第11話 華やかな集まり

「ふぁ~~~~眠い」



 教室に着いた僕は自分の席に座り、朝のホームルームが始まるのを待つ。

 席に座った後もずっとあくびが止まらない。その原因は昨日の夜から明け方にかけて、神倉さんとチャットをしていたせいだ。



「神倉さんとのチャット、楽しかったな」



 こんなに人と話していて楽しかったのは久しぶりだ。あの後話が盛り上がり過ぎて、気づけば朝までチャットをしてしまった。

 そのせいで僕は睡眠不足になり殆ど頭が働いてない。気を抜くと机に突っ伏して眠りそうになるので、太ももを指でつねったりしながら居眠りをしないよう必死に堪えていた。



「ふぁ~~~」


「どうしたの、菜々香? 珍しくあくびなんてして?」


「ごめん、美羽ちゃん。昨日ちょっとだけ夜更かしをしてたから、そのせいであくびが出るんだと思う」


「あの菜々香が夜更かしをしたの!?」


「もしかして菜々香もついに彼氏が出来ちゃった?」


「違う違う!? 昨日の夜海外ドラマを見てたらドはまりしちゃって。気づいたら朝になってたの」


「菜々香がドはまりしたドラマって、もしかしてこの前ウチがおすすめしたやつ?」


「そうだよ。ネトフルで独占放送してるやつ。美羽ちゃんが紹介してくれたあのドラマ、凄く面白かったよ」



 相変わらず月島さんと柊さんのいるグループは今日も楽しそうに話している。

 クラスの中でもあそこのグループだけは華がある。彼女達はこのクラスにいる男子達の心のオアシスといってもいいだろう。



「そういえば菜々香」


「莉緒ちゃん、どうしたの?」


「実は今度のゴールデンウイークに知り合いの大学生と合コンするんだけど、菜々香も参加しない?」


「ちょっと莉緒!? 菜々香を合コンに誘わないでよ!?」


「あれ? もしかして美羽も合コンに行きたかった?」


「別にウチは合コンに行きたいわけじゃなくて‥‥‥‥‥ってそんなことよりも、あんた彼氏がいるでしょ!?」


「うん。いるよ」


「それなのに何で他の男と合コンする計画を立ててるのよ!? そんなことしている暇があるなら、自分の彼氏を大事にしなさい!!」



 合コンか。なんだか華やかそうなイベントでいいな。

 僕なんてゴールデンウイークはずっと家でゲームをしている予定なのに。やっぱり華のある人達はやることが違う。



「美羽、何か勘違いしてない?」


「勘違い?」


「そうだよ。そもそも今回の合コンは私の彼氏が提案したの」


「何であんたの彼氏がそんなことを提案するのよ?」


「なんかこの前みんなで撮ったプリクラを彼氏の友達が見たらしくて、その人が菜々香達に会いたいって言ってたんだ」


「何でウチ等が写ってるプリクラを勝手に見せるのよ!! せめてそれを見せる前にウチ等に一言あってもいいじゃない!!」


「そんなに怒らないでよ。これは美羽達にとってもいい話なんだよ」


「いい話ってどういうことよ?」


「今回合コンに参加する人って、インカレサークルを運営している人達なんだって。彼氏にその人達が写っている写真を見せてもらったけど、イケメン揃いだったよ!」


「インカレサークル? なんか危険な匂いがするけど大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。私の彼氏もいるし問題ナッシング!」



 彼氏がいるから大丈夫って、それが安全な理由にはならないだろう。

 以前姉さんから『イベント系のサークルはたくさんあるけど、特にインカレ系は注意!! まともなサークルはもちろんあるけど、高確率で出会い目的の所が多いから入らない方がいい!!』と口ずっぱく言われていたので、その人達がまともな可能性は低い気がする。



「この前ツーショット写真を見せてもらったけど、莉緒の彼氏ってものすごくチャラチャラしてなかった?」


「してないよ。見た目はそうかもしれないけど、話すと面白いし優しい人だよ」


「莉緒はその彼氏と付き合って何ヶ月経つの?」


「この前の春休みに付き合ったばかりだから‥‥‥‥来週で丁度1ヶ月だ!」


「悪いこと言わないからその人とは絶対別れた方がいいって。付き合って1ヶ月も経ってないのに、他の女の子を合コンに誘うなんて最低だよ」


「彼氏の悪口を言わないでよ!! そんな事を言うなら、もう美羽は合コンに誘ってあげない!!」


「別にいいわよ!! ウチは彼氏なんていらないし、今のままでも十分幸せだから!!」



 いつの間にか月島さんがグループ内の友達と喧嘩を始めてしまった。

 お互い1歩も引く様子もないし、この喧嘩は長引きそうだ。



「2人共、そんな事で喧嘩しないの」


「「菜々香‥‥‥」」


「美羽ちゃんは昔からそういう所に行くのが苦手なんだから、無理に誘っちゃダメだよ」


「ごめん」


「わかればいいよ」



 さすが柊さんだ。人間潤滑油と言われてるだけはある。

 彼女がこの話に介入したことで、月島さん達の喧嘩が丸く収まってしまった。



「それで話を戻すけど、菜々香は私が主催する合コンに来てくれるよね?」


「あたしもそういうのはいいかな。お休みの日は色々とやる事があって忙しいから。今回は遠慮しておくよ」


「もう、菜々香までそんなこと言って!! 2人共奥手だからいつになっても彼氏が出来ないんだよ!!」


「それはあたしもわかってるよ」


「ならもっと積極的に動かないと、いい男なんて見つからないよ!!」



 本当に柊さんの友達は肉食系だな。あの子は確か池田莉緒さんだっけ?

 月島さんと似たようなファッションをしてるけど、彼女は月島さん程ギャルという感じがしない。だが彼女も月島さん達と一緒にいるだけあって容姿は整っていた。



「(ただ池田さんは月島さんや柊さんとは違って、いい噂を聞いたことがない)」



 僕が小耳にはさんだ話だと、彼女は今まで彼氏がいない期間がないと言われる程男好きだと言われている。

 なので恋愛関係についての経験は豊富に違いない。今まで異性と付き合った事がない僕とは正反対の人生を歩んでいるようだ。



「莉緒ちゃんの気持ちは嬉しいけど、あたしは大丈夫だから。自分の好きな人は自分で見つけるよ」


「もう! 菜々香にそう言われたら、私は引き下がるしかないじゃない!」


「最初からそうすればいいのよ」


「美羽は黙ってて。きっと他にも合コンに行きたい人がいるはずだから、その人達から誘う事にする。菜々香も気が変わったら私に連絡を頂戴」


「うん、わかった。誘ってくれてありがとう、莉緒ちゃん」



 柊さんのおかげでこの話は全員が納得する着地点を見つけたらしい。

 学内の2大マドンナと言われている月島さんと柊さん。その2人が見知らぬ大学生に取られなくてよかったとクラス中の男子が安堵しているに違いない。



「ふぁ~~~~」


「菜々香、本当に大丈夫? そんなに眠いなら保健室で休んできたら?」


「あたしは大丈夫だから。気にしないで」


『キーーンコーーンカーーンコーーン』


「ほら、チャイムが鳴ったよ。みんな席に戻ろう!」


「は~~~い」



 柊さんの号令に合わせて、4人の女子達が自分の席へと戻っていく。

 既に席についている柊さんは、次の授業の準備をしていた。



「何だろう? この違和感?」



 さっきまでずっと柊さんを見ていたけど、なんだか彼女の様子が変だ。

 彼女のどこが変なのか僕も説明できないけど、柊さんが池田さん達との会話を楽しんでいるようには見えなかった。



「みんな遅れてすまない!? 次の授業を始めるぞ!!」


「やばっ!? 僕も次の授業の準備をしないと!?」



 柊さんに見惚れていて忘れていたけど、次の授業の準備を忘れてた!?

 僕は慌てて机の中から教科書を取り出して次の授業を受けた。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の8時に投稿します。


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