巨根とワイバーン

店の外に出た皆が突如現れたドラゴンに思わず目を奪われてる。


ドラゴンは頭上三十メートル程離れた高さで翼をはためかせながら我々を見下ろす体勢をキープしている。


「ワイバーン…。」


声がした方を見るとすぐ隣でエリスちゃんがいた。


本当にノーブラなんだなぁ…。


現代の日本じゃ絶対にお目にかかれないよ。お目にかかれたとしてもおばさんか、ばぁさんだもんな。


また勃起しても仕方ないのでワイバーンさんの方を見ると何やら先方から視線を感じる気がする。


『妙な光が見えたので来てみたがどうやら杞憂であったみたいだな。』


ワイバーンさんって喋るんだなぁ。


「ワイバーンがこんな所に何の用件で来た!?」


エリスちゃんが果敢にもワイバーンさんに話しかけている。この子度胸あるなぁ。俺なんて怖いから早くどっか行ってくれないかなぁとかこっちが逃げちゃえばいいかなぁとか考えてたのにすごいわ。でもあんまりワイバーンさんを刺激しないでほしいな。


『だから言ったであろう。妙な光の正体を確認しに来たのだと。お前が馬鹿なのか、人間という種そのものが愚かなのか判断に苦しむ』


ワイバーンさんがエリスちゃんを刺激しちゃってるわ。この子はこの子で頭に血が上ったらすぐに剣を抜くからそういう意味では危険度はエリスちゃんとワイバーンさんは同じなのかもしれない。


ところでこのワイバーンさん、レベル的にはどんなもんなんだろう。ちょっと気になってきた。


というわけで鑑定。


名前:ヴァネッサ

ジョブ:ホームレス

Lv.985(処女)

HP:568523/568523

MP:265869/265869

攻撃力:8754775

防御力:745675

体力:58555242

魔力:69865254

魔法防御力:5826353

美しさ:89565

運:65923


もうラスボスじゃん。

転生二日目でラスボス登場しちゃったよ。これはもう人類にどうすることも出来ないと思うんだよ。

えー、この世界はこういう災害クラスの生き物が沢山いたりするのか、どうなのか。ちょっと後悔しちゃうかもなぁ。


「ぐっ、わ、私はヴァレンタイン帝国、近衛騎士、エリス・ウェントワースよ!その光の正体がどういうものなのかはわからないけれど、ここはヴァレンタイン帝国の首都よ!我々民に攻撃をするというのであれば国の総力を以てあなたを排除するわ!!」


エリスちゃん、煽らないで。この国の軍事力がどの程度なのかなんて全くわからないけどこれは相手にしちゃダメな相手だよ。ワイバーンさんの靴を舐めてでも許しを請うレベル。靴はいてないけど。


『重ね重ね言うがお前は馬鹿か。何故、我が貴様らごとき人間を攻撃せねばならぬのだ。お前はわざわざ蟻の巣を探してその巣を攻撃したりするのか。お前らがここに巣を張ろうと何をしようと我には些末な事過ぎる。』


「・・・。」


ごもっともすぎるご意見にエリスちゃん完全に沈黙。ワイバーンさんがどれだけ長生きしてるのかはわからないけど、やっぱり思考と年月って影響するしあうよね。じいさん、ばあさんってあんまり喧嘩しないもん。


『ただまぁ、貴様らを暇つぶしに殺して楽しめるのであればそれもやぶさかではないがな。』


ワイバーンさんの口角がニィっと上がったような気がしたと思ったら翼を大きくはためかせ高度を大きく上げた。


「まずい!みんな逃げろ!!!」


エリスちゃんが声を張って周囲のみんなに呼びかける。すぐに周囲の冒険者が建物に入ったり剣を抜いたりして臨戦態勢に入る。


え、ちょっと待ってよ。異世界一年生の俺にはそんな臨機応変に戦闘モードに入れないって。

きょろきょろしてるとワイバーンさんにさらに動きがあった。


大きくのけぞったと思ったら口からものすごい量の炎を吐き出した。空が一面オレンジ色に染まる。


あ、これは死んだわ。


焼死って結構えぐい死に方だなぁ、嫌だなぁ。


もう炎が目の前にまで迫っている。熱い・・・。


結局のところ、セックスするために異世界転生しても童貞のまま死ぬことに抵抗がないわけではない。だが目の前のどうしようもない脅威に対してここまで為す術がないと諦めるほか無いようにも思える。

昨日やっぱりエメリアちゃんの寝込みを襲っておけばよかったなぁ。


あぁ、神様、せっかくの機会をご用意して下さったのに結局童貞のまま生涯を終えてしまうことをお許しください。


二日ぶりにお会いすることとなりますがどうか笑わないでやってください。


目をつぶったまま、一昨日会った神様に祈りを捧げること数瞬、熱さを感じながらもその身が燃えてる気配が全然感じられない。


おそるおそる目を開けてみるとなんとバリアが張られているではないか。


バリアの表面は透き通って向こう側が見えるが若干緑色に光っているようにも見える。また表面には筋が張り巡らされておりその筋がところどころ分岐しているようにも見える。これは外側からオレンジの炎がずっとバリアの表面で止まっているから見えているのだろう。


この町全体を覆うようにドーム状に広がっているようにも見える。でかい。このようなバリアを張るってことはおそらく魔法使い系のジョブの方なんだろうけど周囲の冒険者さんたちは一様にバリアに目が釘付けで杖をかざしているような様子は見受けられない。しばらくすると冒険者さんたちも周囲の方々を見まわし、「え?誰のバリア?」「お前じゃないの?」「いや、こんなでかいバリア張れないわ」「っていうかでかすぎない?」「この規模のバリアとか初めてなんだけど!?」等と騒ぎ始めた。


その様子に驚いているのも束の間、ずっと浴びせられていた炎が小さくなっていき、やがてワイバーンさんの姿がこちらからも確認できるようになった。


炎の光がおさまったからだろうか、バリアらしきものは闇の中に溶けていくように見えなくなった。


ワイバーンさんがこちらをじっと見つめたまま、しばらくそのまま浮遊していた。言葉を探しているのか、どうやら思案顔に見えなくもない。


『我の知らぬ間に貴様ら人間は進化でもしたのか?』


「ど、どういうことよ!?」


ワイバーンさんの問いに対してエリスちゃんが聞き返す。


『いつから人間は生殖器を使ったバリアを張れるようになったのだ。』


生殖器ですってよ、奥さん。


周囲の冒険者さんたちの視線が俺に集まる。


あー、あのバリアって俺が張ったんだぁ。血管みたいに見えたのは金玉の部分かな。何もしたつもりないんだけどなぁ。


唖然とした表情でエリスちゃんがこちらを見ていると思ったら今度はニィっといやらしい表情を向けてくる。


エリスちゃんはワイバーンさんの方に向きなおすと声も高らかに言い放つ。


「貴方が何百年ぶりに人間を見たのかはわからないけれど、私たちの命は貴方たちよりもとても短いの。だからこそ、貴方の想像以上に進化するスピードが早いのよ!これに恐れをなしたのなら早々に立ち去ることをお勧めするわ!!」


俺の金玉バリアさも、自分の手柄のように誇りノーブラの胸を張る近衛騎士の姿がそこにはあった。


『ふむ。その程度のバリアで我の攻撃を全て受け止められるとは到底思えんが久々に驚く光景を見ることができた。』


エリスちゃんの言葉に対して恐れる様子もなく淡々と受け答えするワイバーンさんはおそらく本当に聡明なんだろうな。


『先ほどのバリアは貴様の横に立っている男が張ったように見えたが他の奴らでもこのような芸当ができるのか?』


おっと、バリアの施工主が秒でばれてしまった。あんな怪物に認識されるとか悪夢でしかないわ。


「え?・・・えぇ、そうよ!先ほどのはこの男の固有スキルだけれど私たち全員がそれと同等、もしくはそれ以上の固有スキルを持っているわ!!」


え?そうなの??

エリスちゃんの生殖器スキル是非見たい。

あれかな、乳首からセクシービームなるものが出たりするのかな。エリスちゃんの乳首から全力で攻撃されたい。


と思ったけれど、周囲の冒険者さんたちが「何言ってるんだこいつ」って目でエリスちゃんを見てる。


なんだ、ワイバーンさんへのハッタリか。


どこかから小さな女性の声で「固有スキルなんて持ってないわよぉ・・・。」と震えた声でのご報告まで聞こえてきたから間違いないだろう。


『ほう、それこそ数百年ぶりに楽しみが増えたな。こんなに胸が躍る感覚は久々だぞ。』


そう言うとワイバーンさんは翼を大きくはためかせながら更に高度を上げていく。


『近いうちにまたここに来よう。その時は隣の男とも話してみたいものだな。男、貴様の名前を聞いておこう。』


え?また来るの??

もうよくない?十分楽しんだっぽいし数百年後にまたどんなふうに人間が進化したのか確認しに来たらいいじゃん。えー。名前言うのぉ?個人情報を晒すの??

エリスちゃんがこっちを見てる。


「偽名がばれて暴れられても大変だ。本名をそのまま伝えたほしいのだけれど。」


「・・・鈴木と申します。」


これ、エリスちゃんって実はトラブルメイカーなんじゃないのかな。余計なことを口走らなければワイバーンさんも変な興味の持ち方しなかったと思うんだけど。


『スズキか。変わった名だな。しかと覚えた。また会おう。』


言うとそのまま百八十度旋回して飛んで行ってしまった。


周囲は誰も声を発することなくエリスちゃんをジト目で見つめている。


「だ、だって仕方ないじゃない!!ビビらせてこの街に関わるのをやめさせようと思ったのよ!」


エリスちゃんはワイバーンさんが言うように若干お馬鹿さんなのかもしれない。

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