第13話 頼れるお姉さん

『お待たせしました! 遅くなってごめんなさい』


「お疲れ様です。僕も今来た所なので、気にしないでください」


 

 神倉さんがティスコの部屋に入ってきたのは約束していた時間より20分も早い。

 本人は遅刻をしたと謝っているが、全然遅刻ではない。むしろ集合するのが早すぎて驚いている。



「(きっと神倉さんは僕が緊張していると思って早めに来てくれたんだ)」



 この前の打ち合わせの時といい、彼女の心遣いには感謝しないといけない。

 配信の時とはキャラクターが180度違うけど、これが彼女本来の姿なんだろう。

 彼女は人に気遣いが出来るしっかり者だということが改めてわかった。



「僕の方こそすいません。緊張していたせいで、約束の時間よりも早く来てしまいました」


『そう思ったので、あたしも予定より少し早く集合場所に来ました』


「お気遣いありがとうございます」


『いえいえ。あたしもToma君とお話をするのが楽しみだったので、早く来てくれて嬉しいです』


「えっ!? 神倉さんは僕と話したかったんですか!?」


『はい! この前のチャットが楽しすぎて、今日という日を待ちわびてました!」



 神倉さんも僕と同じ気持ちだったなんて驚いた。

 やっぱりあのチャットを楽しんでいたのは僕だけじゃなかったみたいだ。



「そういえば昨日は大丈夫でしたか?」


『はい、大丈夫です。ただその日は1日中眠かったので、全然授業に集中出来ませんでした』


「僕と同じですね」


『Toma君もそうだったんですか?』


「はい。昨日は僕も1日中眠たくて、授業中はずっとあくびをしてました」



 ギリギリ寝ることはなかったけど、机の上では常に船を漕いでいた。

 おかげさまで授業の内容が殆ど頭に入っていない。あとで復習をしないとゴールデンウイーク明けに行われる中間テストで、赤点を取ってしまうかもしれない。



『そういえばToma君は高校生でしたね』


「そういう神倉さんも学生ですよね?」


『そうですよ。よくわかりましたね』


「さっき神倉さんがという言葉を使っていたので、それを聞いて学生だと思いました」


『あら? それは口を滑らせましたね』


「そうでもないですよ。あの情報だけ聞いても、神倉さんがどのカテゴリーの学校に通っているのか僕にはわかりません。今の会話でわかったことは、僕と神倉さんの年齢が近いという事だけです。貴方の詳しい年齢までは僕もわかりません」


『それはよかったです』


「だからさっきの失言について、あまり気にする必要がないと思います」



 今の会話でわかったことといえば、神倉ナナが学生だという事だ。

 その情報がわかった所で、彼女の年齢なんてわかるはずがない。

 だからこれ以上この話をしても意味はないだろう。その事を追求するだけ時間の無駄だ。



『ありがとうございます。もしかするとあたしとToma君は歳が近いのかもしれませんね』


「それはないですよ。だって僕は神倉さんの事を年上のお姉さんだと思ってますから」



 彼女の余裕のある振る舞いを見る限り、おそらくは大学生だろう。

 大学生は大学生でも彼女は授業があると言っていたので、単位を取り終えて殆ど学校に行くことがない最上級生ではないような気がする。



「(たぶん神倉さんの年齢は姉さんが予測した通り、19歳~20歳ぐらいだろう)」



 だから神倉さんは僕からすれば大人のお姉さんだ。今の関係が劇的に変わる事はない。



『ありがとうございます。そしたら今日はお姉さんとして、Toma君の事をリードしてあげないといけませんね』


「よっ、よろしくお願いします。神倉さん」


『はい、任せて下さい!』



 今日の神倉さんはなんだか頼もしい。これなら僕も安心して配信が出来そうだ。



『あとこれはあたしからのお願いですが、これからはあたしの事はナナって呼んで下さい』


「えっ!? 名前呼びでいいんですか!?」


『はい! あたしのリスナーもみんなナナちゃんと呼んでいるので、あまりよそよそしくならないように、そう言ってもらえると嬉しいです』


「わかりました。それなら僕もこれからは神倉さんの事をナナちゃんって呼ぶことにします」


『ありがとうございます。あと出来れば敬語もなしでお願いします。配信中はあたしもタメ語で話すので、Toma君も遠慮なくタメ語で話してください」


「わかり‥‥‥わかった。そしたらナナちゃんも僕にタメ語で話して」


『もちろんそうするよ! 今日はよろしくね!』



 下の名前で呼ぶのは緊張するけど、ナナちゃんがそう呼んでほしいと言うのだからしょうがない。

 たぶんリスナーの前でそう呼んでも問題ないはずだ。そのぐらいの事で文句を言ってくるリスナーはたぶんいないだろう。



『もう少しで本番が始まるから、あたしが呼び込みをしたら通話に入ってきて』


「わかった」



 そう言ってナナちゃんは一旦通話を抜ける。あらかじめ開いていたナナちゃんのYourTubeの配信枠には『YourTube 配信まで しばらくお待ちください』という文言が表示されていた。



「この様子だとナナちゃんは今頃配信準備をしているはずだ」



 ボタン一つで配信を始められるとはいえ、放送事故が起きないように細心の注意を払わないといけない。

 今頃起動しているアプリが全て正常に動作しているか確認をしているのだろう。

 あと2、3分もすれば枠が開き、配信が始まるに違いない。



「とにかく僕は出来る限りの事を尽くそう」



 そうすれば自然と結果もついてくるはずだ。ナナちゃんも僕の事を助けてくれると言っていたし、落ち着いて今日の配信に望もう。

 僕がその場で気合を入れ直したのと同時にナナちゃんの配信枠が開いた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します。


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