第15話 黒歴史の再来

『Toma君は現役の高校生なんだよね?』


「はい。まだ学校に通っているピチピチの高校生です」


『かわいい~~~!! 現役の高校生と話せるなんて、あたし超うれしい~~~!!!』


「ナナちゃんは今まで高校生とコラボしたことがないの?」


『ないよ、ないない! この業界って20代~30代の人が多いから、本物の高校生と話すのは初めてだよ!!』


「あれ? でもみんな自己紹介をする時、17歳って言ってなかった?」


『Toma君、年齢の話はこの業界の中でもっとも触れちゃいけない事だよ。発言には気をつけて』


「すいません」



 あれ? これって僕が悪いのかな? 触れてはいけない話を僕に振ったのはナナちゃんの方だった気がするけど、僕の勘違いじゃないよね? 



「(今の会話の中で僕に落ち度はないと思う)」



 むしろ全ての元凶はこの話題を僕に振ったナナちゃんの方だろう。それなのに何故か僕の方が彼女に怒られてしまった。



『Toma君の事を知らない人に説明するけど、彼はこの春行われたエベの大会で数々の名のあるプロゲーマーをなぎ倒して準優勝した超新星なの!』


「どうも」


『あたしもその大会を見てたけど、Toma君はもの凄く格好良かったんだよ! 無名ながらも名だたるプロゲーマーをバッタバッタとなぎ倒して決勝の舞台に上がった、この大会屈指のダークホースだったんだから!』


「これで優勝していたら格好よかったんだけど、準優勝だといまいち格好がつかないね」


『大丈夫だよ。この配信を見ているリスナーの殆どがあの大会を見てないから。決勝まで勝ち残ったToma君の雄姿は誰も知らないはずだよ』


「それなら余計に僕が誰だかわからないじゃん!?」


『そういうと思って今日はToma君の事がわかるように、大会の切り抜き動画を持ってきました!』


「えっ!?」


『Toma君の大会での活躍が垣間見れるショート動画になってるから、みんなも楽しみにしててね!』



 僕の大会の活躍を集めたショート動画だと!? その固有名詞を言われると、数日前に姉さんと見たあのショート動画を思い浮かべてしまう。

 それを再生させるということは、すなわち僕の黒歴史が公の場にさらされるという事だ。

 それだけは何としてもやめさせないといけない。これ以上あれを拡散されると、Tomaという人間が社会的に死んでしまう。



「あの、ちょっとまっ‥‥‥」


『それじゃあ再生するね。ではToma君の活躍をまとめた動画をどうぞ!』


『僕がFPSを始めた理由? それは昔好きだった女の子に自分の事を見つけてもらうためだよ』


「ぐはっ!?」



 やはり最初はこの切り抜き動画がきたか。これは単体で500万回再生を超えた、巷で話題のショート動画である。

 どうやらナナちゃんは僕の切り抜き動画の中でもっとも再生数が多かったものを持ってきたようだ。自分で言うのもなアレだけど、僕という存在を知ってもらうにはうってつけの動画だと思う。



『それは僕もわからない。でもその子が1番好きなゲームがFPSだったから、それをしていればまた彼女に会えると信じて、僕はFPSを続けているんだ』


「ごめん、ナナちゃん。この切り抜き動画は僕への精神的ダメージが大きいから、そろそろゲームの方に移らない?」


『何でダメなの? このシーンは決勝戦の前にToma君が優勝への意気込みを語った名シーンだよ!』



 ナナちゃんの悪気がないそのセリフが余計に僕のメンタルを打ち砕く。どうやら彼女は本気でこの言葉を僕の名言だと思っているみたいだ。



「(何とかしてこの状況を打破する方法はないかな?)」



 たぶん僕がいくらやめてと言っても、ナナちゃんは僕の切り抜き動画の再生をやめないだろう。

 そうなるともっともらしい理由をつけて、この行為を止めるしかない。



『続いてToma君のストレス発散方法を教えてくれる、この動画を見てもらいましょう!』


「ちょっと待ってよ、ナナちゃん!? それを見る前に大切な事を忘れてない?」


『大切な事って何?』


「その切り抜き動画って、他の人が動画サイトに上げている物を勝手に拝借した物でしょ? ちゃんと作成者に許可を取らないと、著作権的にまずいんじゃないの?」


『そう言われると、確かにToma君が言っていることは正しいかもしれない』


「でしょ?」


『でもそんな心配はしなくても大丈夫だよ。だってこの切り抜き動画は全部あたしが作った物だから!』


「何!?」



 今流れていた切り抜き動画はナナちゃんが自作したの物なの!? 

 確かに言われてみればこのショート動画は字幕や効果音が入っていて、今まで見た切り抜き動画の中では断トツでクオリティーが高い。

 


「(そういえばナナちゃんのチャンネルにショート動画がたくさん上がってたな)」



 もしかしたらあの動画も外注は使わずに、ナナちゃんが自作しているのかもしれない。

 彼女の編集スキルはその辺にいる編集マンよりも格段にレベルが高い。このショート動画を見る限り、しばらくはこれだけで食いつないで行ける程の技術力を彼女は持ち合わせている。



『ついでに言うと今回Toma君の切り抜き動画を作るにあたって、あの大会を主催した運営さんの許可ももらってるよ』


「えっ!? 運営さんはなんて言ってたの!?」


『大会公式ホームページに載ってるガイドラインに沿っていれば、大会の切り抜き動画を作っていいらしいよ」


「その話って本当なの?」


「本当だよ! あの配信アーカイブを好きに使わせてくれるなんて、運営さんも懐が広いよね!』



 まさかナナちゃんが大会運営に許可まで取っているとは思わなかった。

 僕は今画面上でニコニコ笑っているナナちゃんが怖い。彼女はきっとこうなることを見越して、事前に根回しをしていたに違いない。



「(この短期間でこんな大掛かりな仕込みをするなんて、よっぽど今日のコラボが楽しみだったんだな)」



 これではさすがの僕もお手上げだ。あの作戦が失敗した以上、彼女を止めるすべがない。



『Toma君の懸念事項が一通り解決したという事で、改めて動画を見てもらいましょう!」


「待って!? それは本当にまず‥‥‥」


「では、どうぞ!」



 その後ナナちゃんは僕のストレス発散方法を説明した切り抜き動画だけでは飽き足らず、昼休みの過ごしたかを話している動画までリスナーに見せた。

 その動画を見たリスナーの盛り上がりは最高潮に達しており、コメント欄では一様に草が生い茂っている。

 またその中には僕に親近感を持ったという猛者まで現れ、後に僕のSNSのフォロワーが爆伸びする要因となった。



「(配信開始直後から僕の心をえぐるような物を持ってくるなんて、ナナちゃんは鬼なのかな)」



 おかげでゲームを始める前なのにも関わらず、僕のメンタルはボロボロだ。

 この状態でちゃんとゲームが出来るか不安である。



「なんだかナナちゃんと話してたら、僕が決勝戦で負けた理由がわかったよ」


『それならよかったね。次はその点を直して、大会で優勝できるように頑張ろう!」



 こんな簡単に心が折れるから、僕は決勝で負けたんだ。

 あの試合の直後は負けた理由がわからなかったけど、こうして客観的に見るとわかる事もあるんだな。また1つ勉強になった。



『これでみんなToma君がどんな人かわかったでしょ?』


「出来ればみんなわかりたくなかったと思うよ」


『それなら更によく知ってもらうために他の動画も見てもらおう! まだまだストックはたくさんあるから、動画サイトには上がっていないあたしセレクションの動画を公開するよ!』


「その提案、謹んでお断りさせていただきます!!」



 この人はこの日の為に僕の切り抜き動画を何個作ってきたんだよ!! 

 僕の事が好きすぎるだろう!!



「それよりも早くゲームをしよう。いつの間にか雑談で20分も使ってるよ」


『本当だ! でもこっちの方が面白そうだし、このままToma君の過去の雄姿をみる枠にしない?』


「何を言ってるの!? それなら僕が今日ナナちゃんとコラボをした意味がないよ!!」


『冗談だって。そしたらそろそろゲームを始めよう!』



 この人の言っていることは冗談なのかわからない。

 コメント欄はかなり盛り上がっているけど、それに反比例して僕の気分は下がり続けている。



『それじゃあ早速エベを始めよう! 目指すチャンピオンだよ、チャンピオン!』


「はい」



 開始前から気がそがれたが、ようやくナナちゃんとのゲームコラボが始まった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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