僕もゴールデンウイークは予定があるし、準備だけはしっかりしよう」



 なんてったってあの神倉ナナと2人で遊びに行くんだ。

 彼女がどんな人かわからないけど、鼻で笑われないように最低限の身だしなみはしていこう。



「みんな遅れてすまない!! 職員会議が少し押してしまった!?」


「もうこんな時間か」



 僕達が話している間に予鈴のチャイムが鳴っていたみたいだ。

 尾崎君と話していたせいで、チャイムの音に気がつかなかった。



「それじゃあ朝のホームルームを始めるから、みんな席につけ!!」



 先生の呼び声を合図にして、大勢のクラスメイト達が自分の席へと座る。

 それからすぐに先生は教壇に立ち、朝のホームルームを始めた。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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