第16話 相性のいい友達
それから僕はボイスチャットでナナちゃんと会話をしながらゲームを進めていく。
途中で危ない場面もあったが、無事に敵を全滅させゲームは終了した。
『やった! 1番だ!! Toma君、あたし達チャンピオンになったよ!!」
「うん。この試合で1番になれてよかったね」
ゲーム前はふざけてばかりいたので、ナナちゃんのFPSの腕は大したことがないと思っていたが、それは僕の思い違いだった。
さっきの会話の時とは違い、僕とナナちゃんのゲームの相性はすこぶるいい。
これは個人的な感想だけど、ナナちゃんとはこのゲームを通していい友達になれるような気がした。
『さすがToma君!! あの大会で準優勝した実力は伊達じゃないね!』
「今の試合はたまたま上手くいっただけだよ」
『そんなに謙遜しなくていいんだよ! あたしが何も言わなくても居てほしい所に移動してくれるから、ものすごくやりやすかった!』
「ありがとう。そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
『もしかしてあたし達、体の相性がいいんじゃないかな?』
「相性がいいのは体じゃなくてゲームだからね。体って言うと周りから変な誤解をされるから気をつけよう」
『あたしは別に‥‥‥‥‥そう捉えられてもいいよ!』
「ナナちゃんは良くても、僕が駄目なんだよ!?」
ゲームが終わった途端人が変わったようなこのふざけっぷり。
本当にさっきまでこのゲームで僕と阿吽の呼吸を見せていた人と同一人物なのか疑しい。
「(もしかしたら僕は今までナナちゃんの幻影を見ていたんじゃないかな?)」
彼女のこのふざけっぷりを見ているとそう思ってしまう。
ゲームをしている時はあんなに頼もしくて格好良かったのに、これでは全て台無しだ。
『もう! そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。Toma君はあたしの彼氏なんだから、そっけない振りをしなくていいんだよ』
「僕はいつナナちゃんの彼氏になったの!? 初耳だよ!?」
『それはもちろん、この配信が始まってすぐ付き合ったに決まってるじゃん!』
「出会って1秒も経っていないのに付き合うなんて、ナナちゃんの彼氏になるハードルって低すぎない?」
『あたしは低いと思わないよ。出会って5秒で即合体するような関係だってあるんだから、それぐらいのスピードで恋に落ちたとしてもおかしくないと思う』
「合体するスピードが早いのは僕の気のせいかな?」
『それは気のせいだよ! だからToma君も遠慮せずあたしの胸に飛び込んできて!』
ナナちゃんの言ってることは理解できるんだけど、どうしても腑に落ちない。
それはたぶん彼女が話の中でA〇のタイトルを引用しているせいだろう。
さっきからナナちゃんがボケ倒しているせいで、僕はツッコミがやめられなくなってしまった。
『それによく言うでしょ。体の相性がいい友達の事をセ〇レって』
「相性がいいのはわかるんだけど、それはあくまでゲーム内の話だよね? 体は関係ないと思うんだけど?」
『関係あるよ! Toma君はゲームをしている時あたしの事をいっぱい気持ちよくしてくれるんだよ! あたしの彼氏になるのが嫌なら、あたし達の関係はセフ〇ってことでいいんじゃないかな?』
「それは絶対ダメだよ!! そんな邪な関係に僕を巻き込まないで!?」
『いいじゃん!! Toma君だってさっきからずっと気持ちよくなってるくせに!! カマトトぶらないでよ!!』
「それはゲームをしていて脳内のドーパミンがドバドバ出ているからであって、決して性的な事ではないよ!? だからYourTubeさん!! このチャンネルをBANしないでください!!」
何で僕が他人のチャンネルの心配をしないといけないんだろう。
ナナちゃんもお腹を抱えて笑ってるだけだし、本当にこのチャンネルがなくなっても僕は知らないよ。
『これぐらいの表現なら問題ないよ。今まで何度も同じような事を言ってきたけど、YourTube君の怒りを買ったことは1度もないから安心して』
「マジかよ。YourTubeの運営って寛容だな』
この配信サイトはもっと規制が厳しいと思ってたけど、僕が思っていた以上に寛容なようだ。
YourTubeを毎日見ているので全てを知ったつもりでいたけど、どうやら僕の知らない世界がまだまだあるようだ。
『だからToma君も安心してあたしの彼氏になっていいよ。それとあたしのメンバーシップに入ってくれたら、特別なASMRをしてあ・げ・る♡』
「そういうのは大丈夫です。あと自分のメンバーシップに僕を勧誘するのはやめてください」
『むぅ~~~~!! Toma君はさっきからあたしの彼氏になることを拒否してるけど、もしかして彼女持ちなの?』
「かっ、彼女なんていないよ!? ナナちゃんは何でそう思ったの!?」
『だってあたしの彼氏になってほしいってお願いしたら、ものすごい剣幕で拒否してくるじゃん。だから本物の彼女にバレたらまずいのかなって思ったの』
「そんな人なんているわけないじゃん!? 僕はただ余計な事を口走って、ナナちゃんのリスナーに嫌われたくないだけだよ!?」
『大丈夫。みんなこれぐらいの事でToma君の事を嫌わないよ』
「そんなはずないよ!? ナナちゃんはもっと自分が人気者だという事を自覚して!?」
ナナちゃんぐらいの影響力があれば、僕みたいなちっぽけな存在なんて簡単に消す事が出来るだろう。
それぐらいの影響力を彼女は持っているので、自分の発言には細心の注意を払ってほしい。
『そんなに燃えるような事、あたし言ったかな?』
「言ってるよ!? 現にコメント欄には僕への恨み節のようなものが書かれてる!?」
『大丈夫だよ。みんなToma君の事を弄ってるだけだから」
「それはナナちゃんがそう思ってるだけじゃないの?」
『そんなことないよ。ほらToma君、このコメントを見て。『Toma君、ウチのナナの事をよろしく頼む』って言ってる人がいるよ。リスナーのみんなもあたし達の事を応援してくれてるんだね』
「普通僕達の事を応援してくれている人は『Toma、明日から夜道には気をつけろよ!!』なんて書き込みはしないよ」
『ふふっ。最近は物騒だから、あたしのリスナーさんもToma君の事を心配してくれてるんだね』
「そう思ってるのはナナちゃんだけだよ!? どう見てもこのコメントは僕への〇害予告でしょ!?」
普通この文章を見て、自分の事を心配していると思う人はいないだろう。
彼女が何を考えているかわからなくてすごく怖い。このままでは彼女の勢いに押し切られ、初配信で大炎上という不名誉な記録を作ってしまう。
『ふっふっふ』
「何で急に笑い出すの?」
『実は今日あたしがこういう振る舞いをするのは、Toma君の修行の一環なの』
「修行?」
『そうだよ。Toma君はよりよい配信者になるために必要なスキルは何だと思う?』
「えぇっと‥‥‥リスナーを楽しませる為のトークスキルじゃない?」
『違うよ』
「それなら歌唱力! 最近の配信者はよく歌っているから、歌唱力が必要だと思う」
『それも違う』
「なら降参。答えは何?」
『配信者に必要なスキル、それは臨機応変な対応力だよ!』
「対応力?」
『そう。何か不足の事態が起こった時、瞬時に対応できる力が配信者には必要なの』
「なるほど。確かに言われてみればそうかもしれない」
『だから炎上の1回や2回、恐れちゃダメ。むしろ炎上した方が配信者として成長するんだから、むしろ火の海に飛び込んだ方がいいと思うよ』
「もしかしてさっきから僕を炎上させようとしていたのも‥‥‥」
『もちろん、あたしの趣味だよ!』
「やっぱりそうだったのか!! ついに本性を現したな!?」
修行というのは建前で、ナナちゃんは僕の事をからかって楽しんでいたようだ。
それはナナちゃんが楽しそうに笑っていることからもわかる。
体を左右に振りながら笑顔を振りまく彼女は、僕との掛け合いを心の底から楽しんでいるように見えた。
『だってしょうがないじゃん。これも全てToma君の反応が可愛いのが悪いんだよ』
「何で僕のせいになってるの!? そんな理由で僕の事を燃やそうとしないでよ!?」
「別に燃やそうとはしてないよ。最初はからかってただけなんだけど、途中からお姉さん、本気でToma君の事が好きになっちゃったの。だからあたしと付き合って♡』
「こんな大勢の人達が見ている前で告白なんてしないでよ!? それよりも早く次の対戦に行こう!!」
いつまでもこの人の話にのっているとゲームどころではなくなってしまう。
急いで僕が次のゲームを始めるとナナちゃんも僕のチームに入ってきた。
『もうちょっと斗真君との雑談を楽しみたかったのに。残念』
「それはまた今度にしよう。今日はゲームメインの配信なんだから、雑談よりもこっちを頑張って」
『は~~~い』
ナナちゃんから気のない返事が返ってきたのと同時にゲームが開始される。
結局この後1時間程2人でゲームを楽しみ、彼女とのコラボ配信が無事終了した。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時に投稿します。
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