第6話 清楚な美少女の雑談配信

 学校の授業が終わり教室を出た僕は寄り道をせず真っすぐ家に帰る。

 決して僕に友達がいないから寄り道をしなかったわけではない。今日はこれからやらないといけないことがあるので、急いで家に戻って来た。



「姉さんが昨日話していた神倉ナナって、どんな人なんだろう」



 昨日はミーティングが長引いてライブ配信のアーカイブを確認出来なかったので、神倉ナナの人となりを確認出来なかった。

 だから僕はこれから神倉ナナの配信を見ることにした。彼女の配信を見てこの人とコラボをするかしないか、姉さんに返事をしないといけない。



「姉さんは刺激が強いと言ってたけど、彼女は一体どんな配信をするんだろう?」



 まさかスプラッター系の配信をしているわけじゃないだろうな?

 一時期GT〇というゲームをマリ〇カートみたいに遊んでいる人もいたみたいだし、神倉ナナが似たような事をしていても驚きはない。



「パソコンの電源を入れて‥‥‥YourTubeで神倉ナナを検索! ‥‥‥ライブ配信のアーカイブは‥‥‥‥‥352本!? ほぼ毎日配信してるじゃん!?」



 デビューしたのは丁度1年前なので、週に5回以上は配信をしていることになる。

 ショート動画もたくさん上がっているとはいえ、配信ペースとしてはかなり多い。



「週に1~2回、中には月に1回配信するかしないかという人がいる中で、この配信ペースは驚異的だ。中々出来る事じゃない」



 お金の為とはいえ配信を趣味にでもしない限り、常人が毎日配信を続けることは不可能だ。

 この人はよっぽど配信活動が好きなんだろう。昨日姉さんが言っていたことは、あながち間違っていないようだ。



「今日も配信があるみたいだな。予定では‥‥‥デビュー1周年記念ライブか」



 まだデビューして1年しか経ってないのか。姉さんの口ぶりからして、もう何年も活動しているものだと思っていた。

 つまり彼女はこの1年という短期間で、チャンネル登録者数50万人を達成したことになる。これはこれで驚異的なペースだ。



「1年間毎日YourTubeに動画を投稿して、登録者が1000人未満の人もザラにいるのに。こんなにチャンネル登録者がいるんだ」



 たった1年でチャンネル登録者数が50万人を突破しているのは異常だ。大手の企業が運営しているならまだしも、個人で登録者数を50万人も集めるなんて普通だったらあり得ない。

 俄然この人がどんな配信をしているか興味が湧いてきた。早くこの人の配信を見よう。



「とりあえず直近の配信から見て行こう」



 彼女の直近の配信で目に留まったのは『最近あった話』という雑談枠である。

 FPSの腕前はどの程度かわからないけど、これを聞けば彼女の人となりはわかるだはずだ。



『みんなこんなな~~~。みんなを癒す清楚な美少女、神倉ナナだよ~~~』


「おっといけない!? ヘッドホンをつけ忘れてた!?」



 ヘッドホンをつけ、音声が周りに漏れないように彼女の配信を聞く。

 うっかりパソコンの音声が漏れて家族に聞かれたら大変だ。昔隣の部屋にいる姉さんに僕のパソコンの音声が聞こえていたらしく、壁パンをされたことがある。

 それ以来僕はPCを使う時はヘッドホンをするようにしていた。これは家族と生活する上で最低限のエチケットである。



「神倉ナナって、こんなに可愛い声をしてるんだ」



 神倉さんは他のYourTuber達と違って特徴的な声をしている。

 彼女が発するウィスパーボイスの可愛くて綺麗な声を聞いているだけで、僕の荒んだ心は癒されていく。



「さすが自分で清楚というだけはある。こんな人が僕とコラボしたいと言ってくれるなんて光栄だな」



 最初の挨拶の時に話していた、『みんなを癒す清楚な美少女』という二つ名は伊達じゃない。

 コップに入れたお茶を飲みながら、僕は神倉さんの配信をのんびりと聞く。こんなにリラックス出来るなら、お菓子も一緒に持ってくればよかった。



『それじゃあ最初の話題は、この前収録したデビュー1周年ライブの裏話ね』


「1周年ライブの配信は今日やるはずなのに、もうその話題を話すのか」


『今回のライブにはたくさんのゲストが登場するんだけど、スタジオに入ってすぐゲストで呼んだ女の子に胸を揉まれちゃったの』


「ぶっ!? いきなり何言ってんだ、この人は!?」



 唐突に胸を揉まれた話をされて、口に含んだお茶をモニターに吹き出してしまった。

 慌てて近くにあったティッシュでモニターを拭く。幸か不幸か僕のパソコンは一体型じゃないので、本体が故障する心配はない。



『よくA〇で『出会って5秒で即合体』ってタイトルがあるけど、出会って3秒で胸を揉まれたんだよ!! 思わず『〇Vより速いってどういう事!?』 ってその子にツッコんじゃった』


「そこは悲鳴をあげる所で、ツッコむところじゃないでしょ!?」


『ちなみにツッこむといっても、その子のデリケートゾーンに指を入れたわけじゃないよ』


「そんな事は言われなくたってわかってるよ!? この人は視聴者にどんな妄想をさせようとしているの!?」


『それに指を入れて気持ちよくなられてもあたしだって困っちゃうし。女の子同士もいけなくはないけど、やっぱり節度は持たないと駄目だよね』



 いつの間にか1周年ライブの話から胸の話に話題がシフトしている。

 まだ開始して5分も経ってないのに胸の話をするなんて思わなかった。

 話が脱線するにしてもさすがに早いと思う。



「これは1周年ライブについての宣伝配信じゃないの? 胸の話ばかりして、ライブの宣伝になってないよ」



 そんな僕の心配を他所に神倉さんは楽しそうに胸の話をしている。

 彼女曰く女性の胸には色々な形があるらしく、ふっくら丸いお椀型で上下均等な形通称ラウンド型や、ラウンド型よりも上の方の厚みが若干少ない滴のような形通称ティアドロップ型等、男が生きていても殆ど使わないような知識を教えてくれた。

 ちなみに神倉さんの胸の形はラウンド型らしく、このタイプはどんなブラでもつけられるらしい。必要ない知識だと思うけど、一応覚えておこう。



『胸もいいけどやっぱりお尻もいいよね。ちなみにあたしは胸より断然お尻派だよ!』


『『ななちゃんはその子のお尻を揉まなかったの?』 もちろん揉むに決まってるじゃん! 胸を揉むならお尻を差し出せってことわざがあるぐらいだし、何かを得るためには同等の対価が必要なんだよ!」


「そんなことわざがあるわけないでしょ!! どの地方にいる錬金術師の言葉だよ!?」



 僕は今神倉ナナの1周年記念ライブの裏話を聞いているんだよな?

 それなのに何故この人は胸とお尻という2大フェチズムの話をしているのだろう? 

 さっきの話と高低差激しすぎて、耳が痛くなるよ。



『今回ゲストに来てくれた子はみんな胸が大きかったな。 えっ! 『ななちゃんとの格差が如実に現れてる?』 何を言ってるの? こう見えてもあたし、Eカップはあるんだよ!!』


「『えっ!? Eを反転させると3にしか見えない』って!? そんな事をいうならじっくり見てよ!! この立派なEアップの胸を!!』


「何でこの人はYourTubeの画面いっぱいを胸で埋め尽くしてるの!? こんな事をしたら運営に垢BANされちゃうよ!?」



 そんな僕の心配なんてお構いなしに胸の谷間を画面いっぱいに拡大表示させる神倉さん。

 その豊満な胸を上下に揺らし、自分の胸が大きいと言う事をリスナーに向けてアピールしている。



『ほらほら見て見て! これが自慢のEカップの胸だよ』



 これだけ豊満な胸を上下に揺らされると目に悪い。こんなに質感が滑らかで張りのある胸を見せられると、僕自身が神倉さんに対して邪な気持ちを抱いてしまう。

 


『これであたしの胸は小さくないって事がわかったでしょ?』


「そんなことは最初からわかってるよ!?」



 この配信を見た時から彼女の胸は人並み以上にあるという事はわかっている。

 それをあえてリスナーに見せつけるなんて、この人はなんて大胆な事をするんだろう。



『みんなわかった? 次にそんな酷い事を言ったら、今度はもっと布面積が少ない衣装で、このたゆんたゆんの胸をアップで見せるからね!!』



 一通りリスナーに胸を見せて満足したのか、画面いっぱいに写っていた胸から徐々に顔の方へとシフトしていく。

 この話題が終わって本当によかった。このままこの光景を見せられたら、僕はこの後もずっと悶々とした気持ちを抱えることになった。



『何々‥‥‥『ナナちゃんの笑顔が可愛すぎて、怒ってるようには見えなかった』‥‥‥ありがとう! それなら特別にさっきのことも許してあ・げ・る♡』


「何なんだ、この配信は?」



 さっきから神倉さんの情緒が不安定過ぎて、僕もどうしていいかわからない。

 もしかして僕が知らないだけで、神倉ナナってこういう人だったの? 僕が思い描いていた人物像とは大きくかけ離れている。



『えぇっと、何の話をしてたんだっけ? ‥‥‥そうだ! 周年配信の裏話だね!』


『確かゲストの子のお尻を揉んだ話の続きだよね? 『そうそう』『あってる

あってる』 わかった! そしたら続きを話していくよ!』


『その子のお尻をたっぷり堪能した後他の子が撮影スタジオに入ってきたから、あたしはあいさつ代わりにその子の豊満な胸に顔を埋めて‥‥‥』



 それからこのアーカイブが終わるまで約1時間、僕は黙って彼女の雑談もといセクハラ配信を聞いた。


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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時頃に投稿します。


最後になりますが、この作品が面白いと思ってくれた方はぜひフォローや星の評価、応援をよろしくお願いします。


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