第7話 純粋な気持ち

 神倉さんの雑談配信を全て聞き終えた僕が彼女に抱いた感想。それは神倉さんがエッチな話が好きだという事。その1点のみわかった。

 誤解するとまずいので念の為他の配信も一通り見たけど、どれも同じような内容だった。

 基本的に神倉さんがリスナーにエッチな話を振り、その話題を元にリスナーとプロレスをする。そういう配信が非常に多かった。



「姉さんが『僕には刺激が強い』と言っていた理由はこれだったのか」



 この人の配信は他の配信者よりも過激な内容が多い。だから高校生の僕には刺激が強いと姉さんは言ったのだろう。

 特に彼女が行うASMR配信。あれは高校生の僕には刺激が強かった。

 たぶんリスナーの中にはあれをオカズにする人もいるんだろうな。R18指定はされてなかったけど、そのぐらい過激な内容だった。



「普通に考えたら今回のコラボは見送りたいところだけど、姉さんの言う通りこの人と相性は良さそうなんだよな」



 彼女がエッチな話の合間に時折話すアニメや漫画のタイトルが全て僕の好きな物だった。

 それこそこんなに趣味が合う人がいるのかと思う程、僕と神倉さんの趣味嗜好が一致している。



「こんなに気の合う人と会う事はこの先きっとないだろう」



 だからこそ僕は彼女と話がしたいと思ってしまった。



「姉さんの言う通りこの人となら楽しく配信が出来るかもしれないけど、それ以上に不安要素ある」



 僕がこのコラボ配信に対して感じている不安要素。それは雑談配信の時彼女がよく話題に上げるエッチなトークを振られた時の対応だ。

 僕がベテランの配信者なら彼女の無茶ぶりを捌ききることが出来たかもしれないけど、生憎今回が初配信。正直上手く話を返せる自信がないので、この話は見送った方がいいかもしれない。



「最後に昨日姉さんから送られてきたこのFPSの配信を見て、お断りのメールを送るか」



 メールの文面を考えながら、僕は姉さんから送られてきたURLを聞く。

 姉さんが送ってくれた配信のURLは、ちょうど僕が出演したFPS大会直後の配信である。 

 その配信中、彼女は気になることを話していた。



『そういえばみんな、この前のエベフェス見た? あたしその日はずっとエベフェスを見てたんだけど、凄い人がいたよね』


『そうそうそう!! Tomaって人! 初出場なのにこんな大きな大会で準優勝するなんて、本当に凄いと思った!』


『しかもあの人、他の人と違って配信活動とかしてないんだよ! それなのにあんなに話が上手くて凄いよね!! あたし尊敬しちゃう!」



 僕なんて尊敬する価値もないのに。配信内で神倉ナナは僕の事を絶賛してくれる。

 よほど僕の話に熱中しているせいか、いつものようなエッチな会話はない。

 それだけ彼女が僕に興味を持っているのだろう。大人特有の打算やしがらみに囚われない彼女の純粋なその気持ちに感銘を受けた。



『ネットで生中継もされてて、絶対緊張していたはずなのに。あんな面白話をしながら大会で準優勝するんだよ! あたしも今年で配信2年目になるけど、あれだけ流暢に出演者と話せて、それでいてゲームが上手いなんて本当に凄いと思う!!」


『『ナナちゃんはTomaとコラボしないの?』 う~~~ん、どうだろう? コラボしてくれたら嬉しいけど、難しいよね』


『FPSの大会で本大会まで進む事が出来るような人達は、あたしみたいな個人勢よりも大手企業とコラボするでしょ。そっちの方が配信活動を始めた時、人が大勢集まるから絶対にいいよね』


『『もしTomaとコラボしたらどうする?』 それはもちろん先輩として会話をリードしてあげたいな。配信中ずっと話しているのは大変なはずだから、出来るだけフォローしてあげて彼のいい部分を引き出してあげたい!』


「なるほどな、そういうことか」



 何故姉さんがこの配信URLを僕に送ったのか。その理由がやっとわかった。

 彼女の人となりがわかる配信がたくさんあるのにも関わらず、あえてこの配信を選んだ理由。それは彼女が僕に対してどんな思いを持ってコラボ配信を打診したのか、それを伝えたかったに違いない。



「もしかしたら姉さんはこの配信を聞いて、この人とのコラボを僕に勧めたんだろうな」



 昨日の夜姉さんも言っていたけど、神倉さんが僕と遊びたいという気持ちは彼女の本心かもしれない。

 エべックスをしている彼女は楽しそうにゲームをしていたし、今画面上で見ているこの姿こそ彼女の素顔のような気がしてきた。



「こんなに熱狂的な誘い方をされたら、さすがに断り辛いな」



 リップサービスの可能性は捨てきれないが、この人の気持ちに嘘はないと思う。

 僕と一緒に配信をするなら、先輩として僕の事をフォローしてあげたいという気持ちは彼女の本心だろう。



「しょうがない。このコラボを受けるか」



 僕はお断りの文面を削除して、新たに神倉さんとのコラボ配信を承諾する文面を作り姉さんに送る。

 メールの返信がきたのは僕がメールを送信してから数分後。更にその1時間後には神倉さんとコラボ配信の打ち合わせをする日程が決まった。



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ここまでご覧いただきありがとうございます

続きは明日の7時に投稿します


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