第12話 配信の事前準備

 帰りのホームルームを終えて教室を出た僕は、寄り道をせず真っすぐ家に帰る。

 眠気が限界まできていたせいか、家に着くなり制服姿のまま自分の部屋のベッドの上で眠ってしまった。



「うん? ‥‥‥今何時だ?」



 スマホを見ると時刻は朝の8時を指している。

 どうやら僕は泥のように眠っていたらしく、気づけば土曜日の朝になっていた。



「僕は昨日家に帰ってきてからずっと寝てたのか」



 窓の外を見ると太陽が天高く昇っている。昨日寝る前に窓の外を見た時は日が落ちかけていたのに、いつの間にか昼夜逆転していた。



「昨日家に帰って来たのは17時頃だから、僕は家に帰ってきてから12時間以上も寝ていた計算になる」



 これだけ寝てしまうと気持ちよさよりも罪悪感が勝ってしまう。

 幸い今日は学校が休みなので、寝坊はしていない。それだけが唯一の

救いだった。



「今日は学校が休みだし、もう少し寝るか」



 布団を頭からかぶり、2度寝をしようとするが何か忘れているような気がする。

 誰かと重要な約束をした気がするけど、その約束が思いだせない。

 


「そうだ!? 今日は神倉さんとコラボ配信をする予定だった!?」



 何でこんな重要な予定を忘れていたんだろう。

 昨日家に帰ってきてからずっと寝ていたせいで、僕は彼女と配信する為の準備を何もしていなかった。



「少しでもエベの練習をしておかないとまずい!? 配信中に下手なプレイをしたら、みんなに笑われちゃう!?」



 昨日は帰宅してすぐ寝てしまったので、丸1日エベをしてなかった。

 どんなに時間がない時でも最低1時間はエベをしているのに、前日練習を忘れていたなんてとんだ不覚だ。



「少しでもゲームをして感覚を取り戻しておかないとまずい!?」



 こんな調子では神倉さんとのコラボ配信で醜態を見せてしまうかもしれない。

 ゲストとして呼ばれているはずなのにも関わらず、神倉さんにキャリーしてもらう事になったら赤っ恥をかいてしまう。



「こんなに暢気に過ごしていて、今日のコラボ配信で失態を犯したら笑えないな」



 それこそネット中に僕の悪評が広まるに違いない。

 そんな事になったらTomaの黒歴史がまた1ページ増えてしまう。それだけは何としても避けたかった。



「急いでエベの練習をしないと!? まずはパソコンの電源を入れて‥‥‥‥‥あれ? 姉さんから連絡がきてる?」



 こんな朝早くからどうしたんだろう。姉さんが僕に連絡をするとしても昼以降のはずなのに。この時間に連絡が来るなんて珍しい。



「もしもし」


『おはよう斗真。昨日はよく寝れた?』


「うん。おかげさまでぐっすり眠れたよ」


『そう、ならよかったわ。私は斗真が緊張して一睡もしてないと思ってた』


「ハハハハハ。ソンナワケ、ナイジャナイカ」



 ごめん、姉さん。僕が眠れなかったのは一昨日の夜なんだ。

 しかも緊張していたわけではなく、神倉さんと夜中にチャットをしていたせいで眠れなかったなんて、口が裂けても言えない。



『私はこれから仕事だけど、斗真のコラボ配信は見に行くわね」


「えっ!? 姉さんが僕の配信を見るの!?」


「当たり前でしょう。大切な弟の一世一代の晴れ舞台なんだから、見に行くに決まってるじゃない」


「一世一代の晴れ舞台だなんて、そんな大げさな‥‥‥」


「大げさじゃないわよ。斗真の事が世の中の人に知れ渡る大事な機会なんだから、姉として応援しなきゃ」


「言いたいことは色々あるけど、僕の事を応援してくれるのは嬉しいよ」



 僕の事を応援くれるのは嬉しいけど、身内からこんなに盛大に応援されると何だか気恥ずかしくなる。だが僕の事を応援してくれる気持ちは素直に嬉しい。

 姉さんがこんなに僕の事を応援してくれるんだから、今日のコラボ配信は絶対に成功させないといけない。その為には僕も出来る限りの準備をして配信に望もう。



「斗真の初配信、楽しみにしてるわね』


「任せてよ! 姉さんも仕事頑張ってね」


『もちろん私も頑張るわ。じゃあね、斗真。また後で話しましょう』



 姉さんとの通話を切って一息つく。

 どうやら姉さんは僕の事を心配して、仕事前にも関わらずわざわざ連絡をくれたようだ。



「よかった。僕が神倉さんとチャットをしていたことは、姉さんにバレていないようだ」



 一昨日の夜神倉さんとチャットをしていた事がバレなくてよかった。

 姉さんと話していた時はそのことがバレないかと冷や冷やしたけど、どうやらそれは僕の取り越し苦労だったらしい。



「神倉さんから連絡もないし、そろそろ僕も自分の仕事をしよう」



 FPSの熟練者として神倉さんのチャンネルに出るのだから、彼女のリスナーに下手なプレイは見せられない。

 だから少しでもいいプレイが見せられるようランク戦にソロで潜ってエベの練習をする。彼女や彼女のリスナーの前で格好悪い所だけは絶対に見せたくなかった。



「早速練習するか」



 それから神倉さんとの集合時間までの間、僕はずっとエベの練習をする。

 気がつくと外が暗くなり神倉さんと約束していた集合時間が近づいたので、僕はティスコの部屋に入り彼女が来るのを待った。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の8時に投稿します。


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひ作品のフォローや星評価、応援をよろしくお願いします。

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