第17話 神倉ナナのお願い事

『それじゃあみんな、今日はあたしの配信を見にきてくれてありがとう! おつなな~~~!』



 配信画面でニコニコと笑っているナナちゃんを見届けた後、僕は机の上で突っ伏してしまう。

 僕の出番が終わった後トークルームをすぐに出て、放送事故が起きないようにわざとティスコのアプリを一時的に閉じた。



「こうすれば配信で僕のプライベートな音声が流れることはないだろう」



 僕は独り言を言う事が多いので、もしかすると配信に載せてはいけない言葉を口にしてしまう可能性がある。その可能性を絶つために僕はわざとティスコのアプリを閉じた。



「ゲーム配信ってこんなに神経を使う物だったのか」



 今日のコラボ配信中、ナナちゃんの容赦ないセクハラ攻撃に終始たじたじだった。

 正直今日の配信が成功したのかわからない。こうしている間にも僕がSNSで炎上していないか、不安で不安で仕方がなかった。



「いつもは何十時間ゲームをしてても全く疲れないのに、何で今日はこんなに疲れてるんだろう?」



 これがナナちゃんとコラボ配信をしていたせいだという事は、配信素人の僕にでもわかる。

 僕が反応に困るような事をナナちゃんが言うせいで、いつも以上に疲弊していた。



「あっ!? ティスコでナナちゃんから連絡がきてる!?」



 ちょうど配信も終わったので、僕にお礼の挨拶を言いにきたのだろう。

 重たい体を起こし、僕は彼女からの通話に出た。



『お疲れ様、Toma君!』


「お疲れ様です」


『今日はあたしとコラボしてくれてありがとう! Toma君凄くよかったよ! 初配信とは思えないぐらい面白かった!」


「それは良かったです」


『あれ? なんか滅茶苦茶疲れてない? もしかしてあたしが配信枠を閉じている間に激しい運動でもしたの?』


「そんなことするわけないじゃん!? それにこんな狭い部屋で激しい運動なんて出来るわけがないよ!?」


『そうかな? あたしは出来ると思うけど?』


「一体ナナちゃんはどんな運動を想像してるの!?」


『えっ!? そんなエッチな言葉をToma君はあたしに言わせたいの?』


「ごめん、ナナちゃんが何を言いたいのかわかったからもういいや」



 彼女がいう激しい運動が卑猥な事を指しているのはわかった。

 これ以上この人の話に付き合っていても僕の精神が摩耗するだけなので、こういう話題は流した方がいい。



「それよりも今日の配信は大丈夫? 色々と問題発言が飛び交ったけど、ナナちゃんのリスナーは怒ってなかった?」


『全然怒ってないと思うよ。むしろあの程度のやり取りは日常茶飯事だから、あたしのリスナーも今日の配信に満足してくれたはずだよ」


「それならよかった」


『それに今日はいつもより同時接続数も多かったから、総視聴時間も期待できると思う! チャンネルの数字を伸ばす上でも最高のコラボだったよ!』



 ナナちゃんがそう言ってくれるならよかった。

 これだけ配信で暴れておいて、いつもより見る人が少ないなんてことになったら、こっちとしてはたまったものじゃない。

 あれだけ体を張って配信を2時間やり通したんだ。ぜひともこの配信はいつも以上に数字を伸ばしてもらいたい。



『SNSのトレンドにも載ってるし、このコラボは凄い反響があったみたい!!』


「それはよかった。この配信のおかげで、僕のSNSのフォロワー数もうなぎ上りだよ」


『よかったじゃん!! これでToma君も人気配信者の仲間入りだね』


「仲間入りと言われても、僕はまだ自分のチャンネルを立ち上げてないんだけど‥‥‥」


『今はチャンネルがなくても、そのうちToma君も自分のチャンネルを立ち上げるつもりなんでしょ?』


「まぁ‥‥‥たぶん‥‥‥そうなるんじゃないかな」



 こんなに歯切れの悪い答え方をするのは、僕が配信者になる気がないからだ。

 僕はナナちゃんにその事をそれとなく伝えている。



「(本当に僕が配信者ストリーマーデビューすることなんてあるのかな?)」



 姉さんは僕に配信者になって欲しいのかもしれないけど、今の僕にその考えはない。

 なので僕がチャンネルを持つという事はしばらくないだろう。あったとしても、それは遠い未来の話だ。



『もしToma君がこの先配信を始めるなら、あたしが真っ先にコラボするね!』


「その時はよろしくお願いします」


『あっ、そうだ!? せっかくだからその時はカップルチャンネルを新設しよう! あたしとToma君のカップリングなら、天下を取ることも夢じゃないよ!』


「そのお誘いは謹んでお断りします!!」



 そんなことをしたら炎上どころの騒ぎじゃ済まないだろう。

 それこそSNSを通して僕の事を誹謗中傷するメッセージが頻繁に送られてくる可能性が高いので、そんなリスクがあることをしたくなかった。



『えぇ~~~!? あたしとToma君なら、絶対みんなも喜ぶと思うよ』


「それはゴシップ界隈の人が炎上ネタとして喜ぶだけでしょ」


『それでも注目が集まらないよりはましだよ。ほら、よく言うでしょう。悪名は無名に勝るって』


「例えその方が話題性があったとしても、出来ることなら僕は炎上はしたくないよ」


『むぅ~~~。そこまで言うなら、この話は諦める』


「それは助かるよ。出来ればこれからもそういう考えは抱かないでほしい」


『わかった。その代わり、1つだけあたしのお願いを聞いてくれない?』


「お願い?」


『そんなに怪しまないでよ!? そんなに大変なお願いじゃないから、Toma君でも簡単に出来ると思うよ!』



 そうは言われても、ナナちゃんの事だから突拍子もない事を言いそうで怖い。

 さっきの配信からもわかる通りナナちゃんの思考は常人の考えを超越しているので、そのお願いを安易に受け入れることが出来なかった。



「そう言ってまた無理難題を言うつもりなんじゃないの?」


『そんなことないよ。話を聞いてもらえればわかってもらえると思うから、とりあえずあたしの話だけでも聞いてくれないかな?』


「いいよ。その代わり話だけだよ」


『ありがとう! Toma君のそういう所、あたしは好きだよ!』



 姉さんから配信者の子とは親しくならないように注意されたけど、話を聞く分にはいいだろう。

 ナナちゃんと特別な約束をするわけじゃないし問題はないはずだ。

 


「(もし彼女が無茶な頼みをするようなら、その時は断るようにしよう)」



 そう心に決めて僕はナナちゃんのお願いを聞くことにした。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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