04.三女(魚座)

 愛したかった。


 彼女の肌は雪のようだ。

 穢れを知らない天使のようだ。

 幼い頃からそうやって思われ、そうやって育てられ、今年でもう25だというのに幼子のようなワンピースを着せられている。

 装飾品のように。崇拝するように、私はいつだってそうやって見つめられていた。


 穢れを知ってはいけない。菌に触れてはいけない。有害な何かに近付いてはいけない。

 そんな事を言われ、そんな風に生きさせられていた。


 変なやつから言われる。

「愛されてるから良いじゃん」なんて。

 ふざけるな。私は自由に生きたいのに。


 25の誕生日に、私の美しさのせいで、私を神の子として崇める団体が現れた。

 そいつらのおかげで、私は尚更生き辛くなってしまった。

 風呂や排泄に至るまでを監視される日々。

 そんな日々を「愛されてるから良いじゃん」なんて言いやがったあの馬鹿の顔をひっぱたいてやりたかった。

 今すぐにでもひっぱたいてやりたい。

 金を払えば許されると思ったか?

 謝れば許されるか?

 そんなわけがないだろ。何をしたって許せるわけがないだろ。


 ある時、もう我慢できないと腹が立った私は、自分の筆箱からボールペンを取り出した。

 それで、自分の腕へ何度も線を引き、めちゃくちゃな絵を描いた。

 みみず腫のように腫れ上がる腕、バランスの悪い薔薇。

 それを見て私は、気分が高揚した。

 とても綺麗だ。そう思った。

 冷やされ、怒鳴られ、蔑まれた。

 それでも私は、綺麗だと思った。思っていた。



 25の最後の夜、家から抜け出した私が向かった先は、タトゥーショップだった。

 あの時のアンバランスな薔薇を忘れられなかった。

 タトゥーショップにいた虎のタトゥーが入った二人の女の子が、私の体を見てこう言った。

「綺麗なキャンバスだね」


 ああ。


 なんだ、バレないんだ。

 じゃあ、いくらいれたって、何も変わらないじゃないか。

 みんな、私の表面しか見ていないじゃないか。

 服の下に何があっても、腹の底に何があっても、みんな気付かないんだ。


 排泄だって隠そうと思えば隠せたんだよ。

 セックスだろうがオナニーだろうが隠そうと思えば隠せんだよ。バカみたいだな。

 変わらず純と呼ばれる私。


 一夜を共にした相手。顔が好みで口が固そうな信者のうちの一人。そいつにタトゥーがバレた。

 少し怖かった。もし、こいつが私の事を慕う馬鹿共にチクったらどうしよう、と。



 彼は私の頭を撫でた。

「嫌だったね」

 驚いた。

「言ってくれてありがとう」

 抱き締めてくる彼。

「あ……」

「…あのね、いくら、どんな人に慕われようが」

「うん」

「君が嫌なら嫌って言っても良いんだよ」

「……うん」

「君の事を救えはしないかもしれないけど、理解者にならなれるから」

「理解者にもなれるわけないだろ、救う気無いなら離せや気持ち悪い」



 見下すな。同情もするな。

 私は私として生きる。

 崇拝されながらも、馬鹿共の裏で綺麗なキャンバスにタトゥー入れまくってやる。

 好き勝手に絵を書いてやる。

 色んなものを吸収して好き勝手に生きて死んでやるんだよ。

 私の物語は悲劇じゃない。

 何が悲劇だ、ぶち殺すぞ。

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