第2話 準優勝の代償
始業式が終わり無事高校2年生に進級した日の夜、僕は実の姉である
何故こんな夜遅い時間に実の姉とビデオ通話することになったのか。それは仕事で忙しい姉さんの空き時間が、そこしかなかったせいだ。
「えっ!? 僕にコラボ配信のオファーが来てるの!?」
『しっ!! そんなに大きな声を出さない。もうみんな寝ている時間なんだから、近所迷惑になるでしょう』
「ごめん」
現在の時刻は22時。早い人だと既に寝ている時間帯である。
正直僕も平日のこの時間にミーティングをするか悩んだけど、あえてこの日を選んだ。
僕がこの日を選んだ理由。それは今日を逃すと土日のどちらかにミーティングをすることとなり、お互いの休みを潰す可能性がある。
姉さんからも『今週は出来れば平日にミーティングがしたい』と言われたので、この日にミーティングをする運びとなった。
「でも、僕にコラボ配信のオファーなんて冗談じゃないの? まだYourTubeのチャンネルさえ持ってないんだよ?」
『チャンネルは持ってなくても、斗真は今年の春行われたFPSの大会で準優勝したでしょ? そのせいでコラボ配信のオファーが殺到してるのよ』
「何で優勝者じゃなくて、準優勝者である僕にオファーが殺到してるの? 普通逆じゃない?」
『確かにそうね。普通はこういったコラボ配信は優勝者にオファーがくるものよ。準優勝者なんて見向きもされず、次の年には名前なんて誰も覚えてないわ』
「姉さんが僕の事をどう思ってるかよくわかったよ。でもそれは一旦置いておくとして、それなら何で僕にコラボ配信のオファーが殺到してるの?」
確かに僕はこの春行われたFPSの大会にToma"というハンドルネームで参加して、みごと準優勝した。
かなり大きな大会だったのでSNSのフォロワーが増える等、それなりの反響があったのは僕も記憶に新しい。
だが優勝者よりも準優勝した僕の方が話題になっているなんて意味がわからない。
普通なら僕よりも優勝者の方にコラボ依頼が殺到するはずなのに、何故僕の方にコラボ依頼がたくさんくるのだろう。その理由がわからなかった。
『理由は単純よ。優勝者よりも斗真にオファーがくるのは、単純に貴方の方が優勝者よりも面白いからよ』
「そうかな? あの大会で僕に面白要素なんてなかったと思うけど?」
『自覚がないなら嫌でも自覚させてあげるわ。今動画を共有させたから、この大会の切り抜き動画を見て』
姉さんが僕のパソコンに共有してくれた動画。その動画を姉さんはすぐに再生させた。
『TomaさんってFPSも上手いし、絶対モテますよね?』
『全然モテないですよ。いつも学校では1人ぼっちです』
『面白い冗談ですね。学校に友達が1人もいないんですか?』
『はい。嘘だと思うかもしれませんが、本当に友達が1人もいないです』
『えっ!? それなら昼休みはいつもどうしてるんですか!?』
『そうですね‥‥‥昼休みはいつも屋上のドアの前に行って、人が来ないことを祈りながら総菜パンを食べてます。たまに屋上に人が来て気まずい雰囲気になるのが嫌ですけど、それさえ我慢出来れば最高の食事スポットですよ』
『ハハハハハ、ソウナンデスネ。ちなみにもしそこに人が来た時はどうするんですか?』
『そうなったらダッシュで階段を駆け下りてその場から逃げます。それから中庭にある僕しか知らない秘密のスポットで、1人寂しく昼食の続きを‥‥‥』
「ちょっと待ってよ、姉さん!? 僕の黒歴史をいきなり流さないで!?」
突然黒歴史映像を流されたせいで、さっきから動悸が止まらない。
若気の至りとはこういうことを言うのだろう。動画には声しか載ってないが、陰キャ全開の自分を見て自然と机に頭を打ち付けていた。
『この動画は100万回再生を超えてるわ。次の動画に行くわよ』
「待って姉さん!? 僕はまだ心の準備が‥‥‥」
さっき見ていた動画を消すと姉さんは次の動画を表示させる。
まだ僕の心の準備が出来ていない状態にも関わらず、姉さんは次の動画が再生させた。
『私ストレスが溜まると物欲が強くなるんだよね』
『俺は物欲よりも食欲が増す』
『滝さんは食欲なんですか。そんなにバクバク食べてると太りますよ』
『そんな事は俺だってわかってるよ。そのせいで最近体重が2kgも増えちゃって。本当に困ってる』
『それは自業自得じゃないですか。そういえばTomaさんはストレスが溜まった時、どうやって発散していますか?』
『FPSで相手をなぎ倒す』
『『えっ!?』』
『ただなぎ倒すだけじゃなくて、煽りプレイしてきたプレイヤーを出来るだけ屈辱的な倒し方で倒すのがいいんだよ。それが1番気持ちいいし、今の僕のストレス発散方法かな』
「うがあああぁぁぁぁぁぁ!! やめてくれえぇぇぇぇぇ!!!!! 全部冗談のつもりだったんだよ!! それなのにあんな周りからドン引かれるなんて、思わなかったんだ!!」
僕の渾身の冗談で場が凍り付いた時の雰囲気は南極よりも寒かった。
正直ゲーム画面越しだったので2人の表情はわからないけど、僕が滑ったことだけはその場の空気で十二分に伝わった。
『これが200万回再生を超えた動画よ。次の動画は‥‥‥」
「まだあるの!?」
『次が最後よ』
姉さんが最後に送ってきた動画。その動画はすぐに再生された。
『僕がFPSを始めた理由? それは昔好きだった女の子に自分の事を見つけてもらうためだよ』
『どういうことですか?』
『小学生の頃、僕にはずっと好きだった女の子がいたんだ。その女の子はみーちゃんと言って、放課後になるとずっと2人で公園のベンチに座ってゲームをしていたんだ』
『Tomaさんも昔は友達がいたんですね』
『昔は余計だよ。でも中学に進学した直後、突然その子が公園に来なくなって会えなくなったんだ。あの時はものすごくへこんで、1日中家に引きこもってた』
『へぇ~~~。その好きだった女の子は引っ越しでもしたんですか?』
『それは僕もわからない。でもその子が1番好きなゲームがFPSだったから、それをしていればまた彼女に会えると信じて、僕はFPSを続けて‥‥‥‥‥‥』
「すいませんすいませんすいません!!!!! お願いですから、今すぐこの動画を消してくださああぁぁぁぃぃ!!!」
これはこの大会における過去最大級の爆弾。ネットに残る僕の黒歴史である。
決勝戦前で緊張していたこともあり、頭が真っ白になっている状態でつい口走ってしまったエピソードトークだ。
『この切り抜き動画の再生回数が500万回もまわってる。他の大会動画は数千回しか再生されてないのに、斗真の切り抜きだけは今でも爆発的に伸びて続けているわ』
「姉さんの権限でこの切り抜き動画を消すことは出来ないの?」
『出来ないわ。削除申請をしたところでどうせまた別の動画が上がるから、いたちごっこになるだけよ』
姉さんがこう言っているんだから諦めるしかない。幸いにも顔バレはしてないので、このまま顔だけは特定されないよう慎ましく生きて行こう。
『配信もしたことがないただの一般人の切り抜き動画がこれだけバズってるのよ。再生数が欲しい配信者は、こぞって貴方にオファーするでしょうね』
「なるほど。配信者にとって僕は金のなる木ということか」
『そういうことになるわ。斗真はチャンネルを持ってないからその分の数字も相手に上乗せされるし、コラボ相手としてはウハウハなんじゃない?』
「そう考えると相手に利用されているようで嫌だな。やっぱりこのコラボ配信の話はなしにしてもらっていい?」
『そういうと思って、私の方でコラボする配信者を選んで置いたわ』
「えっ!? もうコラボ配信が決まったの!?」
『まだ決まってないわ。貴方がこの人とやりたいって言うならオファーを受けるけど、やりたくないなら断るつもりよ』
こういう所は姉さんらしい。姉さん自身は僕にコラボ配信をしてほしいと思ってるけど、最終的な判断は全部僕に任せてくれる。
いつもは傍若無人に振る舞ってはいるが、人が嫌がる事をなるべくしないのが姉さんのいい所である。
「(春に行われたFPSの大会の時もそうだった。『たまたま枠が空いたから出場して見ない?』って姉さんは話してたけど、あれは僕の為に仕事を取ってきたに違いない)」
僕がその仕事を受けるかわからないのに準備だけは人一倍する。
だから姉さんからの頼みは断りにくい。仕事を取るために色々な会社を駆け回っている事を知ってるからこそ、簡単に断ることが出来なかった。
「それならコラボする相手が誰なのか教えてもらえないかな? その人がどんな人なのか僕も確認して、問題なさそうならこのオファーを受けるよ」
『わかったわ。今その人の情報を送るから。ちょっと待ってて』
僕がコラボ配信に前向きだと思ったのか、姉さんは嬉しそうにパソコンを操作している。
画面共有をしてもらうと、先程僕の黒歴史動画が流れた箇所に、僕のコラボ相手の情報が表示された。
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ここまでご覧いただき、ありがとうございます。
続きは明日の8時頃投稿しますので、よろしくお願いします
最後になりますが作品のフォローや応援、星評価をよろしくお願いします。
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